スキル「プルート」が使えないとパーティーを追放されたが、実は凄い能力だった。帰ってきてなんとかしてくれと言われてももう遅い ~隠しステータス「遅死」で世界最強~

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第1話 沈黙のスキル

 空に千の太陽が一度に輝いたなら、それは神の輝きにも似ているだろう。そしてわたしは破壊神……死神となる。

 主よ、決して我らを、許し給うことなかれ。





 朝日が昇る頃に剣の稽古。それが僕の日課だ。部屋で身支度を済ませて、真剣を持って外に出る。

 庭に出る途中、台所で既に朝食の準備をしている母さんに出会った。


「おはよう、母さん」


「おはよう、ディース。今日はいよいよね」


「うん」


「いいスキルを授かるといいわね」


「うん」


 僕は庭に出て、外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

 山の向こうから日が昇っている。その光に照らされて、草についた朝露がキラキラと光る。今日も1日が始まった。

 僕は気合いを入れると、剣の素振りを開始した。


 今日は町の教会で、15歳になったもしくはなる子供たちの「拝受の儀」が執り行われる。これはこの世界で生きていくには必須の「スキル」を神から授かる儀式だ。

 スキルは今後の生き方を決める大切なもので、スキルひとつで成功したり、落ちぶれたりもするほど、人生に多大な影響を及ぼす。


「おっ、やってるなあ」


「父さん、おはよう」


 剣の素振りを続けていると、父さんも起きてきた。


「拝受の儀、いよいよ今日だ。緊張してるか?」


「もちろん。でも……きっといいスキルを授かるよ! 父さんの子だもん」


「当然だ。お前もパテル家の人間だからな。お前も今日まで毎日、よく稽古を頑張った。神はきっと、お前の努力を見ていて下さっているよ」


 父さんはスキルの中でも特に有能とされる「剣聖」のスキルを授かった。元々強かった剣の腕には磨きがかかり、大活躍したそうだ。

 そんな父さんに倣って、僕も剣で活躍できる剣士系スキルを望んでいた。


 この世界では、戦闘スキルを授かった人間が偉いとされる風潮がある。その理由として、「ダンジョン」がある。

 ダンジョンの奥地からは、貴重な水が生み出されるからだ。


 僕たちは水がなければ生きていけない。それを得るためにダンジョンに潜るのだが、ダンジョンの中には危険な魔物がたくさんいる。生きていく糧を得るには、彼らと戦い、倒すしか道がない。

 だから、戦闘スキルを持つ人間が優遇されがちだ。


 朝食の支度ができた頃には、僕はいつもの稽古を終えた。

 朝食を終えて町へと向かう。父さんはたくさんの水を得たという貢献により、広大な土地を手に入れた。だから、僕たちは町外れに住んでいる。

 周りに人がいなくていい反面、町までちょっと歩くのが面倒でもある。


 僕たち拝受の儀を受ける子供たちは教会へ向かうのだが、その前に僕は冒険者ギルドに寄った。僕のパーティーリーダーと合流するためだ。


 冒険者の仕事は主にダンジョンの攻略だ。腕に自信のある人間たちがそれぞれパーティーを組み、ダンジョンを攻略して、そして水を得る。とても立派で、なくてはならない仕事なのだ。


 僕はギルドに所属しているパーティーのひとつ「システーマ・ソーラーレ」の一員だ。そのリーダーが、


「よう、ディース。期待してるぞ」


 青い髪の美丈夫である彼、テラ・ポーターだ。二十歳そこそこでパーティーを結成し、人望も厚い頼れる男だ。


「お前はあの剣聖の息子だ! きっと強いスキルを授かる!」


 テラは僕が父さんの息子だと知っていて、僕をパーティーに誘ってくれた。既に何人か所属してはいるが、強い剣士を欲しがっていて、数年前から僕に期待を寄せてくれていたのだ。


「はい。剣聖は……無理かもしれないですけど」


「謙遜すんなって。既にお前はなかなかの剣の使い手だ。例えスキルが剣士系スキルのFランクだったとしても、お前は活躍できる!」


 そう言って、テラは僕を励ましてくれた。

 実はスキルには階級があって、SランクからFランクまで、その強さに応じてランク付けされる。剣士系のスキルなら、Sランクが剣聖。Fランクが剣奴。

 僕はCランクの剣士あたりを拝受できればいいかな~と思っている。Eランクの剣民だったら落ち込んでしまうかもしれないけど。


 テラと一緒にギルドを出て、教会へと向かう。儀式の時間までまだ少しあるが、自然と早足になってしまう。

 待ちに待ったこの瞬間なんだ。高鳴る胸を抑えきれない。


 教会へとたどり着くと、既に儀式を待つ子供たちで溢れていた。百人近くはいるだろうか。例年はこの半分以下だ。水が必ずしも安定して供給されるわけではない関係上、子供の数にも影響される……と、父さんに教わった。

 こんなに子供たちがいるのは、父さんやギルドの人たちの頑張りのおかげだ。僕も、それに報いたい。続きたい。

 平和のために、僕も戦いたい。だから――強いスキルが欲しい。


 僕たち儀式を受ける子供と、テラたちのような見物に来る人たちは、教会の裏手に移動した。教会にはお祈りに来たり、病人や怪我人が来るので、人がたくさんいると急患の邪魔になる。だから、教会とは別に儀式を行うための施設があるのだ。


 例年より人が多いため、広間は人でいっぱいになってしまった。こんなにいるとは、と神官さまも嬉しい悲鳴を上げていた。


 そして、拝受の儀が、始まった。


 子供たちがひとりひとり壇上に上がり、神官さまから神託を受け取ってゆく。


「神から賜られた汝のスキルは――弓士!」


「神から賜られた汝のスキルは――斧民!」


「神から賜られた汝のスキルは――おお、素晴らしい。槍王!」


 次々と、スキルを授けられている。その結果に一喜一憂する子供たち。望んだスキル系列だった子に、そうでなかった子。高ランクだったり低ランクだったり。低ランクでもめげずにいる子や、高ランクだったとしても、今までの自分の人生をひっくり返してしまう系列だったり。

 反応は様々になる。


 広間はどんどん熱気を帯びていく。特に、Aランクの王が出ると、本人はもちろん、見守っている大人たちからも大歓声だ。


 ランクもそうだが、系列も大事だ。特に貴重な癒士系が出ると、教会側からも感嘆の声が上がる。癒士はその名の通り、回復スキルを扱う系列だ。癒士は教会でシスターや神官として働くことになるため、教会側もこの系列が出るとかなり喜ぶ。

 今この町には癒士が7人ほどいて、6人――ほとんどがこの場に集まっている。神聖な儀式だから、全員出席しているのだ。


 子供たちの数が少なくなり、ついに僕の番が回ってきた。


「頑張れよ!」


 テラに背中を叩かれて、僕は壇上に登る。神官さまのたっぷりと蓄えられた白い髭と、刻まれた皺を間近で見ると余計に緊張する。

 神官さまは、僕をじっと見つめたあと、おもむろに口を開いた。


「神から賜られた、汝のスキルは……」


 幾度となく紡がれたセリフであろうそれが、途中で詰まった。神官さまの目が見開かれ、困惑に揺れている。

 長い空白に、会場もざわめき始めた。いったいどうしたというんだろう? 神官さまは口をぱくぱくさせている。


「スキル、は……プルート……?」


「プルート?」


「なんだ……? それ?」


 初めて聞いたスキル名に、僕たちは困惑を隠せなかった。誰も言葉の意味を理解できず、神官さまでさえ、信じられないものを見るような目で僕を見ている。


「ちょ、ちょっと待て……どんなスキルなんだ?」


 テラが、子供たちを押し退けて壇上に上がってきた。彼を見る僕は、たぶん不安そうな顔をしていただろう。僕だって訳がわからない。


「……わからぬ。こんなスキルは見たことも聞いたこともない」


「おい、ディース。なんか……わからないか?」


 僕は首を振った。


「なら、試すしかないか」


 テラは背負っていた巨大な盾を構えた。


「俺に向かってスキルを発動してみろ」


 テラは盾王のスキルを持つ。どんな攻撃も防ぎ、パーティーを守るその背中に、僕は何度も安心感を覚えたのだ。

 今回もテラは、その身を賭して僕の謎のスキルを解明しようとしてくれている。僕も、それに報いなければ。


 僕は両手をテラに向けた。


「プルート!」


 そしてスキルを発動。授けられたスキルは、その瞬間から発動することができる。効果は発動してみなければわからないが、発動自体はできる。僕は、自分を信じて、プルートを発動した。


 その瞬間、青い閃光が走った。会場からどよめきが上がった。しかし……


「なにも……起きない?」


 当のテラは、あっけらかんとしていた。盾王のスキルを発動して、僕の攻撃を待っていたようだったが、なにも感じなかったようだった。


「ディース、もう一度だ」


「は、はい! プルート!」


 また閃光が走った。しかし、ちょっと眩しいだけで、何かが起こるような気配はない。会場のどよめきが、次第にざわめきに変わった。


「プルート! プルート!」


 僕は何度もスキルを発動したが、結果は変わらない。テラには何のダメージも与えられていなかった。


「ただ光るだけ……?」


 この場にいる全員の心の声を、テラが代弁したのだった。

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