午後0時の魔法

C-take

僕の奥さんは魔法使い

 この時間が近づくたび、僕はソワソワして落ち着かなくなる。


 時刻は午前11時45分。リビングで待つことしか出来ない僕と、キッチンを占拠せんきょしている僕の奥さん。そろそろ調理もクライマックスと言ったところか。


 遠目で見ただけだが、大きな鍋でグツグツ茹でられているのは、乾麺だったと思う。それとは別に、何やらトマトソースのようなにおいがするので、お昼のメニューはパスタあたりと予想していた。


「ねぇ、何か手伝うことない?」


 何度かこう声をかけているのだけど、答えは決まって。


「大丈夫だから。座ってて~」


 料理好きの奥さんは、基本的に調理中は僕をキッチンに入れてくれない。僕がキッチンに入れるのは、片付けの時だけ。それが何だか申し訳なくもあり、手持ち無沙汰でもあり。


 何かしていないと落ち着かないけど、手伝いを禁じられているのだから、僕は大人しく、スマホを片手にソファーに沈むことにした。


 しばらくして、奥さんがお皿を手にしてテーブルに向ったのがわかる。僕は急いでソファーから飛び起き、スマホをソファーの上に放った。時計を見るまでもない。僕の奥さんは、決まって同じ時間に、料理をテーブルに運ぶからだ。


 そして迎えた午後0時。テーブルに着いた僕のお腹が「ぐぅ」と鳴る。奥さんにかけられた、ご飯が美味しくなる魔法だ。

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