僕の言葉を花に乗せて

四季秋葉

コエビソウ

 この日の僕は、深紅のゼラニウムの様な気分だった。


 蒸し暑くて外に出たくもない、僕が一番嫌いな夏。


 その日は暑くて、やけに日差しが眩しくて、真っ白な雲が澄んだ青空によく映える、お昼過ぎの事だった。


 何時もは絶対に通らない、地味な僕とは無縁な、お洒落な喫茶店がある大通り。


 僕はその日、弟の我が儘を聞いて買い物に出かけていた。そして近道をしようと思って、帰りに何時もは避けているその道を通った。


 騒がしい大通りとは無縁な、静かでお洒落な喫茶店。その前を通った時だった。


 カランッと言う軽い音とともに、一人の女の子が出てきた。


 長いサラサラとした黒い髪。夏は日差しが強いのに、一度も焼けたことがないんじゃないかと思うような真っ白な肌。大きくて形が良い瞳。スッと通った鼻に、薄い唇。身長は高く、彼女によく似合っている、ふんわりとした白いワンピース。


 全てが、彼女の為に用意された特別なものに感じた。


 そんな彼女を目の前で見た僕は、あまりの衝撃に持っていた荷物を全部落としてしまい、ぶち撒けられた荷物は、彼女の方まで転がっていってしまった。


 慌てて拾い出せば、視界の端から手が伸びていた。なんと、彼女も一緒に拾ってくれているのだ。


 あまりの嬉しさと恥ずかしさで、固まってしまった僕に、彼女は笑いかけながら荷物を手渡してくれた。


 「あ、ありがとう……ございます」


 そして、彼女は穏やかな微笑みを残して歩き出した。


 これが、僕と君の出逢い。


 眩しい日差しと、よく映える空と、美しい君。


 夏も、少し良いかもと思った日。


 そして、僕が初めて恋に落ちた日だった。

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