聖魔女様は微笑まない

銀紫蝶

第1話 はじまり



魔法と呼ばれる、不思議な力。

獣人や緑の守り手や、精霊や幻獣たち。

まるで、おとぎ話の世界のような……。


私、異世界に転生したのかもと自覚したのは、まさに村の教会で洗礼式を受けている最中だった。


古いけれど綺麗に整えられた白い石造りの建物。高い屋根には丸窓があり、そこから天の恵の光が差し込み、明るい。


屋内には幼い子供が五人と、その子供の親達と、教会の教父様おじいちゃんがいる。


小さな教会は小さな家くらいの大きさで、二階分までの高い天井があり、いままさにまばゆい光が放たれていた。光の元は、机に置かれた古い丸い石だ。一説には、精霊からの贈り物だとか。


「ゆ……勇者? 聖女? 聖騎士と大魔道士……!? まさか……」


教会の奥の一段高い床に机が置かれ、斜めに立てかけられた不思議な黒い板に、洗礼の結果が浮かび上がっている。


子供達、四人のジョブを写し出した結果だ。


大人も子供も呆然としている。四人の子供は村の仲良し四人組みで、男子二人に女子二人。


四人から五歩ほど離れて、私はぼんやりと彼らを見ていた。安穏脇役位置~落ち着くわ〜。


……わぁ〜。なんかありがちなファンタジーのオープニングみたいな場面。私だけまだ調べてないんだけど……ひとりだけモブなジョブなパターンかな? いいなーモブキャラ。このままずっと田舎で平和してたい。


「……っ、オレたちが……神聖ジョブ!? 四人とも!?」


金髪碧眼の美幼児、勇者と判明したのは明るく活発なライトくん。


「え? え?」


分かってなくてキョロキョロしてるピンク髪のふんわか美幼児は、聖女認定されたローズちゃん。


「まさか……そんな……!? ありえないだろっ!? こんな辺境の田舎村で?」


聖騎士に認定されたのはアレスくん。短髪の髪は青く、眼は紺色かな。


「だい……まどーし……? ってなに?」


小首を傾げているのは、緑の髪のアリサ。耳がちょっと尖ってる。ハーフエルフだ。


「……すごいね〜?」


他人事のようにつぶやくのは私。茶髪茶目の地味な眠た眼の幼児。名前はジーナ。


光が収まると、親達は慌てて外に飛び出していった。村長さんに知らせにいったのだろう。子供四人も慌てて親を追いかける。


「……」


それを見送り、私はひとり、そっと机に近づいた。


「教父さま、私も洗礼受けていい?」


「あっ、ああ、いいとも。後で結果を教えてくれ……おーい、みんな待ってくれ〜」


とうとう、教会から誰もいなくなる。ぽつんと残された私は、そっと洗礼石に触れる。瞬間、石が明滅した。虹色だ。


認定されたジョブを読んで、私はそっと教会を後にした。




この異世界では、子供は五歳になると洗礼を受けてジョブを授かる。


ジョブとは、その者の才能を職業に表したもの。向いてるよって指針みたいな。決まった将来の職業ではなく、ちゃんと努力すれば、なれますよって感じらしい。


世界は常に精霊達に見守られていて、精霊達は常に道をしるす。世の中が悪くならないように。世界が壊れないように。


世界の守護を任命され、精霊達の導きに従い、魔を祓う者も少数いる。血筋や人種に関わらず、英雄的な活躍を期待される存在が。


それが──勇者や聖女、聖騎士や大魔道士。大賢者に、大召喚士エトセトラ……。


ひとりでもいれば国をあげて保護し、大事に育てられる。ジョブにふさわしい人間になるように。彼らは、神聖ジョブとして、重要な世界の駒なのだ。


一歩、村や街を出れば恐ろしい魔物に襲われる、そんな世界の。そう、この世界はファンタジーだった。私、異世界転生しちゃってるわ。どうしよう? どうしようもないね……。




青い空に流れていく、モクモクした白い雲を眺めていたら、視界に金髪が入ってきた。


「……ジーナ……」


村の端の小高い丘の中に、私の住む小屋はある。私はその裏庭に寝そべって、昼寝の最中。


「……ライトくん?」


気落ちした表情で、金髪碧眼の美幼児は私の横に座り込む。暗い、暗いよ。


「王都から騎士団が、迎えに来るらしい」


「……そう」


「……」


何かなその眼は。私は無力な地味幼女だよ? そんなすがるように見られても、何もできないからね?


「……ジーナのジョブ、なんだった?」


何かを期待するように質問されて、私はちょっと考え込んだ。


「自由人?」


「おい」


さわさわと心地良い風が私の周りを吹き抜ける。小鳥がさえずり、のどかな田舎村はとても静かで平和だ。


「もう両親いないし……村もないし……ずっとここにもいられないだろうし……自由だね!」


「……そうか?」


何か言いたそうにライトくんが私の顔を覗き込む。碧眼に光るのは理知的な光。子供らしくない、冷静な思慮がうかがえる。彼はじっと私の顔を眺めた。


「……モブってことかなぁ……地味容姿だしなぁ」


おい。言い方!


「……ライトくーん?」


遠くでライトくんを呼ぶ、ローズちゃんの声がした。慌ててライトくんがそちらに走っていく。他二人も一緒に居た。四人はずっと仲良しでいつも一緒にいる。きっと精霊さまも、気を利かせて神聖ジョブを彼らに与えたのだろう。ちょうど、パーティ人数だしね!


四人の気遣うような視線を背中に感じながら、私はひとり、自分の家に戻った。


六畳ほどの、簡易な山小屋だ。後付けで水場とか、棚とか、ベッド代わりの木箱と椅子がある。村で放置されていた山小屋を、親切な村長さんが貸してくれたのだ。私はこの村の子供ではなく、隣村の子供だから。


親も兄弟もいない。本当にひとりきり。一年前に、私の暮らしていた隣村は魔物に襲われ壊滅している。低い山ひとつ挟んだすぐ隣だ。


私だけ、生き残った。魔法とか魔物とかが当たり前の異世界だ。よくある話らしい。村人たち、村長さんや教父さまも、みんな可哀想な子供として私を見て、時々親切にしてくれる。まだ五歳だから。六歳になったら税金がかかる。増えた私の分を村から払うかどうか、村長さん達が相談していた。高いんだよね、税金。


「……」


木窓の隙間からそっと外をうかがうと、四人はゆっくり戻って行く所だった。


水を魔法で出して、薪に火の魔法で火をつけお湯を沸かしてお茶を入れる。村の周辺で採取できる薬草茶である。私は独学ながらも、母親から薬草を学んでいた。生きるために必要だからね。


痛み止めとか、血止めとか、毒消し。熱を下げたりも。なんとなく知識があったから、なんとかやっていける。自分で狩りに行ければいいんだけど……。隣村が壊滅した分、この村の狩場は増えたようだ。幼児が狩りにウロウロするのもねぇ……。


お茶を飲み終わり、まったりしてから、ようやく私は動き出す。


「こういう場合は……ステータス? おーぷん? ……おっ」


目の前に、パソコン画面みたいな半透明な板が表示された。


『 名前 ジーナ・ララーナ・オールドムーン

年齢 5才

レベル 1

体力 1

魔力 1

ジョブ 自由人 (聖魔女/隠蔽中)

スキル 生活魔法 空間魔法 虹魔法 使い魔召喚



生活魔法はすごく便利。生活に欠かせない。空間魔法は隠れるのに便利。魔物に村が襲撃された時、咄嗟に隠れたから助かった。まだ、自分の大きさ分の空間しかないけど、広がるといいんだけど。虹はなんか、不思議。自動的に隠蔽をしてくれる。他人の目から見えないようにとか、ジョブも。……自由人って何さ? いや、いいんだけど……。


それより、見慣れないスキルが。


「……使い魔召喚?」


つい、口からもれた。すると、目の前、足元に虹色の円が発生。白いシルエットが生えてきた。


白い翼の生えた、子馬? が現れた。穴から抜け出し空気を蹴って、宙を走る。


「……」


狭い家が余計に狭くなった。ふわりと床に着地して、子馬は私に頭を垂れた。服従の意志が伝わる。


サラサラした毛並みを、私はそうっと撫でた。魔法生物を召喚できるの? あったかいね。


「キュー」


「……ジーナよ。よろしく?」


「キュ!」


愛くるしい白馬に、ひとりきりの寂しさが、かなり改善された。





四人の子供達が、王都の騎士に護送されて村から去った翌日──。


私もひとりで、村を旅立った。村長さんには挨拶済。


てくてく、草地の道を歩く。古着に古いマントをかぶって。せめて、肌触りの良い古着が欲しいなぁ。なんとか小金を貯めて、生活改善しよう。そうしよう。



街道外れの村から、都会?の地方領主様の治める地方領都まで続く田舎道。林の間のような田舎道だ。低級魔物がちらほら見えるのは林の奥。地面をスリスリ滑って移動してるのは……いわゆるスライムでは?


狩ろう。


ボロ布を巾着に仕上げた袋から、私は木を削った木製ナイフを取り出した。ナイフというか、ガタガタの長い串? だけど。


そっとスライムに近づいていく。半透明なビニール袋に汚れた水が詰まったみたいなヤツだ。ムニョムニョほふく前進しているのを、後ろからブスッと。


三回くらい刺して、ようやく倒した。ふー。五歳幼児には重労働だわ。スライムはブルブル震えて、小石を残して消えた。魔核だ。小指の爪しかない。拾って、小袋にいれた。


まだ陽は高い。レベルアップを狙おう。


道中、スライムを倒しつつ、薬草を集め空間倉庫に保管していく。10匹倒したら、なんかふわっとした。


レベルが上がった。2だ。やったね! ……10くらいには上げたいけど、無理かな?


子馬が狩りをしてくれてウサギや鹿も保管。お願いしたら、空間倉庫さんが解体してくれたよ! 便利ー。


ひとつ目の小さな村は素通りした。何もないからね。


夜。林の奥で木の陰で野営する。とはいっても、私は自分の空間倉庫に入るだけ。


何もない、真っ暗な空間だ。もうちょっと、見た目なんとかならないかな?


ふわっと魔力が消費され、六畳ほどの小さな部屋に変わった。


柔らかな木製の床や壁。床に淡いグレーのラグ。ふかふかのラグに座り込む。うむ、良い感じ。壁際に細いドアが三つ。なんだろうと覗いたら、トイレとシャワー室、細長い小さなミニキッチンだった。……すごいね空間倉庫! 私の要望を叶えてしまったよ! これなら宿に泊まらなくて大丈夫そう。


トイレは水洗だし、シャワー室はグレーのタイル貼り。シャンプーリンスと全身洗える植物性のオイル石鹸。これ、私が前世で好きだったメーカーのだよ……どうなってるのかな??


ミニキッチンには、ミニ冷蔵庫と、オーブントースターがある。流し台下には色々あった。うん、全部私の使ってたものだ……。お掃除グッズ、タオル類。調味料各種。お皿からコップまで。


……ラッキー?


さすがに服類はないよねーと思ったら、部屋の隅にポンと洋服タンスが生えた。……わあ。


怖々と開けて中身を確認。下着から普段着、靴下や靴まで揃えてある。全て、現在の私のサイズである。


凄すぎる。万能倉庫かな?


ベッドが欲しいと願えば、子供用ベッドが出た。白いシーツはサラサラでタオルケットは白、ダウンケットにはグレーのカバー。枕もふっかふか! 寝心地最高。


着替えをえらび、早速シャワー室へ。全身キレイさっぱりしたら、ミニキッチンで簡単ご飯を作る。パン粥です。卵とハムに玉ねぎをスープに。オレンジジュースをごくごく。身に染みた……久しぶりのまともな食事だ。ありがたやー。


キューちゃんを召喚して、くっついて眠ったよ。


翌朝……サラサラと雨音が響き、目が覚めた。


街道沿いの林ちょい奥、まだ明け方前で薄暗い。周辺の様子が分からないと怖いから、音だけでもひろえる設定にしてたんだ。


雨が降ってる。細かい雨だ。雨の中、歩くのはかなりイヤだなぁ。しばらくここで、のんびりしようかな?


自分の身体をながめる。ガリガリに痩せた身体。カサカサの日焼けした肌。髪だってパサパサだ。


幸い、冷蔵庫は使うと補充される仕様だったので、食材は豊富にある。しっかり食べて運動して、清潔にして、しばらく健康な身体作りにはげむべきかも。別に、行先とか、目的があるわけでもないしなぁ。


のんびり過ごして英気を養った。


10日間も経てば、肉もつき肌ツヤもかなりよくなり、髪もさらっとしてきた。髪がなんか、洗う度に色落ちしてきたけど……白てゆーか虹色なような……瞳の色も、なんか青紫とゆーか……まぁいっか。人前では元の茶髪、茶眼にしとこ。隠し隠し。


新たに設置した姿見でチェック! ふむふむ……少しは改善したようです。そろそろ、人里を目指すかな?




村よりは領都に近い、そこそこ栄えた城壁都市に辿り着いたのは、村から出て二ヶ月近く経った春だった。


平民が着る普通のキレイ目な服に、編み上げブーツ、茶色いマント姿で入門チェックの列に並ぶ。馬車や荷馬車とは別に、人が通過する細めの門には、兵士らしき槍持ちの男性らが目を光らせていた。身分証がある人は一瞥だけで通過できて、ない人は硬貨みたいなのを払っている。たまたま、子供連れの五人家族の後ろに並び、私はぼうっとデカい城壁を見上げていた。


高いね。五メートルくらい? もっと? 頑丈そうな分厚い石造りの壁は、古そうで年月を感じた。そういえば、今さらだけどこの国なんて名前だろう。やっぱり王制なのかな。見た事ないけどお貴族サマとかいるのかな。


私はぼうっとしていたが、前からチラチラと子供の視線は感じていた。平民の男の子だ。母親の服に掴まりながら何故か後ろを振り返る。私は気づかなかいフリをして、ひと二人分は間を空けていた。


フードをかぶっているから口元しか見えないはずだけど……同い年の子供だろうっていうのは見た目で分かるだろうしね。


「……おい」


「……」


「……おいっ、おまえひとりか? 親いないのか?」


とうとう、子供が話しかけてきた。門はもう、目の前で家族の前のグループがチェックを受け初めていた。


ガン無視します。子供のくせに、ひとを舐めた視線なのだ。なんだこの子?


私が聞こえないフリをしている間に、家族組は先に進み初め、男の子は慌てて追いかけていった。ふー、よかったよかった。


「次──子供ひとりか? 親はどうした?」


先に通過した家族を見送った兵士さんが私を見下ろして怪訝な顔になる。子供だけって珍しいのかな?


「ひとりです。ナナ村の……ジーナ、です。これを……」


私はポケットから一枚の木片を取り出し兵士さんに手渡す。ヤナ村(隣村)村長さんが、仮の村人証明書を書いてくれている。一読した兵士さんはさらに不審な顔になる。


「ヤナ村じゃないのか? ナナ村……僻地の奥か」


あれ? あんな田舎村を知ってるのかな?


「ナナ村は、なくなりましたよ……魔物に襲われたので。生き残ったのが、わたしひとりで……す」


魔物、の言葉を聞いた途端、兵士さんの顔がサッと変わった。私の背中に腕を回し、門の奥、詰所のような小部屋に連れて行かれた。


「くわしく、話せるか?」


おや?


私は首を傾げながら、一年三ヶ月前に村が魔物に襲われたこと、生き残ったのが私ひとりなこと、しばらく隣村にお世話になっていたが六歳になる前に、仕事をみつけたくて大きな町に出てきたんだよー、という事をたどたどしく喋った。


難しい顔で紙に何やら記載した兵士さんは、他の兵士さんに何やら指示。私は門の近くの休憩所に預けられた。


慌ただしく兵士さん達が走り回り、通用門を利用する平民らは不思議そうに不安そうにその様子に注目していた。休憩所は、トイレとか簡単な食事ができる場所で、木製の机と長椅子があり、私は部屋の隅っこでちょこんと腰掛け、店員さんが出してくれた飲み物と、パンにうすいお肉を挟んだものをもぐもぐして時間を潰した。


勝手に町中に入ったらさすがに怒られるかな? 今日中に、ギルド──薬師ギルドか冒険者ギルドに登録して、集めたクズ魔石とか売りたいんだけどなー。宿屋は、万能倉庫があるから平気だけど。


だいぶ時間が経ってから、若い兵士さんがひとり私の方にやってきた。ついてくるように言われ、トコトコ付いて行く。


兵士さん達の詰所の奥、個室のひとつに案内され、身なりの良いおじさんと向い合って座る。村の事を聞かれたので、自分の記憶範囲で頑張って話した。おじさんは役人のようで、無表情に黙々と書類に書き留めていく。


「……父さん達が、慌てて夜中に起き出して、眠ってた私を母さんが物入れにかくして、ぜったい出てきちゃだめって……怖くてずっとめをつぶってたらたくさん……なにかが駆け回る足音とか、獣の吠え声がして、ひとのひめいも聞こえたの」


「それで?」


私は淡々とした役人さんの口調に、体が冷えていく気がした。まだ、私がわたしだと思い出す前だったから、ただひたすら怖かったあの夜。


私は無意識に空間魔法を使い、その中に縮こまって震え、泣いて過ごしたのだ。子供心に、誰も助からないんだなと理解しながら。


「……きづいたら、朝になってた。でもシーンとしてて。となりまちの村長さん達が、きてくれて。私は布をかぶせられて、そのままとなり村に運ばれたの」


「そうか。……もういいぞ」


役人さんが兵士さんを呼び、私は建物の外に出た。これからどうするか尋ねられたので、答える。


「ギルドに、とーろく、します。お仕事、さがします」


大きな町には孤児院があるらしいが、私は頼る気はなかった。魔法があるし、自由が良い。


兵士さん達はちょっと困ったように目を見交わし、なかの一人が前に出た。


「登録までは、付き添えないが……ギルドまでは案内しよう」


「……ありがとう、ございます」


若いたぶん下っ端の兵士さんに案内され、まず最初に向かったのは異世界おなじみ、冒険者ギルド!


門から伸びる広い道をまっすぐ進み、十字路を二回通過した右手の大きめの建物だった。入り口前でお礼を言って、ひとりでドアを開けた。


わぁー……って、思ったより閑散してる。奥に受付が五箇所、右手に黒板みたいな石版が壁一面に張られ、おそらく依頼内容の紙片が貼られ。


左側は三分の一くらい木製のテーブル席がズラリと二十席くらいあり、その奥にカウンター付きの厨房がある。使い古された建物やテーブル席などから、かなり年期が経ってるなぁ。でも普通に掃除はされてるのか、汚くはない。


正面奥の受付には、真ん中にひとりだけお姉さんが待機していて、私が入った時からさり気なく注視しているよう。誰も並んでいないし、テーブル席にはカウンターに男性がひとりしか座っていない。暇そうである。観察はあきらめて、てくてく受付に向かった。


受付の机はあれだ。チケット売り場みたいな仕切りと、窓ごとに狭い肘掛け?があり、その高さは私のおでこら辺だ。踏み台はないので仕方ない、下からお姉さんを見上げた。


「な、なにかご用でしょうか……?」


とくに美人とか、ただ者でない雰囲とか、何にもなさそうな受付お姉さんに、私はこくんとうなずいた。


「ぼーけんしゃ、とーろく、をお願いします」


「……っ、は、はい、わかりました」


ギルド登録は、税金がかかる六歳から可能だ。もちろん、私は六歳になっている。


微妙にひきつりながら、お姉さんは登録を済ませてくれた。簡単な質問のあと、不揃いな水晶板にちょっと触り、個人情報が調べられる。隠蔽した情報を読み取ったギルドタグ(鎖つきのドッグタグみたいなやつ)をもらい、ついでにスライムの魔石と、鹿の素材の引き取りを済ませた。


お礼を述べて常設依頼を見に行く。薬草探しと、ミニウサギ討伐。うむ、定番だね。ふむふむと色々な依頼内容を眺めていると、ギルドのドアが開いて誰かが入ってきた。足音がひそやかすぎるのと、依頼内容を読むのに夢中になっていて、気づかなかった。


「───おい、ガキがなにしてやがる」


「……えっ?」


低い声には凄味があり、思わずびくっと身体が震えた。すぐ隣にひとの気配が近づいてきて、横に下がりながら慌てて目を向ければ。


黒い少年と、白い少年。十歳くらいの二人組が、なぜかひとりは私を睨みつけ、ひとりはにこやかに見詰めていた。


ギルドで最年少、高ランク保持者のふたりとの、初の邂逅だった。





















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