何度時(とき)が戻っても、私を殺し続けた家族へ贈る言葉「みんな死んでください」

リオール

プロローグ~17歳で終わる人生~

1、

  

「ごめんなさい、ごめんなさい! もう悪い事はしません、だから許してくださいお祖父様!」

「黙れ、この愚か者め!何度同じことをしたら気が済むのだ! 良いというまでここに入っていろ!」

「嫌です、箱の中は嫌! 暗くて狭くて恐ろしいの! お願いですからそれだけは……」

「うるさい!!」


 祖父の大事な壺を割った。──義妹のミリスが。

 なのに兄のアルサンは「リリアがやりました!」と言って、私に罪をかぶせた。ミリスがお仕置きされるのを避けるため……愛する義妹のため、実の妹である私を犠牲にしたのだ。


 いつもいつもそうだ。

 兄は金髪碧眼の美しいミリスを大切にする。黒髪黒瞳で美しくない私よりも、ミリスを溺愛する。


 そうして私はまた狭い箱にお仕置きとして閉じ込められるのだ。


 泣いて叫んでも。出してと懇願しても。許しを請うても。


 祖父の怒りが収まるまで、いつも閉じ込められた──




***




「本当にミリスの髪は美しいわねえ。光り輝いてるわ」

「お母さまの黒髪も美しいですわ」

「そう?こんな無機質な黒い髪は好きでは無いのだけれど……嬉しいわ、ありがとう。ミリスは優しいのね」


 そう言って微笑みながら、母はミリスの髪を撫でる。愛し気に。美しい義理の娘を溺愛する母は、今日も美しい髪飾りを購入してきて、ミリスの髪につける。


「ああ、やっぱりミリスの髪にはこの黄金の髪飾りがよく似合うわ」

「ありがとうございます、お母様! でもこれ高かったのでは?」

「そうでもないわ。純金が良かったけれど髪飾りにするには重いでしょうからね。だから金箔なの、高くないわ」

「嬉しいです」


 ニコニコと楽し気に会話する二人は、まさしく仲の良い親子そのもの。

 それを私は庭の片隅で見つめて……そして近付いた。


「あの、お母様……」

「あらリリア、お勉強は終わったの?」

「はい、あの私も……」

「では自室で復習しなさい。貴女は出来が悪いのだから、どれだけ勉強しても足りないでしょう?まったく、出来損ないの娘を持つと苦労するわ」

「あの、でも……」


 今日はまだお昼も頂いてないので、空腹で仕方ない。ぐうう……とお腹が鳴って慌てて押さえるも、音は鳴りやんではくれなかった。それを母は不快げに眉をひそめて睨む。


「おお嫌だ、公爵令嬢がお腹を鳴らすだなんて、なんてお下品なの」

「申し訳ありません、お母様……」

「罰として今夜の夕食は抜きです」

「そんな……!」

「お黙り! 部屋に戻ってやるべき事をやりなさい! またぶたれたいの!?」


 そう言って母は手を振り上げた。それにビクッと体が震える。それ以上の言葉が出せない私に、母は目もくれず、ミリスと共に目の前のケーキを食べる。もう私にかける言葉は無いのだろう。


 私はギュッと服の裾を握りしめ……そのまま無言で部屋へと戻るのだった。

 踵を返した時、ふと視界の片隅に義妹の顔が目に入った。

 私を見つめるその目を見返すと、不意にその目が細められた。


 クスリ


(──!!)


 見下すように、馬鹿にしたような目を向け、確かにミリスは笑った。私の惨めな様を見て、彼女は笑ったのだ。


 悔しくて、悲しくて。

 家族の愛を一身に受けてる彼女が妬ましくて。

 そんな事を考えてしまう自分が惨めで。


 私は必死に涙をこらえて部屋へと戻った。

 結局、今日は朝食のパン一つしか食べれなかった。

 それから数日後。

 

「おおミリス、今日は一段と可愛いな。どうだ、父さまと外食しないか?」

「まあ、嬉しいですわお父様。是非みんなで行きましょうよ!」

「そうね、ガルードももうお作法は立派にできますものね。是非そうしましょう」

「やったあ!ミリスお姉ちゃまとお出かけだあ!」

「では父上、舞台を見てから食事に……」

「そうだなアルサン、是非そうしよう」


 ワイワイと皆が楽し気に話している。

 共に外出する事はしない祖父は、話の内容を気にすることなく本を読みふけっている。


 出かける事が決まった家族は、それぞれ支度を始めた。


 私は?

 私も行って良いのだろうか?

 普通は娘の私も当然行くものだ。けれどこの家族に普通は適用されない。


 どうしたら良いのかと父を見て、目が合った。途端、父の目が厳しくなる。


「リリア」

「は、はい!!」

「お前、今日のマナー授業、また失敗したそうだな」

「──!! も、申し訳ありません……」

「そのような娘を一緒に連れていくわけにはいかん、我が家の恥だ。お前は部屋でマナーの勉強をしていなさい」


 つまり、私は留守番ということだ。

 そうして私を置いて家族は出て行った。


 いつもいつもいつも。

 ミリスが来る前から、あまり良くは思われてない感じではあったけれど。


 ミリスが養女となってからは、それは顕著に現れた。


 父も母も兄も弟も。


 誰も私を愛さない。

 そもそも見てもくれない。

 まるで私の方が養女のよう。

 まるで私だけが家族では無いよう。


 その事に絶望するのは、もう何度目だろう。

 何度も何度も期待して裏切られるのは、何度目だろう。


 これは一体「何度目の人生」なのだろう──




***




 気付けば人生をループしていた。


 一度目の死の直後は何が起きたのか理解出来なかった。死んでない事に安堵し、けれど幼くなった自分の体に愕然となった。

 状況を理解出来ないまま、同じ時を過ごし、全く同じ結果となって私の人生は終わったのだ。


 二度目のループではある程度冷静になって理解できた。どうやら人生をやり直してる事に気付いたのだ。

 どうしてなのか分からない。だが理由なんてどうでも良かった。

 これはきっと神様が下さったチャンスなのだ。次こそは幸せな人生を歩めるようにと、神様がやり直させてくださったのだと考えた。


 そして私は努力した。幸い記憶があるから、前世で学んだことは覚えている。未来に何が起こるかも分かっている。


 記憶を頼りに困難を乗り越えた。はずだった。

 だが努力が必ずしも報われるわけではないことを。

 私を身をもって知る事となる。


 二度目のループ。つまりは三度目の人生。

 努力は実を結ばず、私はやはりこれまで同様、わずか17歳でその生涯を終える事となる。


 そしてまたループする。

 始まりはいつも同じ。

 何度も何度もループする。


 違う選択をしても。

 必死に抗っても。


 運命は残酷にも私に17歳までの生しか与えようとしなかった。


 何度も。

 何度も。


 もう何度目か分からないループ。


 そして私はようやく気付く。大事な事にようやく気付いたのだ。


 そもそも家族に愛されようとするのが間違ってるのだ。

 どうして愛してもくれない家族に愛されたいと思えよう?


 情けない事に、その考えに至るまでに私は10回以上はループしていたと思う。


 ついにその考えに至った時点では既に全てが遅かった。

 もう、死は目の前に迫っていたのだから──。

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