暇人エディの下世話探訪

青井知之

社会問題としてのドラゴンカーセックス

 今月もやってまいりました。暇人エディの下世話探訪。第十八回目、今回のテーマはこちら。


 【ドラゴンカーセックス】


 さてさて、読者の中でこの言葉を知っている人はどれだけいるでしょう? ピンと来ないですか? ドラゴン生息域じゃない人は知らなくても仕方ないですね。筆者も最近まで知らなかったです。が、ドラゴンカーセックスというのは、一部地域で深刻な被害が出るほどの社会問題になっています。今回はちょっとマジメにおふざけ少なめで、社会問題としてのドラゴンカーセックスについて書いていこうと思います。


 はじめにドラゴンカーセックスを知らない読者に向けて説明しましょう。ドラゴンカーセックスというのは「車の中でドラゴンのようにセックスをする若者」のことではありません。そもそも、ドラゴンのようなセックスなんて知りません。ご存知の方は筆者の前で実演してみてください。ちなみに「車の中でドラゴンとセックスをすること」でもありません。そんなことが可能な人がいるならぜひ紹介を。最速で見学に行きます。


 マジメに行きましょう。ドラゴンカーセックスというのは、『ドラゴンが魔動車とセックスをする』ことを指す言葉です。みなさんは「生物と無生物がどうやってセックスするのか」と疑問を持つことでしょう。基本的にセックスは生き物同士で行います。(変態的なツッコミは禁止)ですので、ドラゴンの隆起したモノが、車の排魔口に突っ込まれることをセックスと呼ぶのか。オナニーではないのか。実はこれ、ドラゴン学者の間でも議論があるんですよ。でも、誰が言い始めたかわからないですが、ドラゴンカーセックスが定着してしまっていたので、一般的にはセックスでなくてもドラゴンカーセックスと呼ぶようになっています。言葉なんていい加減なもんです。


 ここまで書いて思ったのですが、ドラゴンカーセックスという単語が長い上に頻出するので、ここからはDCSと略して表記します。これは筆者独自の略語ですが、まあ、言葉なんていい加減な使い方でいいんですよ。


 話を戻すと、近年では技術の発展で大容量の魔力を魔道回路で扱えるようになりました。俗に言う効率化革命ってやつです。ここ二十年ぐらいで魔動車が大型化して、それに伴って排魔口が大きくなりました。なってしまったんです。だからこそ、DCSの問題が発生した。つまり、ドラゴンのモノが入るようになったんですね。ぜひ愛車の排魔口と自分のモノを比べてみてください。ドラゴンのサイズ感にビビりますよ。


 分かりきったことですが、ドラゴンという種族は人間を見下しています。今更言うまでもないですね。ドラゴンは明確に人間を格下の存在だと思っています。だから、ドラゴンとは仲良くなんてなれません。夢物語は本の中だけにしましょう。どうあがいてもDCSなんて見せてもらえません。彼らはプライドが高い生き物ですから。感覚器官も人間とは比較にならないです。微力な魔力も高性能魔力探知機並に見つけてくるので、人間が隠れて近づくのは、まあ無理です。遠視系魔法も対魔防壁で対策されているようです。だから、もしDCSを覗き見したいのであれば、命を賭けてください。バレてしまった場合はゲームオーバー。楽に殺してくれることを祈りましょう。一瞬で消し炭になれたのならラッキーですね。


 そもそも、なぜドラゴンは魔動車とセックスをするのでしょう。答えはありません。ドラゴンが教えてくれるはずないですからね。正解を知るためにはDCSを観察する必要があります。命懸けで。はたして、命を賭してまでDCSを探求する必要があるのでしょうか。まあ、普通の人にはないですね。ないから現在までドラゴンの神秘になっているわけです。


 ドラゴンが魔動車を犯せば、タダでは済みません。当然、車はめちゃくちゃになります。ドラゴンの体重や硬い鱗で押しつぶされ、大量の精液まみれになり、行為後、車は原型を留めていません。修理なんて無理。廃車確定。だから、七大ドラゴン居住域周辺では、DCS保険の加入が必須になっているんです。


 DCSの秘密が分かれば、理不尽に車が破壊されることもなくなるし、精液の凶悪な悪臭に昏倒させられる人も減ります。実は、筆者も取材中にドラゴンの精液の臭いを嗅いだことがあるんです。あの時、ドラゴンの精液の臭いだと理解する前に体が反応して、胃の中のものを全部ぶちまけました。次の瞬間には目と鼻に強烈な痛みが走り、涙と鼻水がとめどなく流れ、立っていられずに地面に転がって、自分の吐瀉物にまみれていました。おまけに髪の毛や服にドラゴンの精液の臭いが染み付いて、いろんなお店から出禁にされました。興味本位で近づくのは危険です。やめておきましょう。DCS処理のためには防毒マスクか、防毒魔法が必須です。


 経済的損害を考えれば、DCSを研究する意義はあるはずです。しかし、容易ではありません。ドラゴンは人間を嫌います。現在は人間との争いはありませんが友好関係でもありません。お互いに不干渉というだけです。彼らは知能が高いため無駄な殺戮などは行いません。だからといって人間に優しいわけでもありません。人間が気に入らないことをすれば容赦なく殺しに来ます。ドラゴンと人間は相容れない存在です。だから距離をとって共存するしかないのが現状です。


 DCSは街中で行われるわけではありません。ドラゴンは人目につく場所で醜態を晒すようなマネはしません。彼らが狙うのは夜、人目がない時間帯、そして、市街地から離れた場所に駐車している車、この条件に当てはまる車が対象になります。ですが、それだけではないことが分かっています。ドラゴンには車にも何かしらのこだわりがあるようで、同じ車種でも赤は犯され、青は犯されなかったという話も伝わっています。人間が一人一人好みが違うように、ドラゴンも車の色や形など、個体によって好みが違うと言われているのです。例えばある地方では無骨で角張った車が狙われやすく、別の地方ではピンクで丸っぽい車が狙われたりする。これが個体による差なのか、種による差なのか、詳細は不明です。まあ、熟女が好きとか、巨乳が好きとか、そういった系統の話の気もしますけどね。とにかく、有能なドラゴン学者ほどドラゴンに近づきすぎて早死するので、なかなか研究が進まないわけです。


 一つ面白い資料があります。ヴィオランテ保険会社が販売しているドラゴン保険の資料です。ヴィオランテは世界中で保険を売りまくっている会社です。美人のセールスレディが評判ですので、知っている人も多いでしょう。さて、ドラゴン保険の資料にはDCS被害車両の統計が載っています。それによると、ヴィオランテ契約者のこれまでの被害台数の総計は6852台。保険に入っていない人や、他の保険会社の人も考えると、10000台を超える被害が出ているのではないかと考えられています。ドラゴン被害車両の車種の統計では明確な傾向は出ていません。しかし、ドラゴン居住区ごとの統計では多少の偏りが出ているのです。地域や種族によってメスの好みが異なるということなのでしょうね。


 ドラゴンといっても様々な種類がいます。存在が確認されていない伝説の神竜、世界に七匹しかいないドラゴンの王、そしてその眷属、彼らは人間の前には現れないため、当然ながらカーセックスすることもありません。もちろん、車を目の前に置いた人などいない訳だから、しないと断言はできません。ですが、そもそも上位のドラゴンの体は大きすぎて、モノが入る車が存在しません。


 主にDCSをするのは、小型や中型、その中でも割と小さいサイズと言われています。知能の低い鳥に近いタイプはしないとも噂されていますが、目撃情報が極端に少ないので確定情報ではありません。目撃者の大半は死んでいますからね。犯された車の近くに人間の死体があった場合、おそらくそれはDCSの目撃者で、口封じに殺されと考えられています。ドラゴン学者のよくある死に方でもあります。死体が残らないことも多いですけどね。


 ドラゴン学者のマルク・デ・ボーニはドラゴンに犯された車から精液を集めています。あの激臭物を集めているのだから学者というのは大変なものです。筆者なら絶対に無理ですね。あんなのが近くにあったら食欲が消えて餓死します。彼によると、ドラゴン生息域であるクレリッチ国の被害車両から採取される精液はおよそ六種類であるといいます。精液というのだから、全部オスの仕業であり、メスが車に何かしたと言う証拠は今のところありません。ドラゴンの精液を直接採取できれば種族を特定できますが、当然不可能です。死体からなら採取できますが、死体といえども盗もうとすれば間違いなく報復にあうため、こちらもやろうとする学者はいません。いたとしてももう死んでいるでしょう。


 結局のところ、DCSというのはどんなセックスなのでしょうか。気になるところはそこです。見に行ったら死ぬとはいえ、好奇心を殺すことはできません。人間から好奇心を取ったら何も残りません。世界中のドラゴン学者もどうにかして観察できないものかと日々知恵を絞っています。そもそも車とセックスするのだから、ドラゴンは車に欲情していることになります。でなければモノが勃ちませんからね。ドラゴンと車、まるで似ていません。生物と無生物だから、ドラゴンのオスが車をメスと勘違いするなんてことはありえません。種によって知能の差はあれど、そこまでの間抜けはいないですし。


 数百年前、人の命が今よりもずっと軽かった頃、人まだドラゴンとの距離が近かった時代、人間はドラゴンとも殺し合うこともありました。英雄と呼ばれる戦士たちによって、ようやく中型のドラゴンまでは討伐がされていました。それ以上のドラゴンはとても人間の敵う生き物ではなかったのです。その時代の文献には小型のドラゴンですら人間の言葉を理解し、コミニュケーションが可能であったとされ、無学の人間よりもよほど賢かったという記述もあります。ようするに、ドラゴンはバカではないし、車を別の何かと勘違いしてもいないし、車を車と理解して犯しているのです。


 DCSはドラゴンのモノを排魔口へ突っ込むことで行われます。小型のドラゴンは一般の乗用車、中型のドラゴンは貨物運搬用の大型車を対象としているようです。排魔口は使用によって魔力結晶で覆われており、ドラゴンにはそれが気持ちいいのではと推測されています。無論、ドラゴンのモノが気持ちいいのであり、人間が使うと大怪我することになります。どんだけ硬いんだよという話です。


 それでは、ドラゴンはなんの目的でカーセックスをするのか。現代のドラゴン学者の間では主に三つの説が唱えられています。


 一つ目は練習説。一言で表すならセックスの練習ですね。若くて経験不足なドラゴンがメスと本番をする前に練習としてカーセックスをするというわけです。はたして、車がドラゴンのメスの代わりになるのかという疑問はあります。ですが、人間にも似たような用途のダッチワイフが存在する以上、ドラゴンも車で同様の行為をしている可能性を否定できません。目をつぶって好きなドラゴンのことを想像しながら、ズコズコやっているのかもしれません。


 二つ目は発散説。簡単に言えば性欲の発散です。魔動車の排魔口がモノを突っ込むのに最適な大きさで、しかも、いい感じに刺激してくれる魔力結晶で覆われています。よくできたオナホールなんですね。だから、性欲が高まってムラムラしてきたドラゴンがスッキリするために、大人のおもちゃとして車を利用しているというわけです。


 三つ目は本能説。現代の魔道車がどういうわけかドラゴンの本能を刺激してしまう。ドラゴンは理性を失い車を犯してしまう。魔動車にチャームの効果があるのではという説ですね。本能でやっているのなら、片っ端から犯されているでしょうし、もっと被害が出ていてもおかしくありません。


 個人的には発散説に説得力を感じます。だからと言って、証拠があるわけではありません。直接聞くことができればなんの苦労もないですが、ドラゴン調査には命の危険がありますし、法律の壁も立ちはだかっています。今から五十年前、世界中の国々が参加するドラゴン対策会議において、ドラゴン不干渉の原則が合意されています。ドラゴン居住域のある全ての国でドラゴンとの接触が禁止されています。違反者は終身刑。上位存在のドラゴンを本気で怒らせれば滅ぶのは人間なのですから、為政者からすればドラゴンと関わらないことが最善です。ドラゴンの逆鱗に触れかねない危険な因子は牢屋に入れておくしかないのでしょう。今後もずっと法律が変わることはないし、DCSの秘密が明らかになることもないのでしょう。


 いつの日か、ドラゴンたちから真実が聞ける時が来ることを信じたいですね。さて、暇人エディの下世話探訪の十八回目、今回はドラゴンカーセックスについて書いてきました。社会問題としての側面に注目しましたので割と真面目だったと思います。いつもはもっと下品な感じなんだから勘違いしないでよね! 


 このコラムでは読者の皆さんからのネタを大募集しています。面白いことがあるからここを取材してこいというネタがありましたら、編集部までお便りください。下品なネタ大歓迎ですよ〜。

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