ファンとして好きってだけだよ!?

『それでは、登場していただきましょう! スルーズ諸島空軍曲技飛行チーム、ブルゥゥゥゥ! レイブゥゥゥゥンズ!』


 高らかなナレーションと共に、飛行場上空右手側から戦闘機6機が三角形のデルタ編隊で現れた。

 空軍の主力戦闘機、F-16Cファイティングファルコン。

 全機の背中がコブのように大きく盛り上がっており、国旗と同じ青と黄色のツートンという派手なカラーリングを纏っている。

 スルーズ諸島空軍のアクロバットチーム、『ブルーレイブンズ』の登場だ。


「待ってましたーっ!」


 ストームが元気よく叫ぶ。

 6機のF-16は、エンジンノズルから白いスモークを吹き出しながら、目の前を通り過ぎると、ゆっくりと大きく宙返りを始めた。

 まるで1枚の板と化したように、編隊に一切の乱れなく宙返りを決めて見せ、大空に大きな白い円を描いた。

 宙返りを終えた6機は、スモークを止め、そのまま左手側へ右旋回しながら離脱していく。


「『デルタ・ループ』かっこいーっ! ブラボーッ! ブラボーッ!」


 ストームは、いつになくはしゃいでいる。

 立ち上がって右手を振りながら、左手に持つカメラのシャッターを何度も押すほどには。


「ストーム、座って座って」

「あ、ごめん」


 隣に座るツルギに注意されると、ストームは周囲の視線に気付いて慌てて着席。

 青い制服を身に纏った生徒達が、四角形に並べられた席に礼儀正しく座っている中で立ち上がるのは、当然マナー違反である。


「ア、変ワル」


 サハラがつぶやく。

 旋回して戻ろうとしている6機編隊に、動きがあったのだ。

 デルタ編隊の外側を構成する4機が、ぬるり、と後ろに下がる。

 その結果、編隊は逆Y字型に変化した。


「あはっ! 今日はスワン編隊だ!」


 ストームが口にしたその編隊の名は、翼を広げた白鳥をイメージしたもの。

 そんなスワン編隊で戻ってきた6機は、再びスモークを吹き出すと、そのまま左バレル・ロールを披露。

 やはり、編隊には一切の乱れがない。


「『スワン・ロール』かっこいーっ! ブラボーッ! ブラボーッ!」


 相も変わらず写真を撮りながらはしゃぐストームの叫びは、ワンパターンになりつつある。


「おいおい、ショーはまだ始まったばかりやで? 騒ぐのはまだ早いんとちゃう?」

「何言ってるの! あんな編隊組めるだけでも、とーってもすごい事なんだよ! パイロット6人の息をぴったり合わせなきゃいけないんだから! かっこいいに決まってるよ!」


 呆れ気味のフェイに語る言葉も、熱を帯びている。

 そんな様にも、ツルギは見惚れていた。

 夢中で見ているストームもかわいいなあ、と。

「ってゆーてるけど、旦那としてどうなんやツルギ?」


 フェイが、いきなりツルギに話を振ってきた。

 ツルギの視線に気付いたストームが、慌てた様子で弁明し始めた。


「ち、違うよ!? ファンとして好きってだけだよ!? パートナーとして一番好きなのはツルギだから! 浮気なんかじゃないよ!」

「わかってるよ、そんなの」


 とはいえツルギにとっては、笑えるほどのいつもの光景。

 目の前で飛んでいるのは、ストームの『憧れ』だと知っているから。


「シーッ!」


 そんな風に騒いでいるものだから、サハラに注意されてしまった。

 見れば、6機は再び右側から戻ってきている。

 先程と同じくデルタ編隊で宙返りを始めたが、スモークを出していない。

 そして、真上を向いた辺りで捻りを入れ、背を向ける。

 そして、腹を見せる形で真下を向いた瞬間、スモークを出して6方向へ散開。

 スモークが、まるで開いた扇のような軌跡を描く。


「『レイン・フォール』! これからソロ機が分かれるよ!」


 ストームの説明通り、その後6機は4機と2機に分かれた。ソロ機と呼ぶのは後者だ。

 まず、左右から進入したソロ2機が、正面で背を見せながらダイナミックにすれ違う、ナイフエッジ。

 4機は菱形のダイヤモンド編隊を保って宙返りする『ダイヤモンド・ループ』や、4機同時にエルロン・ロールを決めてみせる『シンクロ・ロール』を披露。

 そして、ソロ1機がスモークを出さない代わりにアフターバーナーを点火して360度旋回という、戦闘機ならではの機動も披露。


「それにしても、いい演技するなー」

「ウンウン」


 4機が縦一直線のトレイル編隊から、優雅にダイヤモンド編隊に組み替えながらバレル・ロールする、『トレイル・トゥ・ダイヤモンドロール』を見ながらつぶやくフェイに、サハラが頷く。

 そんな時、ストームが不意にツルギの両耳を両手で覆った。

 いきなりどうしたんだ、とツルギが思った直後、突然轟音が響いた。


「うわっ!?」


 ツルギを含めた、誰もが驚く。

 別の1機がアフターバーナー全開で、編隊を追いかけるように高速で通り過ぎたのだ。


「はははははは! やっぱり『スニーク・パス』すごーい!」


 喜んでいるのはストームだけ。

 このようなサプライズ的演技がある事を、知っていたようだった。

 その後も演技は続く。

 ツルギが特に驚いたのは、5機と1機の合わせ技。

 車輪ギアを下ろした5機のデルタ編隊を、正面から1機が潜り抜けながら上昇。

 その名も『トンネル』。

 少しでも位置がずれたら大惨事。まさに6機の息が揃ってこそできる大技だった。

 そして、6機全機が再集合すると、いよいよクライマックスだ。


「さあ、『ファイナル・ブレイク』だよ!」


 6機が正面からやってきて、垂直まで上昇すると、ゆっくりと6方向へ散開。

 直後、6機全てが赤い火の玉を次々とばら撒いた。

 それはフレアという戦闘用の装備なのだが、まるで花火のように空を彩った。

 途端、会場が拍手に包まれる。


「決まったーっ! ブラボーッ! ブラボーッ!」


 ストームは夢中でシャッターを連射。

 こうして、ブルーレイブンズのアクロバット飛行は、無事に幕を閉じたのだった。

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