閑話1.労働は万病のもと


「労働は万病のもとだ」


 宇々うーちゃんは、そんなふざけたことを大真面目に言った。ショートカットのホワイトブロンドが風に揺れている。碧色へきしょくの瞳からは、自分の発言が絶対に間違っていないという鋼の意志が伝わってくる。


「働くから心も体も疲れるんだ。働かなければずっと元気でいられる」

「働かなきゃ食えないだろ」


 慧摺えーちゃんは苦虫を嚙み潰したような顔で言う。うーちゃんが仕事に行きたくない一心で詭弁きべんを振りかざすのはこれが初めてじゃないから。

「ふんっ。慧摺えすりだなぁ。食べ物は貰えばいいだろ」

「どっちがバカだア?」


 そして、こうしてふたりが食ってかかるのも初めてではない。チーターとバッファローが威嚇いかくし合っているように見えるが、これはじゃれ合いであり、ある種のガス抜きなのだ。


 まあ、うーちゃんは言い出したら聞かない。

「じゃ、今日は私と狩りに行こっか」

「やった! やっぱりあーちゃんは分かってるな。慧摺なんかとは大違いだ」

 

 あの娘の中で、狩りは遊びに分類されている。

「早よ行け」

 しっしっ、と手を振るえーちゃんに見送られて、ふたりで狩りへと向かった。


 その日、私たちは大きな鹿を仕留めることができた。走り回って獲物を狩ることができたホクホク顔のうーちゃんと丁寧に解体し、一番美味しいところを確保して、食べきれない分は他の食べ物と交換しようと提案した。


 夜空の下、皆で焚火を囲んでバーベキューをしている時、うーちゃんは自分の手に収まったお金を不思議そうに眺めていた。


「――労働?」

「うーちゃんこれ美味しいねッ!!」


「――――――――うんっ!」

 噛むほどに幸せが溢れる肉の塊をお腹に収めると、労働やお金のことなどどうでも良くなったうーちゃんは屈託くったくなく笑う。


 細かいことを気にしないところが、このの魅力だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る