サンシスタ舞踏会

 

 シキから本当の歴史を聞いた後、僕達は口数が少ないまま、帰路に着いた。


『カルマ、小娘共が儂について他言しないよう釘を指しておけよ』

「う、うん。わかった」


 と言っても、釘を刺さなくてもあれから、シキについて話すことはなかった。

 常に一緒にいるリナとも話すことは無く、むしろリナは忘れたのではないかと思うほどの、身振りだった。


 そんな中、次の学校の休みがやってきた。

 今度は僕達がティアの屋敷に招待された。

 ティアの屋敷では月に一度、舞踏会を開いており、そこでは貴族の大人達が集まって話をしたり、踊ったりするそうだ。

 その間、子供も集まって話をしたり、美味しいものを食べたりするらしい。


 今はその舞踏会へ向かうため、月明かりが差し込む馬車に乗っている。

 馭者はルドーとリナの2人がかりだ。


「カルマがこうして貴族のもようしものに参加するのは初めてだね。緊張してる?」

「は、はい...。少しだけ...」

「はっはっはっ!そんなに気を負うことは無いよ。舞踏会って言ってもほぼ身内の集まりだから!」

「そうよ。皆、私とオルトの友達ばかりだから、安心して〜」


 オルトさんとマナさんが僕を気使ってくれているが、胸のソワソワ感は変わらない。


「そうだわっ。アリア、せっかくだからカルマにお友達を紹介して貰えるかしら」

「うん、いいよっ!」

「今日集まる子供たちは皆歳が近いからすぐ仲良くなれると思うよ!僕とマナの事は気にせず2人で行っておいで」

「は、はい...」


 少しして馬車が止まると、アリアが僕の手を握ってきた。


「じゃあカルマ、一緒に行こっ!」

「う、うん...」


 アリアに手を引かれて、中へと入っていく。

 どうやら、こういう時、子供たちで集まる所を決めているらしい。

 それは、その会場で一番豪華な食べ物があるテーブルの周り。


「ティア〜!」

「あっ、アリア!!早かったわね!」


 目的地に最初に居たのは、主催者側のティアだった。


「ティア、そのドレス可愛いね!」

「アリアも凄く似合ってるわよ!...ちょっとアンタは何かないの?」

「え?」


 何かって何だろう。

 アリアも僕の方を見て....。


『カルマ、こういう時は娘を褒めるものだ』


 褒める?

 ああ、さっき、アリアが言っていたみたいにか。


「うん、2人ともよく似合ってるよ!」

「えへへ、ありがと〜!」

「ふん、在り来りじゃない」


 アリアは嬉しそうだけど、ティアは不満そうだ。

 言い方が良くなかったのかな...。

 ねぇ、なんて言うのが正解だったの?


『いや、あの娘はあれで喜んでいるぞ。ツンデレと言うやつだ』


 ツ、ツンデレ...。


「あら、あなたがティアの言ってた子ね?」


 後ろから声をかけてきたのは、サラサラな金髪を下ろした、赤いドレスの女の人だった。

 とても綺麗な人だ。

 ん?ティアが言っていたって...。

 ま、まさか、シキの事、話たんじゃっ?!!


「あ、ママっ!」

「もう、ティアったら、こういう場ではお母様って呼びなさいっていつも言ってるでしょ。それで、この子のこと、母に紹介してくれるかしら?」

「コイツはカルマって言うの!アタシの、こ...と...げ、下僕よっ!!」


 ティアは、アタフタしている僕を指差して言った。


「あら、そうなの?うふふ、マナから聞いていた通りの子ね。昔のオルトにそっくり」

「え、マナさんから?」

「ええ、私とマナは友達なのよ」


 ...ってことは、ティアがこの人にシキの話をしてたら、マナさんにも伝わって、そのままオルトさんにも...!!!


『お、落ち着け。まだ、話したって、き、決まった訳では無いないぞ!!』


 シ、シキだって焦ってるじゃないか!!


「人見知りな所は、昔のオルトとは少し違うかしら。うふふ、せっかく来たんだから最後まで楽しんで行ってね」

「は、はい!」


 いい返事ね、と言って、ティアのお母さんは大人たちが踊る方へと歩いていった。


「ティ、ティア、確認なんだけど、あの人にシキの事、話してないよね?」

「話してないわよ!」


 ふぅ、ひとまずは安心だ。


「ちなみに、あの人のお名前は?」

「....ママの名前?....アリスよ」


 アリスさんね...。

 覚えておこう。


「あ、見て!サントが来てるよ!おーいっ、おーい!」


 飛び跳ねながら、手を振るアリアの方を見ると、片眼鏡を付けた金髪の男児がこちらに歩いてきてた。


「やぁ、ティアとアリア、久しぶりだね。ん?そちらの子は?」

「この子はカルマ!私のお兄ちゃん!」

「アリアにお兄さんがいるなんてね。僕はサント=ジ=セロウノです。アリアと同い歳なので、気軽にサントって呼んでください!」


 アリアと同じって事は、僕とも同じ5歳なのか。

 それにしては、僕達よりも遥かに落ち着いて見えるな。


「は、初めまして、カルマです。アリアの兄ですが歳は同じなので、僕の事も呼び捨てで大丈夫です」

「そうだったのか!よろしく、カルマ」


 サントと握手をした後、気付くと会場の大人の数がいつの間にか倍くらいに増えていた。


「今日も人多いね〜。やっぱり、ティアのママは人気者だね!」

「アリアのママだって、ほら!色んな人に囲まれているじゃない!」


 あ、ほんとだ。

 マナさんとオルトさんを中心に輪が出来てる。

 僕からしたら、誰が誰だか分からないな。

 って言うか、みんな同じ顔に見えてきた...。

 同じ顔の人が右に左に行ったり来たりしてて...。

 うっ...気持ち悪い。


「え、カルマ、大丈夫?!顔色悪いよ...」

「ちょっと...、吐きそう...」

「ええっ!ど、どうしよ!」

「きっと、酔ったんだね。一回外に出ようか」

「アタシが連れてってあげる!こっちよ」


 僕はティアの案内の元、アリアに肩を借りて外へ向かった。


「サント、アンタはそこに居なさいっ」

「え、でも、、、」

「良いから!誰かが残ってないと、ママ達が心配しちゃうでしょ」

「わ、わかった」


 外は涼しくなっていて、夏の終わりを感じられる空気だった。


「カルマ、大丈夫?」


 俯いてる僕にアリアが覗き込んできた。


「う、うん。大丈夫だよ...」

「吐くなら、そこの噴水で吐きなさい。後からメイドに掃除させるから」


 うぅ...。

 それは、メイドさんに申し訳ない...。

 我慢しよ。


「にしても、あの程度の人混みで酔うなんて、情けないわね。到底、あの時にエキドナを倒した奴とは思えないわね」

「...ごめん」

「べ、別に怒ってないわよ!....あぁっ、もうっ!なんなのよっ!!調子来るわね....。だがら、その...、お礼をまだ言ってないから...」

「え...?」

「その...助けてくれて、ありがとう」


 顔を上げると、横目で顔を赤く染めたティアがいた。

 頬から耳にかけてまで赤くなっている姿はとても可愛かった。

 酔いも覚めるほどに。


「あら、そこにいるのはティアとアリアでなくて?」


 屋敷から歩いてきたのは、前に城の前で見た白髪の王女様と、紫髪の美少女だった。


「あ、フリーシア王女だ〜!どうしてここに?」

「大人たちとの会話に疲れてしまって、少し外の空気を吸いに来たのです。あら、そちらの方は?」

「カルマだよ!私のお兄ちゃんなの!」

「まぁ、通りで!うふふ、お久しぶりですね。私はフリーシアと申します。城で見かけた時と随分様子が変わったのですね」


 フリーシア王女は僕の足元に寄り添って言った。


「え、2人は会った事があるの?!」

「ええ、少し城で見かけたの。カルマさん、少し私とお喋りしませんか?」


 え、僕が王女様とお話?

 とても、嬉しいけど、僕みたいな下民が話していいのだろうか。

 そもそも他の人とも話す権利なんて無いはずなのに...。

 それと、まだ酔いが完全に覚めたわけじゃないし...。


「ご、ごめんなさい。今僕はそんな気分じゃないので...」

「え....」

「き、貴様っ、無礼だぞっ!!」


 横で控えていた紫髪の少女が腰から剣を抜き、僕に突きつけてきた。


 な、あの腰の棒切れは剣だったのか...!!

 でも形が、僕の知ってるのと少し違う。

 普通のより細くて、反り返って....。


「ちょっと、アンタ!カルマに何するのよ!!」


 先程から黙っていた、ティアが、口を挟んだ。


「カグラ、良いのです。カルマさん、では、またの機会にお喋りしましょ」

「し、しかし....!」

「ティアさん、今日は招待して頂き、ありがとうございました。今日は疲れましたので、お暇させて頂きますわ。行きますわよ、カグラ」


 そう言って、2人は屋敷へと戻って行った。


 王女様の誘いを断ってしまった...。

 また今度って言ってくれていたし、次は少し話してみようかな。


「カルマ、大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。ティアも庇ってくれてありがとう」

「ふんっ、別に大した事じゃないわよ!」


 結局、その後は外で3人仲良く喋って、舞踏会は終わった。

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