23 名称不明 魂の商人 日本銀行券 上

 次の瞬間、ポケットに入れていたスマホの通知音が鳴る。

 当然こんな状況でその通知を確認しようとは思わない。


 思わなかったが。


「……」


 それを確認するのを待つかのように怪異は動きを見せず……そして。


「……ッ」


 その通知を確認しなければならないという感覚が湧き上がってきた。


(って事は今の通知音、スカイバードか……)


 この怪異が被害者と契約を結ぶ際に用いられるSNS、スカイバード。

 そのアプリの通知音。


 ……鳴らないように設定しているにも関わらず鳴らしてくる事や、今回は条件が違うからかもしれないが通知音だけで強制力が発生する限り、もうなんでもありだ。


 ……あくまでなんでもありなのはSNS上での挙動だけだが。


 そして確認すると想定通り通知の正体はスカイバード。


 見知らぬアカウントからDM が届いている。

 DMという形式の契約書。


『その手の一万円札が偽札である事を証明し、契約が無効である事を立証できなければ、魂を差し出します」


 そしてその文言のURLに自然と指は伸びる。

 押させるような暗示が掛かっていなくても、きっと躊躇いなく押していただろう。


 魂を差し出すというリスクが改めて文言として書かれてはいるが、そんなのは既に承知の上で。

 そんな事よりも、一万円札が偽札である事を証明する事が、契約が無効であると立証できる事が文言として書かれている事が与えてくれる意欲の方が何よりも勝る。


 そしてURLを押した後、怪異は霞に馬乗りになったまま言った。


「サァ……ショウメイシテミセロ」


「ああ、分かってる」


 霞の時とは違い、ある意味議論と呼べるような事を行う契約を結んだからか、怪異から掛けられる言葉は促すような物だ。


 そして促されるまま、言葉を紡ぎ問いかける。


「じゃあ一つ質問させて貰うけどよ、この一万円札はどこで手に入れたんだ? 俺にはお前に本物の一万円札を入手できるとは到底思えねえんだけど」


 全てを解決に導けるかもしれない問いを。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る