窓際のサンタクロース
虫野律(むしのりつ)
窓際のサンタクロース
サンタクロースへ
突然のお手紙に驚かれていることと思います。しかし、どうしてもお伝えしたいことがあり、誠に勝手ながら筆を執らせていただきました。無作法をお
このお手紙を差し上げた理由は二つあります。
一つは、質問があるからです。
「サンタさんは魔法使いなの?」
娘がしきりに尋ねてきていたのです。
「さぁ、どうかしらね。でも、そうかもしれないわね」
などと濁しているうちに、わたし自身も気になりはじめてしまいました。
お手数ですが、ご返答いただけますと幸いです。
さて、もう一つですが、こちらが本題です。
あなたに夢を見せてもらった娘は、笑うようになりました。
生まれた時から心臓が悪かった娘の、「元気な心臓が欲しい」という願いを知ったあなたは、さぞ当惑したことでしょう。
心臓をプレゼントするサンタクロースなど聞いたことがありません。察するに、そんなことは不可能なのでしょう。可能であるなら、同じような身の上の子もいるのだからわたしの耳にも〈サンタさんから心臓を
悩んだあなたが下した、〈娘が健康になり、成長し、就職し、恋をし、子を
娘のことが原因であなたが立場を悪くされているかもしれないと思うと心苦しい限りです。
けれど、どうかご自身の決断を間違っていたなどとはゆめゆめ思わないでほしいのです。
あなたのおかげで娘は救われました。生きることを憎んでいた娘が、最期には、「生まれてきてよかった」とまで言ってくれたのです。
もう娘が言葉を伝えることはかないませんが、あなたに伝えるべき言葉は、何もしてあげられなかったわたしにもわかります。
だから、どうかこの言葉を受け取ってください。
──。
▼▼▼
手紙から顔を上げた男は、ふっと曖昧な微笑を
世界は音もなく、白く美しく輝いていた。どこか哀しく、されど
男は赤いコートを羽織り、赤い帽子を被り、窓際のデスクを後にした。
時には夢を届けに。
あるいはそれは救われぬ誰かのために。
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