【43・ショウユ】
「アリアっ、一体どうしたのっ?」
しょう油の匂いが消えた。
私は立ち止まり辺りを見回して匂いを辿るけど…… なんか、犬っぽくない?
「……… しょう油の匂いがしたんだよ。僅かだったから風に消えちまったけどねぇ」
「本当に?!でも、見てみて! アリア! 調味料とか食材がいっぱい売ってるよ!」
興奮したようなリューリの言葉に、良く周りを見ると、確かに調味料が売ってる。さっきまで居た所より、市場みたいな感じの露店や店舗が増えていた。
「ほぅ……。そういえば、しょう油に夢中になってたけど、香辛料の匂いもしてたねぇ」
「アリア、もしかしたらここの何処かにあるかも知れないから見て行こう!」
私の背から降りてリューリはそう言うと、さっさと奥に行ってしまった。
「あっ!ちょっと待ちなって!」
私も慌ててその後を追いかけるように走ると、リューリは既に調味料を売っている露店で、商品を見比べていた。
「何を見てるんだい?」
「ん? あぁ、これはカレーのスパイスとハーブだよ」
「アンタ、カレーをスパイスから作れるのかい?」
「へっへーん! それが、作れるんだなぁ! オリジナルカレーパンを作る時はいつも作ってたから色々調べたんだから!」
得意そうにドヤ顔してくるんだけど、なんかイラっとする表情をしてきた。あいにく、私はルーからの普通のカレーしか作れないけどね!
「よし!こんな物かな!おじさん、今、選んだスパイスを中瓶1個ずつ下さい!」
「は、はいっ!ちゅ、中瓶一つ銀貨さ、三枚になります!」
何処と無く怯えた様子のおじさんにリューリは苦笑いをすると、買ったスパイスは全部で四つ。つまり、銀貨十二枚になる。
リューリは金貨一枚に銀貨二枚をポケットに入れた財布から取り出すと、支払いを済ませて買った物をその場でマジックボックスに入れた。
「あー。おじさん、この辺りでしょう油っていって大豆っていう豆から作った調味料を売ってる所はないですか?」
「し、しょう油……ですか? んー……。聞いた事ない調味料です。ただ、ここは、ご覧の通り様々な食材がありますから、あるかもしれませんよ?」
「そうですか……。ありがとうございます!」
おじさんはそう言うと「あ、あの………。」と私をチラチラ見ながら言いづらそうにリューリに話しかけた。
それを察したリューリは私を見てからおじさんに向き直ると笑顔で答えた。
「大丈夫ですよ!僕の従魔ですから、暴れたりしません!」
そう言って露店を離れると、再び歩き出した。
「んー……。アリア、しょう油の匂いはする?」
「ちょいと、待ってな」
リューリと共に歩いていた足を止めると、私は鼻を引くつかせながらそよ風程度の風魔法を使いしょう油の匂いを探した。
僅かだから集中して、より匂いを嗅ぎ分ける為に鼻に魔素を纏わせ探すと………。
「……。やっと見つけた。リューリ、乗りな!」
「了解!」
「こうなったら意地でも探してやるさ!」
「今度は見失わないでね!」
前世、日本人の私達は俄然、しょう油探しにやる気になりリューリも乗り気だ。だって、やっと日本の味を見つけられるかも知れないからね!
そして、市場の路地を曲がり匂いの元を追いかけると、人通りも疎らになり、やがて一件のこじんまりとして見た目からして古そうな店に辿りついた。
「……… しょう油だ」
「やぁっと、見つけたねぇ。全く、この私がここまで苦労するとはねぇ」
店を前にして私達はやっと辿り着いたと、安心すると同時に、辺りに漂うしょう油の香ばしい香りにお互いゴクリと唾を飲み込んだ。
「……い、行くよ?」
リューリは私を見て頷いてきたので、頷き返すと、店に入っていった。
ドアを開けるとカランカランとカウベルが鳴り、見回した店内には、しょう油らしき調味料が瓶詰めされ陳列されていて、しょう油を使った惣菜みたいな料理もあり、調味料の棚とは反対側に並んでいた。
「いらっしゃい」
二人でキョロキョロしていると、店の奥から一人のおばあちゃんが出てきた。
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