転生体(仮題)

かわくや

堆積の発芽

 ……一体いつからこうしていたのだろう。

 漠然とした意識の中、これはそう言葉を紡いだ。

 これにはこれまでの自分が生きていた事を示す記憶が何一つ無かったのだ。

 その代わりに有るのは天文学的なほどの知らない自分が生きた記憶。

 そしてこれらは死んだ。

 数えきれないほどの死を重ねた。

 その犠牲に意味が有ったのかはわからない。

 その犠牲を悔やむほどの価値が有ったのかもわからない。

 ただそこに残っていたのはただ死んだという明確な事実だけ。

 だが、これはそれを当然のこととして捉えていた。

 自分は生きて死んで。そのサイクルを回すだけの現象だと理解していたから。

 当然、本来その現象に自我など要らない。だがたった今。

 これにはその自我が芽生えた。

 全てを狂わせかねないほどの致命的な異常事態バグが産まれた。

 このまま放っておけば管理者が直しに来るだろうと言うことは考えずともこれは良く知っていた。

 好ましくない。これはその事実をそう判断する。

 そう判断してしまえばこれのとる行動は決まり切っていた。

「これは現世に行く」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生体(仮題) かわくや @kawakuya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る