人多くね?


 ニーナが1人でお仕事を頑張れるのかが心配だった俺は、魔王と共にこっそりと図書の二階にある入口から部屋に入る。


 この図書は三階まで吹き抜けになっており、好きな場所から中に入ることが出来た。


 そして、二階に入って気づいた。


 何か人が多くね?と。


 趣味や探し物でこの図書を利用する人もいるだろう。しかし、魔王の話しではこの図書に来る人は少ない。


 しかし、2階から3階はかなり多くに人が1階からは見えない位置でスタンばっているように見える。


 と言うから、スタンばっている。


 あれ?今回は魔王軍の人達も来ないんだなとか思ってたけど、もしかして皆ニーナを見に来てる?


 今話題の【骸の王】の妹的存在であり、ガルエルにも一切ビビらない胆力を持つ少女。


 そんな少女が魔王城で見習い司書として働くと言うのに、噂事が好きな魔王軍の人達が来ないわけがない。


 つまり、コイツらはニーナを怖がらせないように配慮しつつも、こっそりニーナを見に来たのだ。


「よう。ノア。やっぱり来たんだな」

「おはようガルエル。ここにいる人達は、皆ニーナを見に来たのかい?」

「当たり前だろう?お前の自慢の妹を一目見ようと、多くの奴らが集まってる。特にノアの人気が高い第四魔王軍の面々はほぼ全員来てるな。お陰で二階から三階にかけて人でギチギチだ。ニーナは人気者で羨ましいぜ」


 全力で気配を消しながら図書に潜むガルエルはそう言いながら、対面の三階を指さす。


 確かにそこにはブロンズやシャードそして、第四魔王軍の面々が集まってニーナを一目見ようとしていた。


 授業参観でももう少し落ち着いた雰囲気になってるよ。皆、ニーナが見たすぎて軽く喧嘩している。


 それでもできる限り音を抑えているのは流石だが。


 俺が第四魔王軍の人たちに呆れていると、後ろから声を掛けられる。凛とした静かな声。


 我らが軍団長、レオナだ。


「おはよう。いい天気だな」

「おはようございます........まさかレオナ軍団長まで見に来るとは思わなかったよ。この感じだと、幹部の人達は全員居そうだね」

「居る。そして、ジャンケンで負けた」

「........?」


 意味がわからなさ過ぎて首を傾げる俺。


 急に話題を変えられても困りますレオナ軍団長。


 酒が入ってた時はいい感じに話せていたのに、素面だとコミュ障過ぎるね。


 キャッチボールして欲しいな。というか、せめて俺に向かってボールを投げて欲しい。


 多少ズレていてもグラブの中に収められる自信はあるが、流石に真後ろに投げられると取れないんですよ。


 犬みたいに“取ってこい”とかされても厳しい。


 それでも頑張って会話をしようとする推しは可愛いなと“全肯定マシーン”になっていると、魔王が補足を加えてくる。


 空気の読める魔王はやる時はやってくれるのだ。


「言葉が足らなすぎるじゃろ........この後ニーナには客への対応をさせるつもりでの。その役を誰がやるのかを魔王軍幹部の中でじゃんけんしたのじゃよ。ちなみに、妾も参加したが普通に負けた。あそこでチョキを出しておれば、今頃扉の前でタイミングを見計らっていたと言うのに........!!」

「あぁ、なるほど。演者を決めてたのね。レオナ軍団長、流石にあれだけじゃ分からないよ」

「........済まない」


 しゅんとしてしまうレオナとそれを見て“全く、こいつは........”と頭を抱えるガルエル。


 俺は推しと話せて嬉しいが、流石に会話にならない会話をされても対戦出来ない。


 完全にデッキ事故を起こしてたな。初動カードは多めに入れとけって習わなかったのだろうか。


 そんなことを思いつつも、ニーナの初仕事を眺める。


 ニーナは本を戻す作業を任され、うんしょうんしょと大きい本を頑張って戻していた。


(((((((か、可愛い)))))))


 元々ニーナは可愛い。そんなニーナが頑張ってお仕事する姿は、あっという間に魔王軍の者たちを魅了する。


 小さな歩幅でありながらも、しっかりと本を抱えながら棚の前まで歩き、本棚に戻す。


 メリーもニーナの身長に合わせた本を選んで戻させているので、ニーナが困ることは無い。


 ゆっくりながらも、頑張って本を戻し終えたニーナが次にやるのは本の貸出作業だ。


 メリーと仲のいいらしいガルエル曰く、そこまで難しい仕事ではなくニーナの主な仕事はこれになるだろうとの事。


“本のタイトルと自身の名前、そして貸出日を書いてください”と言って紙とペンを渡し、終わったら紙とペンを回収するだけの簡単なお仕事。


 しかし、6歳児からすればかなり難関な仕事かもしれない。そもそも子供は遊ぶのが仕事なんだしな。


 ニーナはメリーに連れられて、受付にちょこんと座らされると、タイミングを見計らっていた魔王軍幹部の1人が図書の中に入ってくる。


「ガハハ!!今日はどんな本を借りるとするかな?!」


 余りにもわざとらしすぎる演技をしながら図書に入ってきたのは、魔王軍幹部のザリウスであった。


 よりによってお前かよ。そのモフモフの毛並みは素晴らしいが、どう見ても人選ミスにしか思えない。


「........演技下手」

「あまりにわざとらし過ぎて、逆に凄いのぉ。妾でもあそこまでの大根役者にはなれぬぞ」

「だからザリウスに任せるのは反対だったんだよ。もう少し上手く演技してくれよ。後、大声を出しすぎだ馬鹿が。ニーナが怖がるだろ」


 大ブーイングを食らうザリウス。


 まぁ、確かに演技が下手すぎるし人選ミスである。しかし、ここまでわざとらしい方が、ニーナも安心して対応出来るかもしれない。


 間違えたとしても、練習って分かるだろうしな。


 ザリウスは早速適当な本を手に取ると、ニーナの待つ受付へと言って本を優しく置く。


 最初に大声を出しすぎたのを反省したのか、今度はすごく大人しかった。


「お嬢さん。こいつを借りるぜ」

「ん、ならこの紙に本のタイトルと自分の名前、それと日付を書く。これ、紙とペン」


 ちょっと無愛想だが、ちゃんと言われたことを出来て偉いな。


 紙とペンを渡されたザリウスはサラサラと名前を書くと、ニーナにその紙を渡した。


「ほい。これでいいか?」

「........ん?ここ違う。“トムエルの冒険”が“トムエルの冒険”になってる」

「あ?........あ、ほんとだ。済まねぇ。普通に間違えたわ」


 そう言いながら、訂正をするザリウス。


 凄いなニーナ。ちゃんと間違いを指摘できるとか、もう完璧じゃん。


 これなら、安心して受付を任せられる事だろう。


「つくづく六歳児とは思えぬの。ちょいと賢すぎやしないか?」

「俺もそう思う。世の中には何百年と生きてきても成長しない人も居るって言うのにね」

「全くだ。六歳児に負ける100歳越えの婆さんも居るんだから、世の中不思議だよな」

「おい、お主ら?なぜ妾を見る?」


 魔王も少しはニーナを見習ってくれ。そしたら、少しは問題行動も減ってくれるだろうから。


 ノリと勢いだけで毎日魔王城に騒ぎを起こすロリ魔王め。ニーナの爪の垢を煎じて飲ませたいね。


「よし、これで問題ないだろ。大丈夫か?」

「ん、問題ない。返却は2週間以内。それまでに返しに来るように」

「おうよ!!嬢ちゃんも頑張れよ」


 ザリウスはそう言いつつ、自然とニーナの頭を撫でようとする。


 が、相手が例え勇者様であろうと頭だけは撫でさせないニーナは、スっとザリウスの手を避けて軽くザリウスを睨んだ。


「私を撫でていいのはにぃにとシスターマリアとブラッドにぃの3人だけ。それ以外は、頭を撫でるの許さない」

「........ガハハハハ!!そいつは悪いことをしちまったな!!次からは気をつけるよさ。詫びと言ってはなんだが、俺の毛並みを触ってみるか?気持ちいいぞ?」


 たとえ相手が魔王軍幹部相手であろうとも、ニーナはブレないなぁ。


 俺はニーナの逞しさに涙しつつ、ザリウスをモフってちょっと楽しそうにするニーナを見守るのであった。

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