つるぎッテ、ニンジャ?
かくして、ターボレットに乗り込むツルギ達4人。
その際、ストームは車いすごと軽々ツルギを持ち上げて、一同を驚かせた。
座る座席は、ヴィオレット・スルーズ1世号と違い、まるで通勤電車のように壁側に並んでいた。しかもパイプ椅子のように簡素。
旅客機らしい華やかさのなさが、あくまでも軍用機である事を知らしめている。
4人は、機内の中央部分──つまり主翼の真下辺りに固まって座るようベルに指示された。機体のバランスをとるためだ。
ツルギとストームが右側に、フェイとサハラが左側に隣り合って座る。
シートベルトをしっかり締めれば、準備完了。
窓から外を見れば、プロペラがゆっくりと回り出したのが見えた。
* * *
ターボレットは、エリス空軍基地から飛び立った。
旅客機らしい、緩やかかつ静かな離陸だった。
エリス空軍基地が、どんどん離れて小さくなっていくのが見える。
代わって、広大なインド洋が眼下いっぱいに広がる。
風が弱いからか、海面はとても穏やか。海水の透き通った青さがより際立っている。
「どう? きれいでしょ、スルーズの海!」
「うん、そうだね。こんな場所にずっと住んでたストームが羨ましいよ」
「えへへ、まあね。でも、これからはツルギも一緒だよ」
デジタルカメラを窓の外へ向けるストームと、何気ない会話を交わすツルギ。
「シートベルトを外していいわよ」
コックピット左側に座るベルが、呼びかけてきた。
4人はシートベルトを外し、ようやく自由に動けるようになる。
とはいっても、そうしたところでツルギはその場から動けないのだが。
そんな彼を気遣ってか、ベルがまた話しかけてきた。
「そんな座席だと座り心地悪いでしょう?」
「い、いえ、大丈夫です。むしろ広くて車いすでも移動が楽でした」
「そう、パラシュート降下仕様を選んだ甲斐があったわ」
軍のこの手の飛行機は、用途に合わせて内装を変更できるようになっている。
その気になれば普通の旅客機と同じ座席を設置する事もできるのだが、今回は車いすの人が乗るという事で、あえて簡素ながらも機内を広く使えるこの仕様を選んだようだ。
「ハイ」
すると、不意にペットボトルの水が差し出された。
サハラだ。どうやら奥にしまってあったものを持ってきてくれたらしい。
「あ、ありがとう」
礼を言って受け取るツルギ。
サハラはストームにも、同じくペットボトルの水を差し出す。
「ふぇい」
サハラは、フェイにも渡そうとしていたが、
「おっ、来た! ポンや! よーしよしよし! これでテンパイや! さあ来い来い!」
フェイはスマホと真剣ににらめっこしている。
テンションが少し高いせいか、サハラの呼びかけに気付いていない。
呆れたような表情をしたサハラは、無言でペットボトルをフェイの脇に置いて、ツルギ達のところへ戻ってきた。
「フェイ、何やってるの?」
「まーじゃん」
ストームの質問に、サハラは肩をすくめながら一言答えた。
どうやら麻雀ゲームをやっているらしい。
フェイは麻雀が好きなのか、と思いながら、ツルギはペットボトルを開けて水を飲む。
そんな矢先。
「ネエ。つるぎッテ、ニンジャ?」
ストームの反対隣に座ったサハラの、突拍子もない質問。
ツルギはそれに驚いて、盛大に水を噴き出してしまった。
「だ、大丈夫?」
「げほっ、げほっ、あ、ありがとう……」
ツルギはストームが差し出したハンカチを受け取り、口元を拭きながらサハラに確認する。
サハラは、ツルギがどうしてそんなリアクションをしたのか理解できていないのか、不思議そうな目つきをしている。
「サハラ、忍者って、どういう事さ……?」
「ダッテ、ニッポン、ニンジャノ国……」
そんなステレオタイプな偏見を、実際に耳にする時が来るとは。
ツルギは呆れつつも、答えようとしたが。
「ツルギはニンジャくらい強いよ! 剣道めちゃくちゃ強いし!」
なぜか、ストームが代わりに答えた。
「ちょ、ストーム!」
ツルギは止めようとしたが、サハラはむしろ乗ってきてしまった。
「ケン、ドー?」
「ほら、竹刀使って『イヤーッ!』ってやるアレ!」
ストームは竹刀を振るうジェスチャーを使いながら説明する。
「ツルギの剣道ってかっこいいんだよ! ねえ?」
「う、ま、まあ……そう言われるのは、嬉しいな……」
ストームに誉められてしまうと、ツルギもさすがに照れて言い返せない。
「あ、それなら、ニンジャっていうより、おサムライ、かな?」
「サムライ……! つるぎ、スゴイ……!」
サハラが子供のように目を輝かせている。
「デモ……」
だが、すぐにその表情は曇ってしまった。
憐れむようなその視線は、動かせなくなったツルギの足に向いていた。
「うわああああああっ!」
突然、フェイがこの世の終わりのような悲鳴を上げた。
何が起きたのかと驚いて顔を上げると、
「そこで倍満は強いな……くーっ、これはもう終わったくさいか……?」
フェイはスマホの画面を見て、騒がしく悔しがっている。
どうやら、やっている麻雀で大きな動きがあったようだ。
「おっとぉ!? え、え、え、え──!? ちょ、これ役満いけるんとちゃう!? あるで! まだあるで!」
と思いきや、今度は急にテンションが上がり始める。
「来た来た来た来た来た! よーし、
まるでスポーツ観戦でもしているかのようなやかましさ。
そんな様に呆れたのか、サハラは困った様子で席を立ってフェイの隣へ行き、
「シーッ!」
人差し指を立てて、フェイを注意した。
さしものフェイも、これには毒気を抜かれてしまい、謝るしかない。
「す、すんまへん……」
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