悪辣令嬢の独裁政治 〜私を敵に回したのが、運の尽き〜
あーもんど
第一章
イザベラ・アルバート
なん、だ……?周りが騒がしいな。
「うふふっ!やっと、ここまできたのね!」
「ああ、これでようやくアルバート公爵家は私達のものだ!」
「あの事故で公爵夫妻が亡くなって以来、病弱なこの子にずっと尽くしてきたんだから、財産は全て貰わないと!」
「そうなったら、僕も君のものになるね!楽しみだよ!」
男女二組の声が耳に届き、私は思い切り顔を顰める。
『こんな朝っぱらから、人の寝床で何をやっているんだ?』と。
礼儀のなっていない奴らだな。
てか、何の話をしているんだ?
アルバート公爵家とか、病弱とか……意味が分からないんだが。
『せめて、私に関係のあることを話せよ』とムカムカしながらも、もう一度眠ろうとする。
大掛かりな魔法の実験をしたせいで、ここ最近寝不足だったから。
『今日はしっかり休んで、明日から実験を再開しないと……』と考える中、不意にシーツを剥ぎ取られる。
「ねぇ、お願いだからさっさと死んでよ。私はもう一秒だって、待てないの」
先程聞こえた声のうち比較的若い女が、私の睡眠を妨害した。
媚びるような雰囲気に反して、言動は悪意そのものである。
『貴方さえ居なくなれば、あとは完璧なの♪』と語る女の前で、私はゆっくりと身を起こした。
と同時に、
「────はっ?お前が死ねよ」
桃髪ツインテールを殴り飛ばす。
『ほがぁ……!』とブタのような声を出して、飛んでいく彼女は壁に激突して倒れた。
「きゃぁぁぁあああ!!マチルダ、マチルダ!」
ツインテールの母親と思しき女性は、半狂乱になりながら彼女に駆け寄る。
お団子にした桃髪を振り乱して泣き、ツインテールの安否を確認した。
心配しなくても、大丈夫だ。人間あれくらいじゃ、死なないから。
まあ、こっちは殺す気で拳を繰り出したんだけど……
「なんだか、いつもより力が出ないな」
『おかしな』と訝しみ、私は自身の手のひらを見つめる。
と同時に、気づいた。
「────あれ?ちっちゃい?」
明らかにサイズが合わない手を前に、私はパチパチと瞬きを繰り返す。
そして何の気なしに自分の体や周囲の状況を確認し、『もしや……?』と閃いた。
あの実験────成功したかもしれない。
もし、そうならこの状況にも納得がいく。
グッと拳を握り締め、前を見据える私は────ニヤリと笑う。
その途端、髭を生やした茶髪の男性がビクッと肩を震わせた。
が、勇気を振り絞って私の前に立つ。
「この死に損ないが……!私の娘に何をする!」
娘……ということは、ツインテールの父親か。
じゃあ、もう一方の若い男は兄?
なんて予想しながら、私は金髪の男へ目を向ける。
見目麗しく女性にモテそうな彼を前に、私は『家族揃って、何しに来たんだ?』と首を傾げた。
まあ、一先ず────
「帰れ。貴様らの対応は後でする」
────状況把握が先決。
と判断し、私は魔力────世界の理に反するエネルギーを動かした。
そして、世界の理を覆す現象である魔法を引き起こし、窓から彼らを捨てる。
ガンッと体が地面に叩きつけられる音を聞きながら、私は窓を閉めた。
えーっと、鏡鏡……って、この部屋ベッドしかないじゃないか。
どんだけ、質素なんだ。
はぁ……仕方ない。バケツの水で我慢するか。
掃除のために持ってきたと思われるバケツを見つめ、私はベッドから降りる。
外でギャーギャー騒いでいる彼らの声を聞き流し、迷いのない足取りでバケツに近づくと、中を覗き込んだ。
若干濁った水面を前に、私はようやく自分の容姿を認識する。
肩くらいまである銀髪に、この世の全てを憎むような黒い瞳。
顔立ちはどこか大人びていて、年齢は十歳前後と言ったところか。
水面越しでも分かるほど痩けた頬と血色の悪い肌を眺め、私は『病弱って、こういうことか』と納得する。
完全に表情筋が死んでいる顔に触れると、私は
「イザベラ・アルバート」
と、この体の持ち主の名前を無意識に口走っていた。
その瞬間────水の底から湧き上がってくるように、イザベラの記憶が脳を満たす。
と同時に、私は口元を緩めた。
そうか……そういうことか。
何故、こんなにも幼い少女が
「願うは、親の復讐とアルバート家の存続か」
『面白い』と目を細め、私はクスリと笑みを漏らす。
イザベラの無垢なる悪意を、全身で受け止めながら。
「その願い、確かに聞き届けた」
あの世に逝っただろうイザベラへ『任せろ』と啖呵を切り、私は顔を上げた。
この体を……人生を譲って貰えるなら、そんなもの安い安い。
いくらでも、請け負おう。
まあ、もっとも────魔法の使い方さえ分かれば、イザベラ自身でも出来ただろうが。
膨大な魔力が流れる体を見下ろし、私は『これだけの才能を持っていながら難儀なものだ』と零す。
でも、こうして無事憑依先を見つけられたのはイザベラが無知だったおかげ。
私からすれば、まさに渡りに船だった。
そろそろ、老衰で死にそうだったから慌てて色んな延命方法を試していたんだが……まさか、憑依が上手くいくとはな。
一番不可能に近い方法だと、思っていた。
だって、これは憑依先を見つけるのが実に困難だから。
自分の魂に合う器を探すのがまず面倒だし、仮に見つかったとしても相手側に受け入れを拒否されれば同化出来ない。
そのため、半ば諦めていた。
「試してみるものだな」
『くくくっ』と低く笑い、私はパチンッと指を鳴らす。
それと呼応するかのように、薄汚れた服や髪は綺麗になった。でも、それだけ。
「服の新調と散髪はしないとな。このままでは、あまりにみすぼらしい────これでも一応、アルバート公爵家唯一の直系であり、跡取りなのだから」
『それなりの格好をしないと』と思い立ち、私は部屋のドアノブを回す。
────が、開かない。
どうやら、外から鍵を掛けられているようだ。
「公爵令嬢を監禁とは……舐めた真似を────まずは働きアリ共の調教から、始めないといかんな」
『誰が貴様らの主人なのか、分からせてやろう』と呟き、私はドアノブから手を離す。
と同時に、扉を蹴破った。
ガシャンと音を立てて床に転がる二枚の板を一瞥し、私は部屋を出る。
そして、屋敷の敷地内に居る人間を目の前に
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