れいんぼー、ろーず……?

「れいんぼー、ろーず……?」


 サハラが、首を傾げる。


「確か、花弁を虹色に染めたバラ、だったっけ?」


 ツルギの疑問に、そうそう、と嬉しそうに頷くストーム。


「うーん、いくらみんなバラでお揃いやからって、弱そうやないか? もっとかっこええ名前にせえへん?」

「ええ、そんな事ないよ!? ねえツルギ!?」


 フェイの反応が予想外だったのか、ストームは少し慌ててツルギに話を振った。


「え? い、いや、日本には昔、花の名前が愛称の戦闘機部隊があったんだよ。確か、『芙蓉部隊』だったかな……」


 ツルギは驚きながらも、とっさに思いついた言葉でフォローする。


「レインボーローズの花言葉は、『無限の可能性』……」


 一方のオフィーリアは、感心したように聞こえのいい言葉をつぶやく。


「悪くないセンスだと思うわ」


 ぱあ、とストームが笑顔を取り戻す。


「一応聞くけど、何か異論はあるかしら?」


 オフィーリアが他の3人に確認する。


「僕は、ありません」


 真っ先に答えたのはツルギ。


「異論、ナシ」


 続いて、サハラ。

 そして、フェイはというと。


「うーん……4人いるから、『四槓子スーカンツ』なんてダメか?」


 悩んだ末に、そんな愛称を提案したが。


「キャッカ」


 サハラに、即拒否されてしまった。


「じゃあ、『四暗刻スーアンコ』!」

「キャッカ」

「『大四喜ダイスーシー』!」

「キャッカ」

「ス、『四連太宝スーレンタイホー』!」

「キャッカ!」


 結局、全て却下された挙句に、サハラからゲンコツを軽く一発くらうフェイ。


「麻雀カラ、離レナサイ!」

「す、すんまへん……ウチの負けや……」


 ともあれこれで、反対意見はなくなった。

 ストームは、左腕を高く掲げて宣言する。


「じゃあ、レインボーローズで、けってーい!」


     * * *


 その夜、4人はリード基地の宿舎で宿泊する事になった。

 ここはあくまで仮の宿。明日になれば、戦闘機科に合流するべく、この基地──いや、この基地がある小スルーズ島を離れる事になる。

 軍隊らしく無駄な飾りのないシンプルなリビングに、4人は集まっていた。

 ソファーでは、フェイがサハラの膝に頭を預けて寝ている。


「はあ……張り切ってリーダーやったのに、全然ダメやった……これじゃ社長なんて夢のまた夢やで……」

「落チ込マナイデ。ヨシヨシ」


 フェイは、サハラに頭を優しく撫でられて、慰めてもらっている。

 そんな2人の様子を、ツルギはぼんやりと見ていた。

 あの2人も仲いいんだな、と。


「はい、できたよ」


 ストームに呼びかけられて、顔を戻すツルギ。

 その右手首には、オフィーリア教官からもらった白バラのブレスレットがついている。

 ツルギはこれを、ストームにつけてもらっていたところだったのだ。


「ありがとう、ストーム。やっぱり上手だね」

「どういたしまして! あはっ、ペアルックだ!」


 ストームも、お揃いのブレスレットをつけて嬉しそうだ。

 とはいえツルギは、アクセサリーをつける習慣がないので、照れくさく感じてしまう。


「ペアルックか……やっぱり慣れないな、こういうの……」

「すぐ慣れるよ。もう一緒の指輪つけてるじゃない」

「それは、そうだけど……」

「あたしは嬉しいよ。ツルギの一緒のものがまた増えて」


 すると。

 ストームは不意に、ツルギの膝上に腰掛けてきた。

 いきなりストームに背を預けられて、どきり、と胸が高鳴るツルギ。


「ああー、よかったー! ほんとよかったー!」


 ストームは自らの右手をツルギの右手に絡め、ぎゅ、と握った。

 ストームの体温と感触、そして匂い。

 それを間近で感じたツルギは、酔いしれる感覚に陥って何も言えなくなってしまう。


「これで学園も一緒に入れなかったらどうしようって思っちゃってたもん!」

「……それ、弱音?」


 ツルギがようやく絞り出せた言葉が、それだった。


「さあ、どうでしょう?」


 すぐ近くで、顔を見合わせる。

 間近にあるストームの笑顔は、混じりけのない純粋なもの。

 それを見ただけで、ツルギは不思議と元気が沸いてくる。


「でも、弱音なんか吐いてられないよ。やっとスタートラインに立てたんだもん。あたし、がんばるから。あたしのためにも、ツルギのためにも。あたし達は、運命共同体だもん」

「ストームは、ほんと前向きだな……僕なんか、せっかく足が治る見込みはあるって言われて入れたのに、治らなかったらどうしようって、不安でたまらないんだ……」

「だったら、元気にしてあげる」


 ストームは、左手でツルギの顎を引き寄せ、そのまま唇を重ね合わせた。

 とろけるような口づけに、一瞬で酔わされてしまうツルギ。

 自然と、空いていた左腕でストームの腹を抱いていた。

 受け入れるどころか自ら吸い返し、口づけは深さを増していく。

 そして。


「さはら、素直デ、強ガラナイふぇい、好キ」

「あんがと……ウチも、サハラの素直なとこ、好きや……」


 ストームとツルギに触発されたのか、フェイとサハラも、そっと唇を重ね合う。

 2組の若き夫婦が交わす熱い口づけは、それからしばしば続いたのだった。


 4人分のシャワールームが並ぶ、シャワーブース。

 遂に口づけだけでは満足できなくなった2組の若き夫婦は、ブレスレットと指輪以外で身につけているものを全て脱ぎ捨て、それぞれ右端と左端のシャワールームに入った。

 そして、熱いシャワーの中で、激しく愛を確かめ合う。


「ツルギィ……好きぃ……んむ……んん……っ」


 ストームとツルギは、車いすの上で抱き合いながら。


「ン……ンム……ッ、ふぇい……ふぇいぃ……」


 フェイとサハラは、立って抱き合いながら、それぞれ激しく口づけし合う。

 直に異性の滑らかな肌を味わうツルギとフェイの手は、本能的にそれぞれの相手の豊満な胸に伸びた。

 掌に収まりきらないサイズの胸を揉みしだかれた途端、ストームとサハラは我慢できずに唇を離し、甘い声を上げる。


「ん……っ!? んん……んは……っ、あぁ……っ」

「ム……ッ!?  プハ……ッ、ハァ……アァ……ッ」


 尚も口づけは頬や喉元に続き、2方向から攻められる2人は喘ぎ続ける。

 ストームは自ら受け入れるように、サハラは少し余裕がなさそうに。


「あん……はぁん……っ、あぁん……っ!」

「アッ……アァ……ッ、ンアア……ッ!」


 2組の若き夫婦は、2つ向こう側に別の相手がいる事も忘れて、愛欲に溺れていった。

 彼らの熱い夜は、まだ始まったばかりである──


 フライト1:終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る