【春休み編完結】今日も幼馴染の水着姿を眺めたい!

綾乃姫音真

プロローグ

下から見る幼馴染の胸

 ここ1年、毎日のように放課後や気が向いた休日に過ごした場所はムワッとジメジメ。年間を通してそんな空気が篭っていて、息を吸えば塩素の匂いで肺がいっぱいになる。そんな屋内プールの空気が俺は好きだった。


 うちの高校にはせっかく1年中使える屋内プールがあるのに、不思議と水泳部は存在せずに使われるのは夏場の授業だけ。正直言って勿体ないなぁなんて思っていた。


 転機は3年の春だ。この年の新入生のふたりがプール同好会を作ろうなんて思いついたのが始まりだった。部活にしちゃうと水泳部って形になって真面目な顧問がついて大会とかを目指さないといけなくなってしまう。


 プールで遊びたいだけの彼女たちはあくまで同好会として申請しようとしたけれど、最低人数に必要なあとひとりが見つからない。正確にはプールだし、水着姿が目当ての男子なら簡単に見つかっただろうけど既に集まっていたのが全員女子だったこともあって、その選択肢は選ばれなかった。


 代わりに白羽の矢が立ったのが俺だった。いや、その流れでなんで別学年の男を巻き込もうとするんだよ! そうツッコミを入れたけれど、


「兄さんならエロい目で見るとしてもほぼほぼ姫姉さんだろうから問題ないかなと」


「問題あります! 大アリです!」


「嫌じゃないでしょ?」


「ぅ……ノーコメントです」


「あれー? 姫姉さんはなんで赤くなってるのかなー?」


二葉ふたばちゃん!」


 そんな義妹発起人幼馴染巻き込まれのやり取りに、俺は黙るしかなかった。幼馴染の氏姫うじひめをそういう目で見てるのは事実だし、片想いを自覚している身としては否定もできない……。


 という感じで、俺の参加が決定してしまった。確かにプールを自由に使えるのは嬉しいけど、そもそもプール同好会なんて申請が通るとは思えないし最初は名前を貸すだけのつもりだった。


 しかし、次の日にはしっかりと許可を取って来たんだよなあいつら……。俺は正式にプール同好会のメンバーとして名簿に載ってしまった。予算もついて翌週からプールを自由に使えるようになってしまったという……これが4月の終わりくらい。氏姫や二葉はともかく、残りのふたりが嫌がるだろうと俺は遠慮しようとしたんだが、


「顔合わせくらいしとかないと」


「ゴールデンウィークはどこも混むけど、学校のプールならすいてますよ」


 など、もっともな理由と魅力的な提案を持ってくる二葉と氏姫に引っ張られるようにしてずるずるずるずると参加してしまう。

 最初こそ警戒していた感じだった残りのふたりも6月になると、


「ふっふっふ~! 阪口せんぱーい! 小田ちゃんのおっぱい揉み心地最高ですよ? 羨ましい?」


「ちょっ、あんっ、やだっ、一樹くん、み、見ないでください!」


「氏姫さん、嫌がってる割には無抵抗ですよね」


「あれは……胸を揉まれてる羞恥心と兄さんが注目してくれてる嬉しさを天秤にかけて無抵抗を選んだ感じね」


「……なぁ、冷静に解説するのやめてくんね? 俺はどう反応するのが正解なんだ?」


「さっさと告ればいいんじゃない?」


 こんな会話が日常になるくらいには馴染んでいた。俺は結局、大学受験で忙しい時期を除いて卒業の直前まで同好会のメンバーとして学校のプールに入り浸っていた。内心、どこのギャルゲーだよと思いつつも……正直、楽しかった。氏姫も居るし、な。


 そして、1年が過ぎ卒業式も終わり同好会のメンバーに氏姫との関係を誂われつつも温かく見送られ――







「どうしてこうなった」


 ついそんな疑問が浮かんできて口に出してしまった。もうこのプールとはさよならだと思ってたんだけどな。


「どうかしたんですか? 一樹くん」


 なんて幼馴染の言葉が降ってくる。大学生の俺と高校生の氏姫。いくら家が隣とはいえ学校が違ってしまえば会わない日が増えると思って勝手に寂しく感じていたのにだ……平日は毎朝家の前で、休日は高校のプールで顔を合わせている。


 彼女は自分の膝に頭を乗せている俺を覗き込むようにしているために、表情がよく見える。照れくさそうな、嬉しいような、そんな表情。頬に少し朱がさしているのもわかるし、それでいて視線は時折外れることはあっても基本的に絡まったまま。


 両手を正座した脚の両側についているためか、俺の目の前でCカップの胸が少し寄せられ強調するように形を変えていた。氏姫が身につけているのは赤い競泳水着、しかも数分前まで泳いでいたために濡れて身体に張り付いているせいで、ラインがよくわかり目に毒だ。


 凝視するのも悪いし、なにより怒られると目を逸らそうとしてもついつい視線が向いてしまう。悲しい男のサガだった。


「いや、なんで卒業したのに高校のプールに顔を出してるのかなと思ってな。それも日曜に」


 胸を意識してしまっているのを誤魔化すように会話を続ける。


「春休みに不法侵入騒ぎがあって、休日に同好会や部活で校内活動する場合は安全のために必ず顧問か学校の許可を得た外部コーチがつかないとならないからですね」


「それは知ってる。何故に先月までここの生徒だった俺がコーチ枠として許可されるんだと思ってな……しかもこの同好会、いま女子しか居ないんだが? 普通は同年代の男とか却下だろ」


「逆に卒業生だからじゃないですか? 3年間生徒として通ってたので先生たちも人となりをわかってるし、新しく他から探すよりよっぽど信頼できると思います」


「……プール同好会なんてモノが認められる学校だしな」


 水泳部なら理解できる。けど、プールで好き勝手遊ぶだけの同好会はなぁ……私立とはいえ、校風が自由すぎるだろうと。


「ですね」


「……」


「……」


 会話が途切れるも、長年の付き合い。それこそ父親同士が親友なのもあって、氏姫に関しては生まれた直後から知っている相手だ。今更無言くらいじゃ気まずさなんてない。


 枕にしている幼馴染の太ももの肉感を楽しむ余裕すらある。


「一樹くん」


「ん?」


「あの……膝枕してるじゃないですか」


「されてるな」


「……胸をチラチラ見てる視線の動きがバレバレなんですけど」


 そりゃ、目の前に好きな娘の胸があれば誰だって見るわ! むしろどこかの百合っ娘みたいに揉みしだきたいとすら思ってる!


 ――なんて正直に言えるはずもなく。言えるなら義妹含め後輩たちに「さっさと告ればいいのに」「阪口先輩と小田ちゃん、まだ付き合ってなかったんですか? 焦れったいんだけど!」「えっと……お互いの気持ち……わかり合ってますよね?」なんて冷たかったり、生暖かい目を向けられたりしない。


「気にするな」


「……別にいいんですけど」


 指摘した側もされた側も頬の赤味を1段階増す。氏姫のやつ……脚に俺の頭が乗っていることを意識したのか、複雑そうな顔をした。同好会メンバーで太ももの肉付きが最も良いの気にしてるからな……。俺的には最高なんだけど。俺の好みまで知っているせいで本人としては嘆けばいいのか、喜べばいいのか微妙らしい。と二葉が言っていた。


 俺と氏姫が幼馴染なら、義妹の二葉と氏姫も幼馴染だからな。ある意味では相談相手としては当然なんだろうけど、身近なふたりに性癖を把握されてるのはどうなんだろうな……。


 そんな思考を誤魔化すように、氏姫を観察する。目が少し潤んでるか? 相変わらずまつ毛長いな……それでいて童顔と言えばいいのか、年齢よりも若干幼く感じられる顔立ち。表情は大きくは変わらないけど、しっかりと読み取れる。


 現在、プールにはふたりしか居ない。期待しているけど、無いだろうなぁ……そんなことを思っているのがわかる。そして俺も同じような表情をしているのが自覚できた。


 ようするに――お互いに自分の気持ちと相手からの好意に気づいているけど、自分から行く勇気がなく告白待ち。双方の両親や周りから「いつどっちから告るか」なんて賭けが行われている。それが俺と氏姫の関係だった。


 俺の卒業で接点が減りそうなとこで、今回の外部コーチ枠として休日は高校のプールに入れるのは幸運と言える。


「……はぁ」


 幼馴染の胸を下から見ながら、様々な感情を読み取られそうなため息をつくのだった。

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