【41・街を歩く前に】

 一人で寝たのは久しぶりだった。いつもは、部屋の片隅でヘソ天してアリアが寝ているけど、居ないのは、なんとなく変な感じがした。いや、元人間だったのがヘソ天して爆睡してるのはどうかと思うけど。


 そんな事を考えながら着替えを済ませ、食堂に行くと父さんがすでに起きていて僕を見ると苦笑いをしていた。



「おはようー。なに?父さん」


「リューリ。寝癖が出来てるぞ」


「げっ!な、直してくる!」


「ハハッ!早くしないとアリア殿と先に朝食を食べてしまうぞ」



 父さんにとうとう声を出して笑われながら、僕は慌てて寝癖を直して戻ると、女将さんから父さんは朝食を受け取っていたところだった。



「ま、間に合ったー。」


「ククッ……。リューリにしては珍しい姿だったな」


「あー……うん。(いつもアリアが指摘してくれてたんだよなぁ……)」



 裏庭に朝食を持って着くと、アリアも既に起きていて、毛繕いをしていた。



「やっと、来たかい。おおかた、リューリが寝坊でもしたんだろ。全く、だらしないねぇ」



 五月蝿い。この世界、時計を見た事ないから一人だと起きられないだけだよ。と、内心独りごちりながらも、慣れたようにアリアの分の朝食を用意する僕って偉くない?


 しかも、朝から動かないゆっくりする時は、さっぱり系がいいだの注文さえしてくるんだ。……量は多いけど。



「……それで?今日はどうするんだい?城に行くのかい?」



 用意し終えた朝食を食べながら、アリアが父さんに聞くと、父さんは首を横に振った。



「いえ、昨日、宰相様が言っていたように我々の到着が早かったので、まだ他の貴族様方々が揃ってないのかも知れません。恐らく、城から使いが来るでしょう」


「なんだい。さっさと行って、さっさと終わらせればいいのに」


「仕方ありませんよ。いくら我々が危険ではないと話した所で、そう簡単に話が通じる人たちだけではないですから」


「………面倒くさいねぇ」


「ははっ……すみません。まぁでも、その分こちらはゆとりを持って居られるので良かったじゃないですか。……リューリ。朝食を食べ終わったら、王都の冒険者ギルドに行こうか」



 アリアは本当に元人間なのか疑わしいよ。なんせ、貴族とか王族って聞いたら、普通は畏まったりするのに面倒くさいって……。呆れるやら豪胆だが分からないけど、とりあえず、失礼のないように大人しくしてて欲しい。



「え?冒険者ギルドに?」


「あぁ、母さん達に無事に着いたと連絡してもらうんだ。ほら、父さんが王都に着いたらギルドから知らせが来てるだろ?それは、通信用の特別な魔法道具があるからなんだ。それを使わせてもらう」


「それって誰でも使えるの?」


「そんな事はないぞ?Aランク以上の冒険者かギルド職員のみだ。ギルド同士の連絡で冒険者を斡旋したりするのに使うんだ」


「へぇー……。そうだったんだ」


「アンタは知らなかったのかい?」


「僕のランクはまだDだし、まだまだ先だよ。あ、もしかして!それで僕たちが王都に来るのを予測してたり?」


「そういう事。リューリは頭がいいな!」


「だって、父さんが街に着いたら必ず冒険者ギルドに立ち寄ってたから。なんとなくね!」



 父さんの分かりやすい説明と通信用魔法道具というのがあった事に僕は感心していたが、ふと気になった事を聞けば、笑顔で頭を撫でられた。


 そうして、話ながら朝食を食べ終えると、僕たちは冒険者ギルドへと向かった。



「リューリ!あそこからいい匂いがするんだけど!」


「アリア!買い食いはしないってば!」


「なんでだよぉ!」


「冒険者ギルドに行くのが先!」



 冒険者ギルドに向かう道中は注目の的だった。だって、サイズは元より小さいけど、僕の身長ぐらいあるアリアが喋るし、目を離すとすぐに買い食いしようとするから説得するのに疲れる。


 そんなこんなで、やっと着いた冒険者ギルドに入ると賑やかだった室内が一気にシンっと静まりかえった。僕は思わず、アリアの毛を握りビビってしまったのは仕方ない。だって、厳つい人達がガン見してくるんだよ?ビビるでしょうが!


『……痛いんだけど』


『いや、あの、思わず……ごめん』


『はぁー……。そんなビビる事ないじゃないか。まぁ、イケショタがビビる姿って可愛いからいいけどね』


 アリアさん?なんか、寒気がするような事言わなかった?可愛いくないといえば、一部の人間は可愛いと思うよ?と更に念話で言ってきた。ヤメテ!なんか分かんないけど、不穏な話な気がするから!


 父さんの後を離れないよう慌てて追いかけると、慣れたように手続きをしていた。カウンターを覗くと、父さんの冒険者カードが見えてその色はゴールド。初めてみたけど、やっぱり父さんは凄い人なんだと実感した。



「じゃぁ、いつものようにお願いします」


「畏まりました!ふふっ、今日は息子さんと一緒なんですね?」


「はい。まぁ、まだ駆け出しですが、よろしくお願いします。リューリ、挨拶なさい」


「リューリ・ライヘンです!よろしくお願いします!」


「あらあら、挨拶が出来て偉いわね。それにしても、君がフェアリアルキャットの主人なの?本当に大丈夫?」



 カウンターの垂れ耳獣人のお姉さんが、アリアと僕を心配そうに交互に見て聞いてきたけど、なれた質問なので、僕はいつも通り大丈夫と答えた。


 まぁ、振り回される事とかあるけど、何だかんだといい奴だしね。



「そう。なら、いいんだけど……」


「大丈夫ですよ。私も一緒居ますが、何もありませんでしたから」



 父さんが安心させるように笑みを浮かべると仄かに赤くなるお姉さん。



『イケメンスマイルは女を虜にするねぇ。』



 アリアのツッコミに思わず、吹き出しそうになった僕は悪くない。責めるようにアリアを見れば、ふいっと顔をそらした。



「なにをしてるんだ?」



 僕たちを不思議そうに見てきた父さんになんでもない!と僕は慌てて返事をすると、軽く首を傾げるが、話は終わったのか帰ろうと言われギルドを後にした。


 リューリたちが居なくなったギルドではアリアをみた冒険者達が騒いだり、カウンター内ではライヘン親子かっこいいし可愛いと、一人の獣人女性がポワンと恋する乙女のような表情をしていたとは気付かなかった。


 アリアはその事に一人気付き、ギルドを振り返ってやれやれと首を振ってライヘン親子の罪作りと内心呟くと追いかけていったのだった。

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