24 名称不明 魂の商人 日本銀行券 中

「ナゼソウオモウ」


 怪異の問いかけに真は答える。


「まずお前の風貌を見る限り、真っ当に金銭のやり取りをする事は出来ない筈だ。お前が人間の姿を取れればその限りではないかもしれねえけど、それができるならもっと効率の良いやり方だってできたろ。どうだ? なれるか?」


「……」


「なれねえよな」


「……ソレガドウシタ」


「真っ当な手段で金銭のやり取りが行えない以上、それ以外の手段で入手するしかない訳だけど……どうやって手に入れる」


 そう、そこが焦点だ。


「SNSで好き放題やれるお前なら、その気になればネットバンクの口座をどうこうして、金を抜き取って資産を作る事はできるかもしれねえが、それを現金として下ろす事は出来ない。金は用意できても現金は用意できないんだ。だとしたら直接盗むとかになるだろうけど、それこそどうやる? どうやって金を盗む?」


 現実的な話、それも難しい筈だ。


「人前で姿を隠して物理的な干渉ができるなら、黒幻さんと戦っている時に姿を晒している意味が分からない」


 霞の攻撃は効いていなかったみたいだが、それでも態々姿を晒すから霞を追い込むことに手間が掛かっている。

 そして手間を掛けているという事は、そうせざるを得ないという事だ。

 つまり姿を隠して何かをする事はできない。

 もしくは大きな制限が掛かる。


「それすらも出来ないお前が外で盗みなんか働けるかよ。そもそも特定の場所以外に出没できるのかお前」


「……」


「勿論お前は人間じゃないからな。この場にいながら盗みを働く事もできるのかもしれねえ」


 例えばどこかにいる誰かの一万円札を遠隔で探知し呼び寄せるとか。

 例えばどこかの店のレジから一万円札を遠隔で抜き取るとか。

 それができるのであれば、この一万円札は残念ながら本物なのだろう。


「そこでだ」


 真は財布を取り出し、自分の一万円札を取り出して言う。


「今此処にある一万円札、その場から動かず盗んでみてくれ」


 そう言ってみるが、その手に一万円札は残ったままだ。

 つまり。


「出来ないんだな。この程度の事も」


「……」


「それすらできないなら、不特定多数の誰かが所持している紙幣や、店や銀行からも持ってくる事は出来ない筈だ」


 そしてそれができないという事は。


「お前はもう作るしかないんだよ。自分で一万円札を……偽札をな」


 相手が人間であればできる事を、怪異であるが故にできない。

 だからこそ行ったのだ。


 怪異であるが故に実行できる、偽札の作成を。


 少なくとも素人目では判別が付かない程の、完璧に近い偽札の作成を。

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