第126話「ニコニコの笑顔」

「……っ! ……っ! ……っ!」


 父親の態度により、美咲は涙目で言葉にならない声を出し、俺の顔を見て慌てている。

 俺に嫌われると焦っているのだろう。

 もうかわいそうなほどにパニックになっているので、俺は片手で優しく美咲を抱き寄せた。


 そしてその手を使い、ゆっくりと彼女の頭を撫でる。


「大丈夫だって。美咲を嫌うことはないから」

「来斗君……」


 笑顔を向けながら撫でたことで、美咲は落ちつきを取り戻す。


 もうちょっと落ち着いてほしいと思う部分はあるのだけど、俺のことを好きでいてくれるからこその反応なので、それが愛おしいとも思う。

 ちゃんと話が落ち着けば、沢山甘やかしたい。


 そんなことを考える俺の腕の中には、現在何か言いたそうに頬を膨らませている心愛がいた。


 こちらの話を聞かず、完全拒否みたいな態度を取られたのが気に入らなかったんだろう。


「にぃに、ひどい……!」


 その読みは当たっていたようで、心愛は美咲の家の玄関を指さしながら俺の顔を見上げてきた。

 美咲のお父さんが酷いと言っているらしい。


「ご、ごめんね、心愛ちゃん……」


 それにより、何も悪くない美咲が心愛に謝った。

 おかげで、どうして謝られたのかわからない心愛はキョトンッとした表情を浮かべ、かわいらしく小首を傾げる。

 賢い子ではあるのだけど、この辺のマナーみたいなのはまだわからないのだろう。


「美咲は何も悪くないけどね。それはそうと、困ったな……。まさか会ってすらくれないとは……」


 昨晩美咲に連絡した後、当然彼女は俺が家に来ることを両親に伝えている。

 その上で今日美咲は俺を迎えに来ているのに、彼女は父親が俺に会おうとしていないことを言わなかった。

 思い詰めているようにも見えなかったし、美咲は知らなかったんじゃないだろうか。


 それはつまり、父親から拒絶の態度を示されていなかったということになる。


 そう仮定した上でこの現状を見ると――美咲のお父さんは、随分と大人げない……という判断をせざるをえなかった。


「私、お父さんに怒りを覚えたの初めてかも……」


 優しい美咲が実の父親にこう言うなんて、やはり俺の感覚は間違っていないんだろう。


 というか、笹川先生の件といい、俺のせいで美咲の家族仲が悪い方向に進んでいないか……?

 どうしようか、将来俺のせいで美咲が家出するようなことになれば。


 ――と、そんなことを考えたのがよくなかったのだろう。


「あっ……!」


 隣にいる美咲が、何かひらめいたような声を出した。

 こういう時の美咲は、たいていとんでもないことを言い出す。


「わかった、お父さん! 私たち帰るね……!」


 俺に何かを言ってくると思った美咲だが、彼女はニコニコとした笑顔で父親に直接投げかけるのだった。


「「なっ……!?」」

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