中学生 前編
オレはあれ以降女性と関わることができなくなってしまった。周りからは暗いといわれるようになった。同性の男友達は大丈夫なのだが、クラスメイトの女子、先生とか、お店の店員に対しても恐怖を抱くようになってしまった。そのため、生きるのに苦労した。
この辛さは誰にも言えなかった。誰にも相談することができなかった。あの小指の爪の痛さを思い出すからだ。あの激痛が走りそれがオレの言葉をせきとめるのだった。
つらかったんだ。ずっと。親にももちろん言えない。というか、そもそもオレに対してそこまで興味などないのだから。いったところで無駄だという気持ちが強かった。
とにかくオレはごまかしてごまかして残りの小学生の時間を過ごした。
ただ、少し変わったのは処世術はみにつけたということだ。心臓がばくばくするが、会話だけはなんとかできるようになった。それでもまともにはできないが、とりあえず話を聞いているようなふりをして、相槌を適当にうつ。それぐらいはできた。
最初は声を聴くのも大変だった。でも、鼓膜をつぶさない限り聞かないなんてことは無理だ。だから、雑音として処理し、その辺の車とかが走る音と同義にして聞き流すことができるようになった。
そしてオレは小学校を卒業し、中学生になった。
私服から制服に変わり、少し大人になった。大人になったといってもまだまだ子供のままだ。オレの時間は10歳で止まってしまっているのだから。
クラスメイトとは距離を置き、一人でもいいような心持で存在していた。話し相手はいたので、完全にはぶられてはいないがただそれだけであった。男女のグループ同士で仲良くするやつを見ていると少しうらやむものがあった。何故なら、オレはあの時がどす黒く心にこびりついており、どうしても洗い落とせないでいたのだから。
羨むと虚しくなる。だから、気にしないように心掛けていた。そうやって小学生を乗り越えて、中学の3年間をそうして生きてきた。
オレがとある女子と関わってしまうようになったのはもうすぐで中学の生活が終わるという時だった。
3年生のときで少し肌寒くなってきた時期だった。
その子は陽キャいわゆる不良グループに所属していたやつだった。毎日なにも考えずにとりあえず楽しそうなのを目の前にしてそれを喜んで受け取る毎日を送っていた。それはオレにとって馬鹿に見えたし、羨ましくも見えた。
陽キャに絡まれる陰キャもいるのだが、オレの場合はただの陰キャだったため、孤立していたのだが何故か3年の今頃になって絡まれるようになったのだ。グループで、はなく、その子だけがオレに話しかけてきた。どういう風の吹き回しだったのだろうか。ただ、オレは相手にしなかった。いや、相手にすることができなかったのだった。
ある日の放課後のことだった。
「ねえ? 君って大体一人でいるけどさぁ楽しいの?」
大きなお世話だ、と返したくなったが無言でいた。人の気も知らずに。と心の中で文句を言うが、その質問に対して肩をすくめて話を流した。そして、オレは立ち去ろうとする。話しかけられたくないからだ。
女子の声をこうして直接聞くと胸の動悸が早くなり、苦しいのだ。冷や汗も出て、気分が悪くなる。
彼女はそれを面白そうに見ていた。
そうそう。彼女の名前は
「え? なに? 怒ったの?」
彼女は半笑いでオレの様子をうかがった。
オレは顔を背け足早にこの場を立ち去ろうとした。周りがクスクスと笑っているような気がした。その声を背中に受けながら教室をでた。
そう、最初はそんな感じだった。
次の日、彼女はオレにまた声をかけてきたのだった。オレは無視をした。また次の日も。彼女の友達がなんで声かけるのさ? と尋ねていたら彼女は「DTぽいじゃん。女の影なさそうだし、少しでもいい思い出残してあげようかなーと思ってさ」と言っていた。「うわやさしいー」とかなんとか戯言を抜かしていたが、気にしたら負けだった。
そして、ある日のこと。無視するオレに業を煮やしたのか、つっかかってきたのだった。
周りは誰もおらず、オレと彼女の二人きりだった。
「いい加減無視すんじゃねぇよ」
怒り気味でそう言ってきた。
オレは首を横に振った。そして、逃げようとした。
そうすると、彼女は「ちょ、待てよ」と言って、オレの手をつかんだのだ。
その瞬間、オレの中に眠っていたモノが起こされたのだった。最初は理解できずに時が止まった様だった。そして、相手の手のぬくもりがその手に伝わるのを感じるのと同時に、恐怖が芽生えた。そして、全身に悪寒が走り、鳥肌が立つ。絶叫し、オレは走って逃げだした。
恐い
恐い
恐い
汚い
気持ち悪い
いろんな感情が渦巻いた。そして、頭ではそれが処理できなかった。オレは近くの洗い場へ行き、つかまれた手を洗い出した。洗っても洗ってもこすってもこすっても、取れない。ぬぐえない。震えが止まらなかった。あの恐怖がフラッシュバックするのだった。
オレは目をがん開きにしていた。額から汗がだらだらと流れ落ちていった。心臓がバクバク言っていた。止めることができなかった。
「だ、大丈夫?」
心配そうに様子をうかがってきた。
「く、来るな……!」
オレは叫んだ。オレの声が廊下に響き渡った。
彼女は急な出来事に対して反応に困っていた。困惑し戸惑っていた。
オレは荒くなる呼吸を止めることができなくなった。そして、過呼吸になりその場に倒れこんだ。
そんな彼女は急いで誰かを呼びに言った。そして、オレは意識を失った。
次に目が覚めた時は保健室だった。
「あ、気が付いた……」
ずっとそばで見ていたのか彼女がオレに声をかけた。オレは飛び上がり、悲鳴をあげた。
呼吸がまた荒くなり、顔を手で覆う。そして頭をかきむしった。
「だ、大丈夫……?」
オレに触れようとしたがオレは「触るな!」と怒鳴った。
それを見て「地味に傷つくんだけど」といった。
オレは乱れた心と呼吸を元に戻すのに専念した。
オレは歯を食いしばった。
そして、怒りがふつふつとわいてきた。どうしてオレがこんな目に合わなければならないのだと。
そして、わからず……いつの間にか涙がこぼれ始めた。
彼女はおどおどとしていた。対処に困っていた。
「ご、ごめん……」
オレは首を横に振った。
保健室から出て、オレのことを心配でかついて来ようとした。でもオレはそれを断った。でも、それを拒否された。
「なんだか、後味悪いじゃん。まあ急にあれこれしたうちっちが悪いけどさ。このままだと、ばつ悪いんよ」
「……」
オレは下唇をかみしめた。
会話をするかどうか、悩んだ。自分のこのことは話などはできない。では、どのようにして彼女を納得させて立ち去ってもらうか。そのアイディアが何も出てこなかった。それに苛立ちを覚えた。
「か、関わら、ないで……くれ。た、頼むから……」
オレは素直な一言を選んだ。
「ふーん……」
彼女の表情を見られないが、言葉の調子では納得いっていないようだった。
「もしかして、ホモだったとか?」
なんてデリカシーのないやつなんだ。オレはもうなんとでも思われていいから適当に頷いて流そうとした。
「嘘つきだねー。違うでしょ?」
オレはドキッとした。そして、思わず彼女の目を見てしまった。猜疑心にまみれた目だった。しかし、その瞳の奥にはなにか慈愛を感じてしまった。
「なにかあったんでしょ? きっと。そうだねぇ、たとえば女性恐怖症とか?」
「……」
オレはすぐに目をそらした。そして、歩くスピードを速めた。
彼女はそれに対してついて来ようとした。
「なんかさ、うちっちも悪いからさ、なんかあったらちょっとでも協力するよ」
オレは無視をした。
「じゃあねー。また話しかけるから」
「やめろ……」
「変な責任がでちゃったから、あきらめなー」
オレはダッシュで逃げていった。
オレは最悪だと思った。そして彼女は有言実行し毎日話しかけてくるのだった。
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