14 人に憑く怪異の対処、その悪手について 上

「変化……ですか」


「そう、変化だ。例えば妙な言動が目立つようになったとか……それこそ怪異に憑かれているんじゃねえかって思うような変化がよ」


「……」


 そんなものは即答できる程明確に見付けている。

 既にそうした変化があったからこそ、自分達二人は此処に来るに至ったのだから。


 この先の事は同僚の自分ですら何も話せて貰えていないような話だ。

 霞が話そうとしてくれないデリケートな話。

 相手が秋葉とはいえ、そう簡単に話して良いものかと当然考えはする。


 寧ろ秋葉だからこそ。


 紛れもなく怪異の専門家である秋葉善次郎に事の詳細を話す事は、今の霞の望まない形で事を進める結果になってしまう気がする。


 だから。


「いえ、特には。俺が見る限りいつも通りって感じでしたよ此処最近ずっと」


 とりあえずはそういう風に誤魔化しておく。


「……お前が本当に知らねえのか知ってて隠してるのかは分からねえが、後者だとしても俺ぁ尊重するぜ。第三者、それもさっき知り合ったばかりの赤の他人に何でもペラペラ話していい程、人様のプライバシーってのは軽いもんじゃねえからよぉ」


「……すみません、そう言ってくれると助かります」


「おいおい、それだと隠してる事をさっそく認める事になんだろ。いいのかよ」


 それはその通りである。

 それでも。


「秋葉さんの言葉の通りなら、俺が感じた変化について無理矢理追求してくるなんて事はないかなと思いまして。だとしたら……嘘を吐いたままってのもちょっと」


「そいつぁいい心掛けだ。嫌いじゃねえよ」


 どこか機嫌良さげにそう言う秋葉に真は問いかける。


「あの、秋葉さん。質問に答えられてない立場で聞くのもアレなんですけど、なんでこんな事を……って聞くのもおかしいですね。何に引っ掛かってこういう話をしてくれたんですか?」


 こちらから話せる事は現状無かった。

 だけどもしそんな都合の良い話が通るのであれば、そもそもどうしてこんな会話が発生したのかは把握しておきたかった。

 もしかすると霞ですら気付いていないような深刻な何かに気付いた可能性も無きにしも非ずだから。

 そして嫌な顔一つせず秋葉は答えてくれる。


「さっき麻雀打ってる時呟いてただろ。自分のエピソードトークそのものに懐疑心を覚えているような発言をよ」


「……ありましたね」


 廃墟で肝試しをして死にそうになったとの発言の直後に呟いていた、そうした性質の言葉。

 あの時はその真意を理解できないでいたし、今もそれは出来ていない訳だが……どうやら秋葉は一足先にその先へと進んでいるらしい。


「多分アレは頭ン中にある記憶に対し何かしらの違和感を覚えているって事だと俺は受け取った。そしてそれが怪異の影響だと仮定するとして、俺が知る限りでも該当する怪異はいくつか存在する訳だからよ。俺としてはそのままにしておけなかったわけ」


「記憶に違和感……か。黒幻さんはそんなもの抱えてるのか?」


 だとしたらそんな症状が、先日の怪異との一件の最中で唐突に湧いて出てきた事になる。

 ……自分の縁喰いの時と同じように、条件さえ揃っていれば憑かれるタイミングは特別決まりは無いのだろうか。

 それこそ風邪でもひくのと同じように。


 そしてそんな事を考える真に秋葉は言う


「その反応を見る限り、お前は何か変化を感じてはいたが、それが具体的に何だったのかを知らなかった訳だ。後知らねえって事は教えてもらえてねえのかな」


「何かがあって元気が無くなっているのと、本人がその何かに付いて話たがらない。俺が知っているのはそこまでです」


「おい……えっと、良いのかその辺話して。そこまでって事はお前が隠そうとした事全部じゃねえかよ」


 確かにそれはそうである。

 そうではあるが。


「俺は何かがある事を隠して、秋葉さんは何かがある事を把握していた。こうなった時点で誤魔化している意味みたいなのは全く無いですからね。既に突破されてるんです」

 

 だとしたら、その辺を意固地になって黙秘し続ける理由も無い。


「まあこれでとりあえず、俺が隠す隠さないの話はもう良いですよね。それよりも……そのいくつかの候補について、教えて貰っても良いですか」


 結局此処まで話が進んでいる以上、その先にも進ませてもらおう。

 霞に配慮した上で進んでも良いと思える所まで。

 進まないといけない所まで。


 だが秋葉は言う。


「いや、今は駄目だな」


「今は?」


 言いながらお手洗いの方に視線を向けるが、霞たちが戻って来る気配は無い。

 ……シンプルに此処から先は仕事で料金が発生するからみたいな話なら分かるが、今はという事はどういう事なのだろうか?


「……短時間で話せるほどシンプルじゃないって事ですかね」


「時間が無くてもうまくやるってのが、俺の腕の見せ所だからよぉ。それに途中まで話して残りは後でって事もできる。だからそうじゃねえ。中途半端な事はできねえんだよこういう怪異相手の場合は」


「中途半端?」


「これ以上関わる場合、それは解決までがワンセットだ」

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