第13話 外伝・稟議書


★★(分かりにくいので用語解説も置いときます。)★★

ストレート取引=基軸通貨(ドル)との直接取引

クロス取引  =例えば円でユーロを買う場合、ユーロ/円=ドル/円×ユーロ/ドルのように「円売り・ドル買い」「ユーロ買い・ドル売り」が同時に起こるためクロス取引という


円売りドル買い= 円安ドル高 〇(クロス取引におけるユーロ買い)

円買いドル売り= 円高ドル安 〇(クロス取引におけるユーロ売り)

★★★★



――以下、本編――


今般、国際自由化通商会合における農水部の意見をまとめるにあたり実地調査を行ったところ、次のようなものとなった。



・エルフ国の現状の課題

①現物の穀物を『買おう』としている場合、商人は商品先物市場で『売り建て』を行うことで穀物市価が高騰した場合の保険になり、これをデリバティブ取引と言う。

この清算方法は2つあり、


・信用買い建ての清算は現金か、反対売買により行われる

・信用売り建ての清算は反対売買か、現渡しにより行われる


これにより、農業従事者は先物市況が損益ラインより高い場合、従前は売り建てを行うことにより利益を確定させる選択肢もあったが、現状は以下の理由により市価が低い価格で推移しているため穀物取引業などの大規模事業主の取扱比率が増加している。

これは”将来的な投機資金の流入”に対して脆弱性を孕んでいる事を意味している。是正するためには1.農業従事者用の取引所を別に設置するか、2.政府による価格保証買取制度などを執る必要がある。

会合に先立ち自由化を見送り現状維持する場合、エルフ国はこれから述べるように通貨高・穀物市価安に陥りやすいシステム下にあるため、農水部としては上記いずれかの施策を行うことを要求する。


②実地調査を行ったところ通貨のクロス取引により恒常的なエルフ国通貨高を起こしていたため、穀物の輸入量が増大し、①の理由から同時に先物市場での売り建てが増加していた。通常は市場価格が下落局面ではサイロ内で貯蔵し上昇を待つことができるが、農業従事者の中には種苗などの購入費用捻出のために下落局面で売却せざるを得ない場合があり、所得水準を圧迫する一因となっている。

さらに、買い付け穀物の一部は市場外(エルフ国外)からの輸入であり、先物商品市場への大量の売り建ては国内穀物価格の上昇を抑えるため、国内農業へのマイナス要因となる。

このマイナス分は、輸入増加によるエルフ国通貨安圧力(海外資源の輸入コスト減での製造コスト低下)では補填しきれない。作物への遺伝子組み換えなどによる収穫量増大は地球時代にも危険が提唱されており、生産コスト減圧力は好ましくない。

農業従事者への補填が求められる。


③穀物相場に対しエルフ国通貨が買いを入れた場合、通貨為替を通していないため国際通貨としての価値は毀損せず穀物の市場価格は高騰する。ここで仮にB通貨がエルフ国通貨・C通貨で穀物を購入する場合、エルフ国通貨に対して

ストレート取引

クロス取引

が発生し、2重に通貨高が進行する。

B国通貨安の進展により、穀物価格高騰と通貨高が同時進行する投資スパイラルが起きれば、穀物市況を参考価格として現物取引する一部国外の価格上昇は一定程度抑えられるため、エルフ国内では消費者の生活を圧迫する。過度な価格高騰が起こるなら、穀物価格を低くしたうえで補助金で農業従事者を補助していた方がましという意見がある。

このように介入操作を行うとエルフ国はB国へ輸出での競争力が減り、輸入圧力が高まる事態になる事が推測される。

国際競争力の維持をいかにして保持するかにおいて、自国商品市場への公金による価格操作介入は効果が薄いことを意味している。


④B国が、B通貨を買い戻す還流が起こる危険

仮にB国がエルフ国通貨を売りB国通貨買いを行うという事は、B国からエルフ国への輸出が増加する事を意味し、エルフ国にとっては食料自給率の低下もしくは輸出量の低減を意味する。


B国がエルフ国通貨を国内で滞留して投資に使った場合、通貨為替を行っていないため、エルフ国通貨高が維持される。これはB国にとっては外債など対外資産の増加となり、エルフ国にとっては対外債務の増加となる。対外債務増加額をもとに自国農業への補填を行うなら外債券利息以上を農業産業から発生させなければならないが、穀物市況への価格上昇に蓋がされていることは、これを困難にしている。

これにより産業保護の資金とするなら他国へ投資を行い、その利潤により自国産業へ補償する方法が推奨される。ただし還流の仕方は通貨為替を通さず物々交換などにより外国から飼料を得、自国農業における生産コストを低下させ還流する方法による。


B国が穀物相場への投機を行うなら、穀物市価の上昇と価格高騰による転売益を求めて輸入額が増加する場合、若干のエルフ国通貨安圧力となる。

これを利用するなら、恒常的に通貨安圧力をかけるために公債のマイナス金利ないしは他国より低い金利を維持する政策を行い、対外投資を促すことが考えられる。

ただしこれは自国通貨建て以外の外債務が増加している局面において行うと、償還コストの増加となる。


⑤エルフ国以外が相対取引を行った場合

地球時代における東アジア危機と同様のペッグ制の罠が再確認されたことで昨今の通貨為替制度は変動相場制へ移行したが、今後、エルフ国通貨が基軸通貨としての地位が揺らぎ他国間で相対取引が行われた場合の可能性を考慮する。

まず前提として基軸通貨であれば現地通貨建て外債などを発行して通貨安に為替介入対応できるが、仮にB・C国間に通貨を相対取引において2国間取引が行われた場合、どちらかの輸入が低い場合、どちらかの通貨は無限に流出する。

このような通貨安下においても輸出が伸びず通貨安が恒常化することは、ガス・石油などの代替がない商品を相対取引で行った場合に起こりやすい。こうした需給ギャップの増加に対しギャップを埋める手段がない場合は外貨準備金を取り崩さなくてなならず、外貨準備金が枯渇した場合、通貨崩壊を起こす。

このような場合、仮にB国がC国より輸入超過する(クロス取引・買い)とするなら、B通貨はエルフ国通貨へは通貨高圧力となる。B国にとってはC国・エルフ国通貨に対し2つの通貨安が同時進行する。


逆にクロス取引・売りはエルフ国通貨へは通貨安圧力となる。

以上から、現在は一部の国で制度化されている相対取引市場であるロット・スロット取引のような取引形態から完全自由化を行わせ、エルフ国と被らない商品の輸出を行わせることが我が国の国際競争力維持、ひいては基軸通貨地位の保持に資すると考えられる


結論

基軸通貨としての地位を保持するには

クロス取引・売りによるエルフ国通貨安圧力がない場合、国際競争力の保持は難しいと考えられるため、農水部としては国際社会の完全通商自由化を求める。


稟議 未達

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