「返信 ―to/of modern society―」
縞あつし
序章 気がかりな夢
その朝、佐倉小春が目を覚ますと、布団の中で見慣れない銃を握りしめていた。
どうにも気がかりな夢を見て、吐き気とともに目が覚めたのだ。
いたってシンプルな銃だった。
銀色で、装飾ひとつない。銃身が上腕くらいの長さがある。決して小型ではなかったけれど、大きすぎるほどでもない。そのサイズに見合わない
たっぷり三秒ほど見つめて瞬きをする……すると、やはり銃である。
今一度握りしめると、揺るがない硬さに包まれていた。安物のオモチャじゃないのは明らかだ。グリップまで金属できているのか、温もり残る手の平に冷たく張り付いている。
銃をそっと置くと、小春は呆れてため息をついた……やれやれ、これも全て、受験が悪いに違いない。
脅迫と教育は「はい」という言葉で繋がっているものだけれど、中でも受験というシステムは格別の苦労で
アダムとイブなら、楽だった。歴史の試験も、『昔はどうでしたか』、『知らない。わたしから始まった』、それで済む。
親戚のひとりは、受験で失敗して生きるのが辛くなって自暴自棄になって車とともにスクラップになった。そう言えば、昨日読んだ小説の登場人物は、鳩の餌が原因で自殺しようとしていた。鳩の餌が原因で自殺しようとするのだから、受験ならなおのことだ。
そうとも、きっと受験勉強のストレスのせいで、頭がおかしくなってしまったに違いない。
ありそうなことだ……そのうち、頭の中がスクラップになってしまうだろう。佐和との関係が妙なのも、すべて受験が悪いのだ……。小春はつらつらとそう考えながら、またため息をついた。その間も目は瞑ったままだった。目を開けばまたいつも通り、灰色の朝に戻っていることだろう。
そう思って目を開けると、銃は相変わらずベッドの上にある。
小春は飛び起きると、まじまじと銃を見直した。けれどいくら見直したところで、銃は銃でしかない(まったく、当然のことだ)。
小春はぐるぐるぐるぐる部屋の中を
ドアも窓も鍵がかかっていて、部外者でなかったのは結構だけれど、これはつまり、完全に異常な事態ではないか。小春は再び
ひたと足を止め、大仰な息を吐いた。
(そっか)
小春はひとり、納得した。
(私はまだ、夢を見てるんだ……)
事をそう解釈した小春は、ベッドの頭で針を打つ時計を見ると、机と床に散らばっていた教科書を慌てて机脇のスクール鞄に詰め込み、服をベッドの下から引っ張り出した。その最中、ふと、動きを止めた……今一度手元を見つめた。銃を手に持ったまま着替えていたのに気づいたのである。
それは瞬きをする、ほんの僅かな間だった。その短い硬直の間、特に何を思うでもなく、考えるでもなく、奇妙な時間が過ぎた……突然、小春は思い出したように鉄の塊を鞄に放り込むと、着替えを手早く済ませ、鞄を大きく振りかぶって部屋を飛び出した。
※2017年に執筆したものとなります。全章、無断転載は禁止となります。
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