15 勝算 上

「綾ねえと何話してたんだい?」


「ちょっとした世間話ですよ」


「こんな時にちょっとした世間話はしないで欲しいんだけどねぇ」


 霧崎と別れた真達は、霞の脳内に流れ込む目的地への経路通りに歩みを進めていく。

 そんな中で霞は軽く咳払いをしてから真に問いかけた。


「で、白瀬君。最終確認だけど本当に着いてくるのかい?」


「ええ。行きますよ俺は。今更良いでしょそういうのは」


 着いていくか否か。その話はもう十分に交わして終えた筈だ。

 そしてそれを自分からひっくり返すような事はしない。

 したくない……あらゆる意味で。


  だけど霞はそれで終わらせるつもりがないらしい。


「寧ろ今だからだよ。今は綾ねえもいないからね」


「霧崎さんがどうしました?」


 真がそう問いかけると、霞は少し言いにくそうに間を空けてから言う。


「さっきまでの話だと、現時点で何もわからないから出たとこ勝負でなんとかするって方針だったと思う。一応はそういう姿勢を見せていたつもりだよ。でないと綾ねえは絶対止めるからね」


「……って事は何か別の考えがあるんですか?」


「ある。というより端からそれ以外を考えるつもりが無いというべきかな」


 そんな意味深な事を言った後、霞は一拍空けてから言葉を紡ぐ。


「正直いざ怪異を前にしたら、まともに考える時間も碌にないだろうし、そもそも都合よく突破口になる答えが見つかるとも思わない。第一答えがあるかどうかも分からないからね。だから今回私は最初から割り切って頭を使わないやり方を取るつもりで今こうして歩いている」


「それって……暴力って事ですか」


「ああ。人から魂を抜き取る怪異を武力行使でしばき倒す。そのつもりだよ私は」


 そう言って霞は軽く拳を握って見せる。

 ……霞が滅茶苦茶な事を言っている訳ではないという事は、流石に理解できる。

 そういう驚き方を今更するつもりは無い。


 結界を張るのと同じように、そういう力の使い方も怪異の専門家なら可能だ。

 言わば漫画などの創作物における異能バトルをこの人は普通にやれるのだ。


 故に人に仇成す怪異に対してそういう手段を取るという事自体に、違和感を覚えたりはしない。


 ……だが同時に推奨されるような行動ではない事も分かっている。


「勝算は……勝算はあるんですか」


 聞くだけ聞いたがあまりいい返事が返って来るとは思わなかった。

 事務所を出る前に見せていた様子から、それが薄い事は分かっている。


「インターネットを媒体に対象となる相手のピックアップから暗示を掛ける所まで、直接表に出て来る事無く行えるような相手だ。中々に強い力を持つ怪異だと思っているし……そもそもこういうやり方は他に何も手立てがない時の最終手段に過ぎないから。ドンと来いとは言えないね」


「……」


 最終手段。

 それこそ怪異に対して打つ手が無かった場合の最後の足掻き。

 そもそも怪異という人知を超えた存在は、格が高かろうと低かろうと人知を超えた存在である事に変わりは無いのだから、そこに人の身から放てる力で対抗しようというのがかなり苦しい話。


 そして霞の言う通り、相手は格の高い怪異なのだから。

 そんな事は素人の自分にも分かる事なのだから。


 答えは想定した通りだ。

 自分の思い違いで有ってくれない。


「だからこそ、キミにもう一度問いかけているんだ」


「……」


「こういうスタンスで臨む以上、その余波が届きかねない。キミの推測が正しかったとしても、キミの立っている位置は決して安全地帯じゃあないんだよ」

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