【23・森で一泊】

 森に入ると木漏れ日が差していて、鬱蒼としておらず、魔素の流れも落ち着いている。 だが、僅かに遠くからこの森には似つかわしくない濃い魔力の流れを感じる。


 ……たぶん、アレがブラックサーペントの魔力だろうけど、魔力を垂れ流しかい。見つけてください。って言ってるようなもんだね。



「リューリ、その魔力の流し方じゃ疲れるだけだ。 試しに私の身体に手をあてて魔力を感じ、流れを読み取ってみな」



 私の隣で魔力コントロールの修行をしているリューリの様子にアドバイスとして、身体に触れさせる。



「こ、こうかな? ……わっ! 凄い! 魔力が身体全体に同じ量で流れてる。 でも、そんなに多くない? なんで?」


「……私は纏う魔力、使う魔力を別々にしてるんだよ。 イメージ的には、術として発動する魔力の壺と、纏う魔力の壺。 二つのサイズの違う壺を用意、そこに分けて魔力を注ぎ、それぞれ常に満たし使い続けるんだ。 纏う魔力は感知と身体の保護、制御ぐらいでいい。なら、必要最低限の量を探りこの量に落ち着いたのさ。」


「感知と保護は何となくわかるけど、制御って?」


「そうだねぇ……。自分の魔力を纏う事で自分の存在を抑えて他者に影響を与えず、感知しずらくしてるのさ」


「すっげー……そんな事まで出来るの?」


「纏い、維持する事をやり続ければ、自然と制御は出来るようになるさね。アンタはまず、身体の中の魔力の流れを隅々まで理解して、必要最低限の量を見極めな」



 身体をリューリから離して欠伸をすると、奥へと歩きだした。



「……魔力の流れ? 母さんからは体内にある魔力を練って魔法はやるもんだって言われたけど」


「同じ事さ。ただ、魔力を身体に巡らせる事で身体能力の向上は出来るし、細かな魔力操作がやりやすくなる。 それに、魔力切れを起こしにくくするんだ。簡単にいうと、一発デカい魔法で全く動けなくなり戦闘時、足でまといになるか、巡らせていた事で、本当にその魔法を使うだけの魔力で済ませた上で戦闘時、自分を守る事ぐらいは出来る。 の違いさ。どちらの方法も体内魔力を使うって事は一緒。その後と使い方ってのが違うだけ」



 リューリは私の説明を聞いて頷きながらも、首を傾げ悩んでいるようだが、私だってこれ以上は上手く説明出来ない。なんせ、フェアリアルキャット知識では、感覚的な物が多くて、やってたらいつの間にか出来てたとかがありすぎて、言葉にしようとしても難しいのだ。


 たぶん、魔族や魔獣の類はこれを感覚的に身につけるのが、ほとんどだと思う。ただ、得て不得手に分かれるだけで。


 だって、そうしないとこの自然界では生き残れない。弱肉強食だからさ。



「アンタはさっき言った通りに流れを読み、必要最低限量の魔力を纏わせられるようになる事を考えな」


「うーん……。 難しいけど、やってみる」



 理解しずらいのか、眉を寄せ考え込むが、ため息をすると諦めて再び修行を再開したのだった。


 時折、立ち止まりそうになるリューリを押して歩かせていると森の空気が変わった。


 明らかにブラックサーペントのせいだ。



「おやおや……。随分、静まり返った森に変わったねぇ」



 鼻と耳とで気配を探るが、近くには居ない。魔力の流れも未だに遠いが、他の小型の魔獣は警戒してか息を潜めるように小さくなっている。



「……ていう事は、近いの?」


「……いや、まだ遠いが、テリトリーには片足ぐらい突っ込んだようだね」


「ひ、ひぃっ?! そ、それって襲って来ない?!」


「大丈夫さ。 奴の本当のテリトリーには遠い。 恐らく、たまに狩りにでも来る場所なんだろうさ」


「それって来たらどうするのさ!」


「何言ってんだい。 来たら狩るに決まってるだろう? 奥まで行かなくて済んでいいじゃないか」


「心の準備っていうのが必要だよっ!」


「アンタには必要無いだろって! ……たくっ、今日はここまでにして、明日は一気に狩るからね!」


「う"……そ、それならなんとか……。 結界は張ってよ?!」


「分かった分かった! 勿論、張るさ!」



 必死気味に言ってくるリューリに圧されて、結界を張るとその場に私は伏せて、不満気に尻尾をバッタバッタと地面を叩いた。


 その様子に苦笑いをしつつも、修行をしながら夕食の準備をするリューリなのだった。

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