第36話(2章8) エリザという女性
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なんか思想的な作品ぽく見えるかもしれませんが、
なんちゃって作品ですからね?
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――ツィヴィーロ視点――
彼女は自室で端末を開きながら、
次の議題となっている草案に目を通していた。
ここ国都ではそうでもないが、リザヤイーズリ全体としてここ十年ほど移民の流入により人口割り当て数が圧迫を受け、人口計画に支障が出ているという問題が生じている。
※だったら何で移民制度を容認するの?という疑問は、人間社会が同様の価値基準に基づく集合と定義した場合、産まれた時点で主義が固定されることの修正が移民自由化以外に存在しないからという単純な理由。なので定期的に移民の流行が起きる。新大陸発見からの欧州移民や、現代のインドの下層市民が移民によってしか階級から逃れられないのと同じ。
これによって相対的に世界人口に対するエルフ人口の割合が低下することを防ぐためエルフを他都市へ移民させることで調整していたが、限界が近い。問題点はおおよそ3つ、
①海外移住に選定されたものと、そうでないものとで確執が生じている。
・特に選民思想による差別が生じると、他国に付け込まれる恐れが増加する。
②雑居の地と化したレキスネント大陸都市は火薬庫と化し、いざこざが類発している
③どこかの段階でリザヤイーズリに移民者を戻すことになると、在郷組と出戻り組との十数年分の経歴差をどうするか問題が出る。
※国や都市に雇用されているヒュームは身分保障があるため、動かせない(1章で説明済み)
――そもそも徴税を属国主義にしているせいで属地主義国に比べ移民流動性が低いのが問題なのだから、こちらを変えればいいのでは?と指摘しているのだが、対外資産による利潤に対して課税が厳しくなるという徴税局の頑強な反対のせいではないか。
※日本人町のように国外に集落を築いても、国際二重課税が禁止されるだけで課税自体が禁止されているわけではなく、重商業国は所得再配分の必要が高いので税率が高くなっており、つまり課税権を主張できるリザヤイーズリから国外に移民するメリットが低い。結果、流入過多が生じ、そして文化摩擦が生じる。経済学もそうだが、割と人間の硬直性を無視する。人間はそうそう自分の業種を変えないし、文化を棄てない。なぜ無視するのか?さぁ、アホなんじゃない?
ともあれ、移民の受け入れを押し広げ、反対派の一部を公職から追放した一翼を担う共済党として対処を間違えば、党消滅の危機に発展する可能性もあるので何かしら動かねばならない。
そして、その対策としてハヌムームの一部を人口に算入して重用し管理させ外からの移民受け入れを削減もしくは消滅させる法案が上がってきており、対案を出すか、賛成するかの二者択一を迫ってきている。
これによれば新規の移民は自由民ではなく国や都市に雇用する市民として受け入れ、処罰対象者は空いた家畜枠に組み入れるか、国外退去措置にするとしている。
もっとも、これは建前上で、帰還費用が工面できない者へ、ポート上で自らを売らせてその資金で即座に送還用の船に乗せ帰国させるという外国民への税金使用への批判をそらし、再入国させないための牽制も兼ねた法だろう。
「はぁ…、」
明らかにエルフ的な思想ではないので、外部の入れ知恵だろう。
窓の外を眺めると、路肩の雑草掃除をしているヒュームが見えた。
雑草は成長が早い。ほんの2~3か月放置するだけで歩道を覆い隠す事さえある。しかし、それが本来の自然だ。その草を求めて来た草食動物が草を食(は)み、それを捕まえようと肉食獣が闊歩して縄張りを主張し、まれに生じる獣害対策に人がたまに訪れる。
そうした領域も今では人が縄張りを主張し、他の動物を追い出した人工的な造成地で暮らしている。
しかしやってることは変わらない。空間的なものであるか、そうでないかの違いはあれ、人同士で縄張りをめぐり争い合っている。
かつて、『自然界において人以上の暴力が存在しないからには、人は人同士で争い合う運命にある。』と言ったものがいたらしい。まさにその体現がここにある。
たまに考えることがある。
何かボタンが違えば私は料理人だったかもしれないし、飛行機の設計士、軍人、兵士になっていただろう。
知識がある ということはそういうことなのだろう。
しかし、そうはならなかった。
――自由っていうのは、自由じゃない――
それを知ったのはいつだったかしら。
・
・
・。
――20数年前――
エリザ「つまり、私にあなたが欲している何かしらの知識を供与したまえ、ということかしら」
私はベッドの中で同僚から聞かされたいくつかの孤独な生活苦で身を滅ぼした女性の話をした後、世の中に蔓延る絆というものが、地位を守ると同時にいかに鎖として機能しているかをエリザに嘆きました。
ツィヴィーロ「本当の知恵は苦痛の総量を増やすより快楽の総量を増やす事にあるはずだから、それを実行したあなたは本来的な知恵者だと思うのです」
エリザは腕を顔に押し当てたまま「ハハッ」と笑いました。
私は真剣に聞いているのに…。
「私が本当に知恵者なら、金、名誉、地位、恋愛、こういったものにもっと執着してたでしょうね。こうしたものは誇りも尊厳も持ち合わせていないと他人に思わせられるし、自分の身も守ることができる。
なにしろ、自分の命を懸けてまで誇りと尊厳を守ろうとするやつは、そうはいないでしょう?
生きるためなら誇りも尊厳も邪魔なだけだし、そういう人間は手なずけるのも簡単だもの、
だからあなたが窮地になった時は醜く命乞いをしてみるといい、一人の俗人として生きる道が生まれるかもしれないわ」
「? ……、だから先輩は男性と交遊しているのではないのですか?」
「それは彼らにとって有益な間はそうでしょうね。でも私が規範に反したことをすれば、きっと私を見捨てるんじゃないかしら。
男性と言うのはどこまで行っても公平であろうとするし、理屈が通じなければ親しくても道理を求めるものだもの。
全てをなげうっても私に着いてきてくれる人はきっと誰もいない」
その時私は隣にいる彼女の顔を見る事はなかったけれど、きっと天井のシミを数えるように遠くを見ているか、顔に腕を当ててこちらに表情を読み取られないようにしているだろうと考え、気に留めない事にしました。
「そのように言いますが、対局である女性は絆というものを重要しますけれど、この絆というものは、知能を劣化させる毒だというのは同意いただけると思います。
女はまず女と親しみ男から施しや情婦の仕事を賜わるような地位にならないようにしますが、男性は知識か体を求めますから、女性と親しめば男性とわかり合いにくくなるという相反の関係にあります。
女性特有の癖によって社会で重用されづらい事は、社会にとって良くない事だと思いませんか?
私はこれからの女性は、女性とよりも男性と親交する事が必要だと思うのです。
こういう問題を考える際、理由なく設定している一種の絆というもので、これを仮定するために宗教的な同胞愛を充てている事が私は問題だと思います。
強者が弱者を虐げる行為が自然にかなうなら、同胞愛も絆も自然の理に反している。
同胞愛というものが弱者からしか生まれないなら、なぜ強者はこれを受け入れたのでしょうか。これこそ”強者”と”弱者”の逆転が生じているのであって、弱者と言うのは群れる強者であって、強者とは群れることができない弱者であることを隠す欺瞞というもの。つまり女性が道理を最上とするなら、最も強者となると考えます」
「面白い事を言うわね、結局、群れる事が愛であるとするなら、その最終形は血縁や種族に収束するのかしら?
例えばヒツジが狼に『あなたは私を食べてはいけない、なぜならお互い四脚だから』と言うなら、確かにおかしな話になる。けれどオオカミと交配可能なヤギが『お互い四脚だから』と言えば、同じ種族であることの表明に他ならなくなるでしょう?それは必然的に、ヒツジをオオカミの標的に差し出す事を内包することになる。
あたしを永遠の蟄居生活をせよと運命づけた神がいるとすれば、それは自然の理というもの。でも同時に野生動物を見れば、女が組織運営を担う集団は珍しくもないけれど、男を支えるという点で共益関係を保っている事実がある。
あなたがもしそんなことが出来るなら、私もぜひ協力したいわ」
エリザは上体を起こすとこちらに身を乗り出し見つめてきました。
その顔はとても上機嫌に見えます。
ツィヴィーロ「でも、私にはそんな大それた知識なんてありませんよ」
「あなたはこの都市の生まれだったわね?」
「はい」
「それなら、世間の思惑など物ともするなという事よ。
他人が何を言おうが正しい行動なら自然の修正力が働くでしょう?例えば草食動物が肉食動物に他の動物を食わないでくれと言っても、人身御供が必要よね。そうすると、いつか人身御供を強いられた動物が反乱を起こすでしょう?自然の理という運命力に動物は縛られている。そこに自分がいるかいないかを問わなければ、必ず理論通りに事は推移するものよ。
ヤギはヒツジに、ヒツジはオオカミに、オオカミはヤギに生存を預託するなら、これを持続することは可能になるのではないかしら」
「つまり、ヤギを変えるにはヒツジとオオカミを用意する必要がありますね」
「ハハハッ」私と彼女は二人で笑い合い、私はその時、彼女とやっと通じ合えたのだと思った。その時の私は、いつか私は彼女の右腕になって、支えていく約束が出来たのだ、と。
そんな無邪気な感情に酔いしれ、隣で決心を決めていた事に気が付かなかった。
――事件後――
「本当に、エリザ、あなたは淫乱で汚らわしい、反体制的な方ですね。個人の自由奔放を許せば治安が悪化するのをなぜわからないの?」
「いいえ、そんなもんじゃないわ。あたしはただ自分の幸福の在り方を自然の理によって判断することが正しい事だと思っているから、その声に従っているだけ。それが人間の本質に忠実だと確信しているから、恐怖も後悔もないだけよ。」
「人間は野生動物ではなく社会性動物なのを理解していないようね? 自然の理の前に、人の社会は理屈と決まりと協調を大前提としている。そうね、そんなに動物として生きたいなら、動物として生かしてあげるわ」
・
・
・。
そんなある日、私はエリザに国外へ逃げてはどうかと提案しました。
「原因のない結果はないし、その結果が私を苦しめるなら原因に思いをはせてみることね。原因が自分の望んだものであるなら、結果もまた望んだもののはずよ」
「誰かが手を差し伸べてくれるはずです」
「それは夢であり妄想よ。なにしろ、ほかならぬ私が望んでいないから
彼女たちを恨んではいない
人の罪をひきうけてくださっていた神が死んだとき、人の業は人が背負わなければならなくなったのだから」
「そういうことを聞いているんじゃないんですよ」
「私はとても幸福ですよ」
彼女はかたくなだった。
私は自室に帰るとフトンを頭からかぶりマクラに顔をうずめると、
ここは私の領土で、何を思っても許されるただ一つの場所。
――善良な人々はどこへ行った
神々はどこに行った
その日、私はヒーローなんていないんだ、と街中でたたずみ
人にお願いすることを忘れた――
なんとなく歌を口ずさんでいた。
世の中が薄情で、ルールというもので人に悪と言うレッテルが張られる時、反抗するものに対する暴力が時に肯定されることは認めよう、
でも、人の輪から少し外れることがそんなにいけないことなのだろうか?
諦めたように達観することが、そんなに素晴らしいのだろうか?
涙が枯れるころ、それ以上に、私自身の無力さが許せなかった。
「神は死に、人は神になれない。神も道徳もシステムも人に苦難を授けたまうなら、世界の理が人に苦難を予定しているに違いない
かつての人類が彼岸だの極楽浄土だの、または真の世界、異世界への転生に救いを求めたのは、
現実が冷たい刃のように人を傷つけるからではない
惰弱な敗北主義者が目をそらした事実がそこには、ある
つまり、世界の理は闘争状態がお好みなのだ。
それなら闘争で世界を包み込んで救世することが、世界のための行動であろう」
「優しさとは闘争だ。
他人を傷つけ報復を受けないものがいるのは、国家や制度に対する優しさ故の行動だからだ、だから世上に無垢の愛などというものはない
真の利己主義は 無私に見えるという教えを思い出せ
その証拠に、なんてことはない、彼女は暴力を受け非暴力的被害者のようにふるまい聖人然としているが、自身の幸福を感じている。
『あなたも二脚であり、私も二脚である』」
だから貴方の感情は継ぐことはできない
そんなことには意味がない
感情は一時の麻薬 だから貴方は私の誇りになるんだ
――現在――
きっとあの4人は国を出たところかしら……。
先輩は、きっと私に着いてきてくれる人はいないと言っていましたが、人はそんなに信用できないものではありませんでしたよ。
【貴方は】私にどんな世界を見せてくれるのかしら?
港の方を見ながら、私はそんなことを考えていた。
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