第10話 雨あがりの木曜日⑤(ラーメンと半チャーハン)
「いらっしゃい! 二名さま、テーブルどうぞ」
涼太郎と晶矢は、学校を出て、駅の方に少し寄ったところにある町中華の店に来た。
どうやら晶矢が良く通っているお店らしい。
8人座れるカウンター席と、4人掛けのテーブル席が四つある。もう十三時なので、客足は落ち着いて来たところだろうが、それでも席は半分以上が埋まっている。
テーブルに座ると、置いてあるメニューを涼太郎に見せながら晶矢が言った。
「俺がよく頼むのはAセット」
メニューには、ランチのセットメニューが何種類か載っており、Aは『ラーメンと半チャーハン』とある。
「俺と一緒のやつでいい?」
「う、うん」
しばらくすると、店員のお姉さんがお冷を二つ持って来た。
「ご注文はお決まりですか」
「じゃあ、Aを二つで」
「はい、Aふた丁ー!」
晶矢がそう言うと、店員さんはカウンターの向こうの厨房に伝えるように、大声で注文を繰り返した。
店員さんの活気に圧倒されて、涼太郎はそわそわしながら、店内を見回す。
(晶矢くんは、すごいなぁ)
食券制の店に行くのが精一杯の涼太郎にとっては、こういうお店で堂々と注文出来る晶矢が頼もしく思えてしょうがない。
「はい、お待ちどうさま」
しばらくして、ラーメンと半チャーハンが二つずつ、運ばれて来た。
鶏ガラベースの透き通ったスープの醤油ラーメンには、自家製チャーシューが一枚、シナチク、もやし、わかめが添えられて、その下に細いちぢれ麺が待ち構えている。
チャーハンは、炒めた卵と、細かく刻んだチャーシュー、ネギがパラパラのご飯と絡み合って、香ばしいいい匂いがしている。
出来立てのチャーハンを一口食べてから、ラーメンのスープを啜ると、口の中にふわりと旨みが広がった。
「……おいしい……」
涼太郎は、余りのおいしさに目を見張る。
「だろ? ラーメンとチャーハン、この組み合わせは神ってるよな」
涼太郎は、この間晶矢が「ラーメンが好きだ」と言っていたことを思い出した。確かに、このラーメンは本当に美味しい。
夏の暑さをもろともせず、熱々のラーメンと半チャーハンを、二人は汗を垂らしながら、ペロリと食べてしまった。
店を出ると、外は暑くなっていた。雲間から、夏の日差しが見えて、熱くなった身体には堪える。
「あつ……」
涼太郎は思わず声が出てしまう。
「でもうまかったなー」
晶矢がシャツをつまんでパタパタと仰いでいる。今もの凄く暑いが、おいしいラーメンとチャーハンを食べて、満足感と幸福感に満たされていた。
「暑い中食べるラーメンも、おいしいね」
「夏といえば冷やし中華だけど、あえて熱いラーメン食うのもありだろ?」
「うん」
「んで、この後デザートを食べる」
「デザート?」
晶矢はそう言うと、涼太郎を中華店の少し先にあるコンビニに誘った。中に入ると、冷房がキンキンに効いていて気持ちがいい。
晶矢は、涼太郎に入り口横のイートインのところで待つように言って、レジでソフトクリームを二つ頼んで持ってくると、涼太郎に一つ「はい」と手渡した。
「あ、ありがとう」
二人は椅子に座って、ソフトクリームを頬張る。
熱くて塩気のあるものを食べた後に、冷たくて甘いソフトクリームは、身体に染み渡るように美味しかった。
ひんやりとした牛乳の風味が、熱を持った口の中で解けていく。
涼太郎は感動して、思わず感嘆のため息が漏れた。
「……っ美味しい」
「ははっ、マジで合うだろ?」
これが俺の定番コース、と言って笑う晶矢に、涼太郎は礼を言う。
「連れて来てくれて、ありがとう。僕、こんな美味しいの、知らなくて」
「気に入ってくれたならよかった。他にも定番コースあるからさ、今度はそっち行ってみようぜ」
「うん」
涼太郎は嬉しくて、晶矢に笑顔で頷いた。
「今日は、突然来て、ごめんね。あの、晶矢くんの連絡先が分からなくて、学校行ったら、いるかなと思って」
「ああ、うっかりしてたな」
晶矢がスマホを取り出そうとする。
「あの、僕、スマホ持ってなくて……」
「えっマジか」
「晶矢くんに会いたいって、思ったのに、僕、連絡先も家も、何も分からなくて」
「!」
「晶矢くんのこと、全然何も知らないことに、今更気づいて、慌てて、その……」
「……」
「学校に探しに、行って……」
涼太郎はそこまで言って「あっ」と思い、語尾が途切れてしまった。
(そうだ。晶矢くんも、学校中僕を探してたって言ってた)
初めて会った日に、自分が逃げてしまった時。その日から終業式の日に再会するまで一週間、晶矢は自分をずっと探していたと言っていた。
それなのに二回目再会した時も逃げてしまった。
せっかく会えたのに、逃げられて、その時晶矢は、どんな気持ちでいたのだろう。
(よくよく考えたら、僕、晶矢くんに、ほんと悪いことしたな)
涼太郎は過去の自分の失態を思い出すに連れ、晶矢に申し訳なくて、自分が情けなくなってきた。
「じゃあ俺んち来る?」
「えっ?」
過去の自分を悔やんで俯いていた涼太郎は、晶矢の突然の言葉に驚いて顔を上げる。
すると先程のように口元を手で押さえている晶矢の姿が目に入った。
そのまま口元を隠したまま晶矢が言う。
「家、教える」
「⁉︎」
(晶矢くんの、いえ⁉︎)
涼太郎たちは、晶矢の家に行くことになった。
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