世界樹の枯れた世界で女神になりました。

読み手のネコ

女神様との出会い

 ありとあらゆる農業シュミレーションゲームとか、牧場経営シュミレーションゲームにのめり込むほどドハマリした私、豊場咲菜《《ほうじょうさくな》》は、齢18歳でどうやら死んだらしい。


 寝る間も惜しんでたし、食べることすら忘れることが多くなってたけど、そんな生活の末に衰弱死したの……かも?。


 死後の世界って天国とか地獄とか極楽浄土に行くって話をよく聞いてたから、私もそんな感じの場所に行くのかなーって思ってたんだけど、意識が遠のいて──ハッとしたした時には──薄暗い世界で、目の前に翼が生えた人がいた。


 翼の生えた女の人が、不気味なくらいニコニコした笑顔でゆっくりと近づいてくる。威圧されて一歩後ずさると、グイッと前に詰めてくる。


 怖くなって、走って逃げた。それはもう全速力で……。でも、結局あっけなく捕まってしまった。もう、なるようになれ! とすべてを諦めて思考を放棄する。怖い思いをしたくもないからぎゅっと固く目も閉じた。


 …………。


 しばらくしても何もされないから薄目を開けてみる。追いかけて来た人を見ると翼の生えた人はゼーハーゼーハ―と肩で息をして、呼吸を整える様子は、もはや私どころじゃなさそうだった。


 私の視線に気づいたんだろう「ごめん、話があるんだけど、もうちょっと待って……、走ったの久しぶりでしんどくて……」と言う翼の生えた人は悪い人には見えないし、話を聞くだけ聞いてみようって気になったから、翼の生えた人の息が落ち着くのを待った。


ーーーーー


「で、あなただれ?」


「失礼しました。こう見えても……! 私はなんと、あなた達の元いた世界では女神と言われているような存在です!!」


「はぁ……、あなたが女神様だとして……ここはどこ? なんで追いかけてきたの?」


「場所なんてささいな事です、この場所は魂と対話するための応接室だと思ってください、

♪ 生と死の間の世界ではあるんですけど、そんな仰々しい場所でもありませんし、追いかけたのはせっかくの魂を逃がさな……、農業知識が豊富なのに若くして亡くなられた貴女とぜひ、お話がしたかったからです」


 今逃がさないって言おうとしたような……。


 でもいちいち聞いてたら話が進まないし、ぐっと飲みこんで話を進める。


「引きこもりの私に?」


「はい、その通りです。私は最期の時期にどう過ごしていたかなんて気にしないので」


「農業知識が豊富って……、齢18の不登校女子が知ってる事なんて大したことないと思うんだけど……?」


「知識というより、あなたに価値を感じたので!」


 女神様はニコニコと話しをしてくれるけど、言ってることは結構……胡散臭いし ?威厳らしいものは全然感じない。


「それで何か用ですか?」


「もしよければ女神になって、私の世界へ一緒に来てくれませんか?」


「嫌です」


「断らないでください。私は本気です。真面目な話ですので嫌がられると困ります」


「だって、話の意味が分からないし……。えっと、女神様の世界って? 私もしかして天界の住民にでもなれるの?」


「私の言う世界というのは天界ではありません。私のことを祀ってくれている世界のことです。ですが、その世界がちょっと問題を抱えていて……。単刀直入に要件だけ申しますと……。私の世界に来たうえで、あなたの知識や経験を生かして枯れかけている世界樹を元気にしてほしいのです♪」


「世界樹って? あの物語とかで聞くめちゃくちゃ大きな木のこと?」


「そうですね、めちゃくちゃ大きな木です! めちゃくちゃ大きくて、めちゃくちゃ管理が難しいのに、海や大地といった自然を活性化させたり、人々の扱う魔法の源を供給していたり、世界にとってめちゃめちゃ重要な存在という、めちゃくちゃ鬱陶しいあの世界樹のことです。鬱陶しいんですけど……世界にとっては本当に大切な木なんです……。そんな世界樹を助けてくれませんか?」


「荷が重いので無理です」


「ケチですね! 女神の一生のお願いです。私は本当にこれまでに一度も使ったことがないので、きわめて価値の高い一生のお願いです。助けてください。必要とあらば土下座もしましょう。必要とあらばあなたの足を舐めてもいいです。お願いですから助けてください……」


「助けてとか、一生のお願いって簡単に言ってるけど、なにをすれば世界樹って元気になるの?」


「人々の女神への信仰を取り戻し、忘れ去られた世界樹への奉納文化を再開させる必要があります。しかし……」


「しかし?」


「今となっては……、居るかも分からない女神に奉納するのは、奉納品がもったいないと言いまわるニンゲンが多く現れたんです」


「もったいないから奉納しないって……、どんな奉納してもらってるの?」


「お酒や野菜といった食べ物ですね。もともとは小さな村だったので村の創設時からみんなが私を信仰してくれて、不満もなかったんです。ですが、あとになって村の外から来たニンゲン達は女神に食べ物の奉納なんてばかばかしいと思っているようで……」


「あー、だから女神になって、存在を信じてもらうためにその世界に行けってことね」


「理解が速くて助かります」


「でもそれって、私が女神になる必要ってある?」


「それが問題部分につながっているのです。村に住み着いた外から来たニンゲン達は、世界樹の生み出した地力という魔法の源になる力を使って野菜を大量に作るようになりました。そして、その野菜で商売を行い、自身の財産を肥やすことで夢中になっていまして……」


「え、まって、魔法? あの魔物とか倒すのに使うあの魔法のこと? そんな魔法で野菜育ててるの?」


「私の世界に魔物はいません。私の世界では農業に限らず、様々な魔法を外のニンゲン達は使って、貴重な地力をむさぼるんですよ。髪を乾かすなどのしょーもない魔法や、時間の経過を速めるなど、地力消費が激しい魔法など、無遠慮にもほどがあるんです」


「でもさ、野菜を魔法で育てるなら、別に私じゃなくてもよくない? 女神はちゃんとこの世界にいますよってわかってもらうだけなら、女神様が行けばよさそうだし」


「私ではダメなんです。魔法を使わないでも野菜を育てれるほどの農業知識を持った人が、どうしてもあの世界には必要で……」


「え、魔法使わないでってどういうこと? 魔法があるなら使えばいいのに」


「世界樹が枯れかけている原因は魔法の使い過ぎなんですよ……。なので、私は魔法の使用をやめさせたいんです。ですが、今魔法をニンゲン達から取り上げれない理由がありまして、ちょっとしたクイズですが、楽して食べ物を作ることに慣れたニンゲン達が魔法を使えなくなるとどうなると思いますか?」


「困るんじゃない?」


「その通りです。そこで、魔法を使わないで野菜を育てられるくらいの知識を持った先導者が必要なのですが……、私も魔法に慣れた身なので、言ったところでなんの役にも立てません 」


「案外何とかなるかもよ? 女神様なんだし奇跡とか起こせるでしょ? 神様なんだしもっと自信持てばいいのに」


「私は自身を過大評価するほどバカではありません。行くだけ無駄とはっきり分かります。何もできないダメダメな女神と思われて終わりでしょう。信仰してもらえず世界樹を枯れさせてしまう未来が鮮明に見えます。私が行くのはダメなんです」


「それって自身満々で語ることかな……」


「痛いところをついてきますね、気にしないでください」


「でも、どうして私なの? 私なんかじゃなくて、経験豊富な農家のおばあちゃんの方が絶対いいって」


「では、問いましょう。信仰対象が年老いたおばあちゃん女神であるのと、18歳のうら若き女神。どちらが住民の士気向上につながると思いますか?」


「それは……若い方なんだろうけどそれでいいの?」


「ニンゲンはおろかな生き物なので……」


「……、まぁつまりは、行く先の世界では実益と士気向上のために、農業知識が豊かな若い女必要で私が選ばれたってことなのね? でも、他にも探せば私以外にもいい人いると思うけど」


「私があなたに、サクナに来てほしいと思っているんです。あなたは誰かの笑顔のために一生懸命になれる心の持ち主です。なので、他の誰でもないサクナに私の世界の人達を笑顔にしてほしいんです。あなたのような人の変わりなんていません」


 誰かを笑顔にする。それが私が生前に感じていた生きがいでやりがいだった。

 

 たとえそれがゲームの中の住民だとしてもそこで笑ってくれるなら十分嬉しいと思えるほど。まぁ、その生きがいに夢中になりすぎて命を落としたわけだけど……。


「──いいよ、女神になっても。その世界樹も元気にするし、女神様の世界に暮らしてる人たちも笑顔にしてあげる」


「え、いいんですか♪ 本当ですか!?」


「その代わりにね──」


 女神として女神様の世界に行くことは了承した。でも、これだけは約束してほしいことが1つあった。


「なんですか? 私の世界に来いただけるのであればどんなお願いでも……!」


 会ってすぐから女神様の様子が気になっていた……。


  話しながらでもどことなく感じていた違和感はおそらく勘違いでもないと思う。


 ──だから、この約束だけは絶対に守ってほしい


「──私がちゃんとみんなを笑顔にできたら、女神様もその無理してる作り笑顔はやめてちゃんと心から笑ってね」


 私のお願いを聞いた瞬間、オーバーリアクション気味だった女神はしんと静かになる。「はぁ……」とこぼしたため息はどこか気だるげで、生気を感じないくらい表情が落ちた女神に私は恐怖を覚えてしまった。


ーーーーー

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