第151話 変装のムデン

 それで、ムデンはエメラルド姫の護衛、ということになった。もっとも名前だけの話で、当面は屋台村も面倒見ることになる。

「なんならその屋台とか引いてリアン国に来ればいいじゃない」

 エメラルド姫は、そんなことを言った。後年実際に屋台二〇〇〇台と従業員を運んだところ、エメラルド姫はひっくり返ることになるがそれはまた別の話である。

 それで話としては一件落着、となるのだが、実はもうひと悶着、ふた悶着あった。

 一つ目はムデンに召喚状が出たことである。外国の貴族二人を民間人が倒した、というのはそれだけで大事件なのだった。もっとも、被害者側であるニクニッス貴族の片方、生き残って悪い憑き物が落ちたようになったキーオベンチ男爵が、ホーナー元侯爵がご乱心なされたのだ。シレンツィオだとか屋台で働いていたエルフを決めつけ襲い掛かったのだ、と証言し、またシリヴリンもその証言を肯定したが、とはいえ、片方だけの意見を聞くわけにもいかん。となってしまったのである。

 国際問題なのできちんとした取り調べが行われることになったのだった。

”取り調べにでるのは構わないと思いますが、同じ人がリアン国のお姫様の護衛というのはよくありませんね。別の問題が発生します”

”そうだな。仕方ない。顔を変えるか”

 それでムデンは魔法を使って変装することにした。体力が落ちていることもあって、動きに違和感がないよう、老人のそれになっている。口ひげも綺麗に切りそろえ、銀髪も脂で撫でつけた、老紳士という有り様である。ただ色気だけは、残った。

「え、まって、私の決意はどうすれば」

 変装を横で見ていたテティスが、そんなことを言って自らの胸を抑えた。

「決意とはなんでしょうか。お嬢様」

 ムデンは大げさな仕草で礼をしてみせ、テティスの性的な趣味趣向を再度捻じ曲げた。もうぐわんぐわんである。

「酷い!」

 顔を両手で隠してテティスは叫んだ。

 ボーラがムデンの肩の上で腕を組んだ。

”最高と”思ってますよ。ムデンさん”

”そうなのか?”

「違います。その羽妖精は嘘をついています」

「そうでございますか。ですがテティスお嬢様に嫌われるのは困りますな。もう少し、若くいたしますか」

「待って」

 テティスはムデンの手を取った。ムデンはテティスの顔を見る。テティスは表情を見られぬよう、全力で横を見た。

「待ってください。まあ、見慣れればまあまあいいかもしれません」

”だから最高だって言ってますよムデンさん”

 ボーラはテティスに追われた。一説では一日中追いかけ回したことになっている。ちなみにガットは匂いが同じだから一緒といい、ウリナは腕を組んでこれはこれで!と大声で褒めたという。


 悶着のもう一つはもともとの護衛である銀髪のエルフが、ムデンをひどく嫌ったことである。

「お前は駄目だ。なんだかアルバの種馬みたいな感じがする」

 大正解である。

「私が決めたことよ」

 エメラルド姫は腕を組んで言ったが、護衛はちっとも退かなかった。言い返してもエメラルド姫が罰したり根に持ったりしないことを知っているからである。

「いや、しかしお姫様。私もニクニッスから派遣されているという立場がありまして」

「ニクニッスだからってアルバの人に似てるからって断るような道理があるわけないでしょ!」

 エメラルド姫、この時エルフ年で一一歳である。中々頭が切れると言ってよかろう。言われた護衛はひどく難しい顔をしたあと、うなだれた。

「確かに。似てるからといって処罰するのはおかしいですね。分かりました。が! 実力は試させてもらうぞ!」

 銀髪の護衛は即座に短剣で襲い掛かった。ムデンは指二本で短剣を挟むとその場で固定した。その後は護衛が押しても引っ張ってもどうにもならなかった。

「すごいわね! 魔法?」

”魔法ということにしてください”

「左様でございます」

「ほらっ、この人すごい魔法の使い手なのよ」

「魔法は甘えだ!」

「まあ、そうかもしれませんな」

 ムデンはそう言った。笑いもしなかった。


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