第2話

 隣の席に座る、灰谷牡丹。


 ふと目が合うと、途端に彼女は顔を赤くした。

 それを見て、俺の心臓は……


 高鳴っていた。


 でも、落ち着け。今まではなんとも思っていなかったじゃないか。


 そうだ、このトキメキは……


"恋"じゃない、と彼女は言うのだから。



* * *



「じ、実は私……"吸血鬼"なんです」


「え?」


 放課後、時間をくれと言ってきた彼女が、開口一番に口にしたのは、俺が予想だにしないものだった。


「えーっと、話したかったことってそれ?」


「はい。その……ずっと隠して生きてきたんですが、でもあなたには話さなきゃいけなくなって……」


 話さなきゃ"いけなくなって"?なんでだ……?これは何の冗談だ?


「その……今朝、私の爪で怪我させちゃいましたよね」


「あ、うん。いや怪我ってほどでも……」


「ごめんなさい。その結果あなたは私の眷属になりました」


「眷属?」


 吸血鬼に血を吸われたらなるって言うあれのことだよな。


 鋭い牙で俺の首元に噛み付く灰谷。

 そんな妄想……否、想像をしそうになったがそんな事実はない。

 俺は灰谷に血を吸われていない。


 何が言いたいんだ……

 呆れ果てた俺の気持ちを察してか、俯いて話していた彼女は、意を決したように真っ直ぐに俺の目を見て言った。


「い、今あなたは私の目を見てドキドキしてますよね。それが証拠です」


 彼女の決意とは裏腹に、その言葉で俺はより一層混乱した。

 しかし、そんな俺を置き去りに彼女は続ける。


「とは言っても吸血鬼に人を魅了する能力はありません。


吸血鬼に血を吸われた人間は眷属になる。

これもまた正しい認識ではありません。

正しくは、噛まれた際の傷口から入った吸血鬼由来の細菌が、体内を侵食するためです。


吸血鬼は、人間の何倍も刺激に敏感です。

大蒜や太陽が苦手と言われるのはこのため。

それらを含めあらゆる刺激は、あなたの想像を絶するものとして吸血鬼の脳に伝わります。

人間と同程度の脳で、そんな高負荷にどうやって耐えているのか。

それはメモリを拡張しているからです。

さながら、スペック不足のPCに、外付けでメモリを足すような感じでしょうか。

これが眷属を作るという行為です。


私の爪によって出来たその切り傷。

そこから入り込んだ細菌があなたを蝕み、私とあなたの間にはネットワークが構築されました。

その結果、もし私に1人では処理しきれない負荷がかかった場合、その分は眷属であるあなたに分担されます。


要は、私がドキドキし過ぎたら、その分のドキドキがあなたに伝わるんです。

だから、今……あなたがドキドキしているのは、私があなたを見てドキドキしている、から……

け、決してあなたが私のことを好きだとか可愛いと思ってるわけではありません……

ご安心ください……


なので、あなたが私を見てドキドキしていること。

それ自体が私が吸血鬼であること、及びあなたがその眷属であることの証明となります。


ご理解いただけましたかーーー」

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