第10話 英雄達との攻略
「ここがロジピースト城か…」
父さん達はここへ初めて来たようで、最初の俺達と同じように見上げている。
一気に大所帯になった上に居るのがほぼ身内のようなものだから変な気分だ。
因みにダンジョンなどはその場所毎にパーティー人数に上限があるのだが、ロジピースト城は最大8人までなのでこの人数でも問題ない。
基本的に、タンク・アタッカー・ヒーラーの比率が1:2:1というのが推奨されている構成だ。
俺達のパーティーはというと
タンク→父さん・カイト
アタッカー→俺・クレハ・恭介さん・沙織さん
ヒーラー→母さん
となるので、ヒーラーがもう1人居れば完璧といったところだろう。
まぁ俺とカイトも多少回復スキルを使えるので、バランスとしては悪くない筈だ。
「じゃあ攻略方法は各ステージ始める前に伝えるから、早速挑戦しよう!」
親達が加わったがカイト主導は変わらず、全員納得して後に続いた。
「え?あの人達英雄像そっくりじゃない?」「ファンなんじゃね?」といった他のプレイヤー達の言葉を聞き流し、扉の前に立つ。
【ロジピースト城へ入りますか?】というお馴染みの表示にYESボタンを押す。
もちろん母さんに「ちゃんとYES押してな!」と念押しするのも忘れない。
「さすがに間違えないわよぉ」という信用度の低い言葉を聞きながら中へと転移された。
「じゃ、始めるか」
と、ここでは特に説明もせずカイトと俺とクレハはウルフに向かってズンズン歩く。
僅かに戸惑いつつも迷う事なく後に続いてくれる父さん達。
俺達に気付いたウルフが、闘争心剥き出しで走ってくる。
目の前まで来るも慌てる事なく口を開いた。
「ハウス。」
「バっバカ!こっちに来るな!」
こちらの命令に従順に従って壁に擬態したスナイパーへ駆けるウルフ。
あんなに苦戦したというのに攻略方法さえ分かってしまえば一階層のなんと容易いこと。
「よっしゃ全員でボッコだ!」
というカイトの言葉を皮切りにスナイパーを全員で叩く。
なにせ英雄達の加わったパーティーだ。
可哀想なぐらい瞬殺だった。
「よし次だ」
「もう終わりなの!?」
流石に驚きを隠せず沙織さんがカイトにツっこむ。
これでも数多くのプレイヤーが脱落した階層なのだと声を大にして言いたい。
「次の階層の敵は攻撃すればするほど強化されるゴーレムだ。これはある段階で動けなくなるから、とにかく倒すまで攻撃し続けてくれ」
階段を登りながら説明したカイトに俺とクレハは「わかった」と揚々と頷き、父さん達は「わ…わかった」と躊躇いがちに返事をした。
これが何も分からないまま挑戦した人間と最初から攻略方法を聞いて挑戦する人間との温度差か。
2階層の扉を開くと、前回倒せなかったゴーレムがあの時と同じ様に佇んでいる。
攻撃の度に強くなるのがネックだが、動けなくなるまで耐え抜くことさえ出来ればこちらの勝ちだ。
「では俺とカイト君でアイツを引き付ける。みんなは全力で攻撃してくれ」
父さんが武器を引き抜きながらそう指示する。
カイトと頷き合い、敵のヘイトを高めるスキルを同時に発動した。
タンクが二人もいると安心感がすごい。
「っしゃあやるぞ!」
とカイトが声を上げ、父さんと一緒に駆け出す。
近づいた事で起動したゴーレムが二人を視界に捉えた。
「遅い!」
ゴーレムの攻撃を悠々と躱して剣を振るう父さん。
大きな両手剣を持っているとは思えない俊敏な動きだ。
カイトも負けじと片手剣でゴーレムの脚を斬りつける。
「なるほど、攻撃する毎に装甲が厚くなっている訳か」
冷静に分析しながらも的確にゴーレムに矢の雨を降らせる恭介さん。
あんなに大量の矢が一本も溢れず命中するとはどういう事なのか。
「行くわよぉ〜!」
スキル発動までに時間が掛かっただけあって、沙織さんの放った光属性魔法は強力だった。
巨大な光の柱がゴーレムに落とされる。
一気にゴーレムの動きが加速し、強力な攻撃が父さんを襲った。
どうやらカイトより父さんの方がヘイトを多く稼いでいるらしい。
ゴーレムの動きが変わっても焦る事なく、避けるどころか剣で軌道を変えるようにゴーレムの拳を往なしている。
「朔也さん頑張って〜」
と、気の抜けた声を上げながらも父さんのHPが減る度にすかさず回復する母さん。
なんならついでに防御力アップの補助までしていて抜かりない。
「や!」
そんな英雄達の凄まじい攻撃の中で、決して味方の邪魔をせず確実にゴーレムのHPを削るクレハ。
軽やかな動きでゴーレムの腕や胴体を足場に跳びながら斬りつけている。
いや皆んな凄すぎない?
「俺も役に立たないとな」
ただ見学するだけで終わるわけにはいかない。
スキルを発動し、氷の精霊であるフラウを召喚した。
水色と青の配色のペンギンだ。
「行けフラウ!」
召喚されるなり氷の滑り台を出現させたフラウは、俺の声に合わせるようにその滑り台をお腹で滑る。
滑り降りた勢いのままゴーレムの方へ飛んでいき、右脚へとクチバシで突き刺さった。
途端に、フラウが攻撃した脚が凍りつく。
「ナイス!アヒト!」
その俺の攻撃に合わせるように右脚の後ろへと回り込み胴体に斬りかかるカイト。
3年間一緒にプレイしているだけに、何も言わなくても俺とカイトは連携が取れる。
強い敵にも通用する俺達の強みだ。
怒涛の攻撃でゴーレムは更に硬さも力もスピードも上がり、いつしか俺では目で追うのも難しくなってきた。
それでも父さんは一切ブレる事なくタンクとしての役割をきっちり果たしている。
お陰で皆んな安心して攻撃に集中でき、防御力が上がっている筈のゴーレムのHPがとどまる事なく減っていく。
「ギ…」
そしてその瞬間が来た。
突然、ゴーレムの動きがピタリと止まったのだ。
それまでの動きが凄まじかっただけに、いきなりの急停止で頭がバグるかと思った。
「よし!あとは制限時間内に削り切るだけだ!」
カイトの言葉を合図に、もうゴーレムの動きを気にする必要が無くなった俺達は猛攻撃を開始する。
因みに途中で気付いたが、母さんはニコニコしながら俺達全員を強化してゴーレムを弱体化させていた。
ただでさえ木人形と化しているゴーレムに対してえげつない。
制限時間は15分だったが、結果として10分掛からずに倒す事ができた。
「3階の敵はスライムだ」
さっさと階段の方へ歩を進めながら解説を始めるカイト。
勝利の余韻にくらい浸らせてくれ。
まぁカイトは5階層まで到達してるから喜びも何も無いんだろうが。
「ここからは共同作業が必要になってくる。部屋に赤・青・緑の3色のレバーがあって、その中心に魔法陣があるんだ。ほら、あれだ」
3階の扉を開け、中に入らずに指をさすカイト。
確かに、ここから見て入って直ぐの場所に1つと両サイドの壁に近い所に一つずつレバーがあり、その大きなトライアングルの中心部にうっすら光る魔法陣が見えた。
そしてその魔法陣より奥に、赤紫色の2メートルくらいあるスライムがいる。
「あのスライム色が変化するんだけど、レバーを倒して魔法陣をそれと同じ色にしなきゃいけないんだ。で、同じ色にした魔法陣の中に誘いこむと攻撃ができるって仕組みだ。因みに普通に攻撃しても殆どダメージを与えられない」
なるほど、それは確かに皆んなで協力しなきゃクリアが難しいというのも納得だ。
もしソロだったら、レバーを倒す為に端から端まで走って更にスライムを真ん中に誘い込むという気が遠くなるような作業の繰り返しになる。
ヒィヒィ言いながらやった挙句に時間切れするのが関の山だ。
そんな説明の途中で沙織さんが口を挟む。
「赤と青と…緑?黄色じゃなくて?」
「恐らく光の三原色なんだろうね」
沙織さんの質問にカイトではなく恭介さんが答える。
「光の三原色?」と首を傾げる沙織さんに続けて説明する恭介さん。
「色付きのスポットライトの光を重ねて色を作るのを想像したら分かりやすいかな?その基本の色さ」
「あぁ〜そんなの昔習ったような気がするわぁ…」
勉強が嫌いなのかテンション下がり気味に沙織さんが言い、恭介さんが苦笑する。
恭介さんは絵を描く仕事などしているので割と馴染み深いのかもしれない。
「父さんの言う通り、あのレバーは光の三原色だ。スライムは全部で6色に変化する。赤・青・緑はそのまま同じ色のレバーだけを倒せばOK。で、赤紫は赤と青、空色は青と緑、黄色は緑と赤のレバーを操作すれば作れる」
カイトの説明を聞き沙織さん以外がふむふむと頷く。
2色混ぜる辺りから付いていけなかったようだ。
そんな沙織さんをスルーしてクレハが小さく手を上げながら質問する。
「それじゃあ、敵を引きつける人・レバーを操作する人・攻撃する人に分かれれば良いの?」
「その通り!敵を引きつけるのは俺より朔也さんの方が上手そうだからお願いします」
「了解した」
「で、レバーを操作するのは父さんとクレハちゃんと俺でやろう。母さんとアヒトは攻撃をお願いして良いか?」
カイトの割り振りに皆んな意義無く頷く。
言わずもがな沙織さんの安堵はすごい。
もちろん理解出来ていないというのもあるが、沙織さんと俺が攻撃役に回されたのにはもう一つの理由があった。
「新たに判明した事なんだけど、色ごとに攻撃属性を変えた方が効果も高いんだってさ。赤は火、青は水、緑は風、赤紫は闇、空色は氷、黄色は雷が効きやすい。まぁ見たまんまだな。こっちはレバーと違って間違えても攻撃効かないとかじゃないから、可能な限りやってくれ」
色と対応属性については沙織さんも大丈夫だったようで、俺と一緒に大きく頷いた。
「あ、もう一つ言い忘れてた。あのスライム時々毒攻撃もしてくるから、朔也さんが毒を食らったら小春さん直ぐに解毒して。それ以外は小春さんの判断で動いて良いから」
「はーい」
母さんも笑顔で頷く。
カイト・クレハ・恭介さんの担当色も決め、作戦が固まった俺達はようやく部屋へと足を踏み入れた。
全員が中に入ると、お決まりのように前後に半透明の壁が現れ【20.00】という表示が階段上に出る。
今回の制限時間は20分のようだ。
恐らく少ないパーティーメンバーで挑む人達も考慮してこの時間なのだろう。
「始めるぞ」
そう言って父さんがスライムに挑発スキルを使った。
カイトとクレハが両サイドにあるレバーまで走り、恭介さんは手前の緑のレバーの前に立つ。
初期のスライムの色は赤紫なので、青担当のカイトと赤担当のクレハの出番だ。
先に着いたクレハがレバーを倒し、続けて到着したカイトもレバーを倒すと中央の魔法陣が赤紫色に変わった。
魔法陣は直径1メートル程しかない小さなものだが、父さんはその上に確実に導いている。
「行くわよアヒトくん!」
「ラジャ!」
沙織さんの掛け声を聞き、赤紫スライムなので闇の精霊シェイドを召喚した。
紫のフクロウが出現し、闇を纏った羽をスライムに向けて飛ばす。
同時に沙織さんも闇魔法をぶつけ、スライムのHPが少し減った。
目測で20分1ほど削られたところでスライムの色が変わる。
変色した瞬間カタンッと音がして、レバーが初期化したのがわかった。
なるほど、間違ったレバーを倒したらリセットする事も出来ず、次に色が変わるまで必死に攻撃し続けなければならないのか。
魔法陣を利用できないと本当にちょこっとずつしかHPを削れないらしいので、ミスるととんでもないタイムロスになる。
「次は黄色だ!クレハちゃん、父さん!」
「ええ!」
「わかってるとも!」
しかしカイトの指示は的確で、クレハや恭介さんも間違えそうな気配が無い。
父さんも、攻撃され続けているのにスライムが必ず魔法陣の上に乗っているという状態をキープしている。
レバーの操作ミスの心配も魔法陣への誘導待ちも無いとなれば、集中して攻撃するのみだ。
「よっしトール!」
コーギーそっくり雷の精霊を召喚する。
短い足でテシテシ走りながら吠えると雷撃が落とされた。
そんなトールを距離があっても目をキラキラさせて見るクレハが今日も可愛い。
立て続けに沙織さんも雷を叩き落とし、再びスライムが変色して今度は青色になった。
すかさずカイトがレバーを倒す。
「青ってことは…ウンディーネ!」
ちょっとだけガッカリしているクレハお気に入りのトールが消え、代わりに白と紺色のカワウソが出現する。
「なにそれカワイ!!」
カワウソが好きなのか、空中を泳ぐ姿を見て鼻息を荒くする沙織さん。
初代BTOでは召喚術士はまだ無い職業だったので、初めて見たのだろう。
頬を染めフーフー興奮する姿は変態にしか見えない。
クレハの反応とはエラい違いだ。
それでも攻撃の手を休めるということはせず、ウンディーネの攻撃と共に次々と水球がスライムに着弾する。
今度は赤スライムに変わったので、クレハがレバーを倒すと同時にイフリートを召喚した。
カワウソが消え、黄色と赤のキツネが現れる。
そんな目で見ないで沙織さん!
マジでクレハを見習って!
そんなこんなで、スライム戦はただただ順調だった。
時折父さんが毒攻撃を受けるが、母さんが秒で治すのでヒヤリともしない。
問題があるとすれば…飽きてくるのだ。
最初の内は初めての事で色に対応するのもドキドキ感があったのだが、慣れてくるとよもや作業と化してくる。
同じパターンの繰り返しだからだ。
カイト達に関してはレバーを倒すだけなので尚更飽き飽きしているだろう。
そんな作業状態に痺れを切らしたのは、意外にも穏やかな性格をしている恭介さんだった。
突然恭介さんがスライムに向けて矢を放ったのだ。
ビックリしてみんなが見ると、恭介さんは涼しい顔で言った。
「別に、遠距離攻撃したって良いよね?」
その言葉でカイトがハッとする。
「あっ、確かに…!効果が高いってだけで、魔法陣の色さえ正しければ属性攻撃じゃなくてもダメージは通るんだった…」
言われてみれば、律儀に対応属性魔法のみで倒そうとしていた。
物理攻撃でも効くなら全員で攻撃した方が良い。
「よし、メンバーチェンジだ!俺とアヒト、クレハちゃんと母さ…小春さん交代で!」
俺も沙織さんを外したのは賢明な判断だと思う。
近距離攻撃しか出来ないカイトとクレハがレバー担当をやめ、遠距離でも大丈夫な俺と母さんが代わりに入る。
「それじゃあ、色が揃ったら一斉攻撃で!」
そこからは早かった。
レバーを倒して魔法陣の色が変わった瞬間に俺と沙織さんは属性魔法を、それ以外のみんなが斬撃や矢を当てまくる。
スライムのHPの減り方も一気に上がった事でレバー作業もちょっと大変になったが、結果的に15分掛からず倒すことができた。
「さぁ!このまま4階層だ!」
特に問題なく順調に進み、勢いのままカイトが次を指し示す。
「おー!」と返事をしながら皆んなで4階層に続く階段へ向かった。
この時、俺達は気付いてもいなかった。
既に攻略失敗は確定していて、悪魔が陰でニヤニヤ笑っていたのだという事に――。
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