シキの実力
僕は彼女の微かな声を聞いた。
助け...て...と。
そんなの聞いたら助けるしか無いじゃないか。
僕はもう誰も失いたくないんだ!
そんな僕の気持ちにシキは応えてくれた。
シキが体を貸せと言ってからの記憶が曖昧だが、ハッキリしているのはティアの心の世界に入った事だ。
僕は言葉が出なかった。
彼女も驚きを隠せていなかった。
まさか、他人の心の世界に入れるなんて...。
ここは、僕の心の世界と少し違うようだ。
全体的に赤っぽく、遠くには炎が燃え盛っていた。
もしかしたら、人によって心の世界は違うのかもしれない。
『それで、どうやってあのエキドナを倒すの?』
「
確かに
『でも、もしティアの
「そうならない為にも、まずは引き剥がす。"
シキは右手を突き出し、そこから竜の頭をした水の鎖が複数伸びていった。
「きゃははっ!そんな細いものが俺に効くわけねぇだろうがっ!!」
鎖はクネクネとエキドナの攻撃を交わしながら近付き、巻きついていった。
途中、何度も引きちぎられていたが、流れるように繋がっていた。
「くそっ、鬱陶しいなっ!」
エキドナは全身に巻きついた水のをものともしなかった。
「ふん、そう焦るな。
次の瞬間、シキの手元から水の鎖が凍り始め、鎖素子がそれぞれ5倍くらいに膨張していった。
「
「う、うごけっ...なっ....!!!」
手から伸びている氷の鎖がピンと伸びたかと思うと、シキは軽々しくエキドナをティアの竜から引き離し、投げた。
「竜を締め付けていた蛇が竜に締め付けられるとは滑稽だな」
「なっ...!このクソガキぃぃっっっ!!!」
「誰がガキだ。"
迫り来るエキドナとの境に、水の壁が立ち、一瞬にして凍り、膨張した。
「
氷の壁から無数の氷の弾が放たれ、エキドナの全身に当たっていく。
最初は弾いていたものの、数に圧倒され、為す術もなく次々と撃たれていく。
しかし、頑丈なことに当たっても致命傷にはなっていない。
『シキ、ぜ、全然効いてないよ!』
「ああ、分かっている。あくまでこれは時間稼ぎだ。これから、今できる最大の攻撃で奴を殺す」
シキは再び右手を突き出した。
「"
目前に浮かんだ黒い炎の玉は、今までに見た事のないスピードで、エキドナの胸を一直線に貫いた。
「ははっ!!俺には炎は効かんぞっ!」
そうエキドナは強がっているが、貫いた穴から亀裂が入り、黒い炎が広がっていった。
「なんなんだこの炎はっ!!竜炎の支配者たる私に効く炎などあってたまるものか!」
「竜炎の支配者だと?ふん、笑わせるな。神から生まれた蛇風情が。蛇が竜に勝てると思うなよ」
「くそ、くそっ、くそぉぉっ!!死ねないっ!死にたくないっ!!!あいつとの約束を守るためにもっ!!」
『あっ!』
大きく開いたエキドナの口から卵が飛び出し、小さなエキドナが孵化した。
隙を付かれたシキは目で追うことしか出来ず、トドメを刺し損ねた。
「逃したか...」
無限に続く心の世界であの小さいものを探すのは至難の技だ。
それと引き換えに抜け殻となった大きなエキドナは黒い炎で焼き尽くされ、塵となった。
それを見てか、ティアは崩れるように腰を落とした。
「はぁ....。助かったのね...。...プリセラ?プリセラ、大丈夫?!」
四つん這いで近寄る彼女は現実で見た高慢さの欠片も無かった。
しかし、その分彼女の
「我が主、私は大丈夫でございます」
「よかった...。よかったよぉ....」
雷炎竜が伸ばしてきた尻尾に抱きつき、涙を零した。
「小僧、助かった。礼を言うぞ」
「貴様も儂を小僧呼ばわりか。ちゃんと相手を見てものを言うんだな」
ティアの相棒は目を凝らして僕を見た後、何かを察したかのように沈黙した。
泣き終えたティアはキッと僕を睨むように振り向いた。
「ところで、なんなのよその力。アンタは水竜と契約したんじゃなかったの?なのに、炎と雷、氷まで使ってるって....一体....」
「その話は外に出てからしてやる。どうせ、外で待っている2人にも話さないといけなさそうだしな。二度話すのは面倒だ」
「わ、分かったわよ...。それと....」
「では、先に行っているぞ」
え、ちょっとシキ!
ティアが何か言おうとしてなかった?
『ん?小声すぎて聞こえなかった。まぁ、また後で聞けばいいだろう。それより、お前に体を返したから、後は任せる』
確かに、手は動かせる。
....ん?
この感触は....なんだ?
目を開くと半泣きのティアの顔が映った。
そして、僕の手はティアの胸を揉んでいた。
「ええっ?!!」
「...な、なにするのよ、この変態っ!!!」
森全体に響き渡るほどのビンタをくらい、僕は吹き飛ばされた。
「人の話を最後まで聞かなかった癖にっ!!」
ええええええっ!!!
っていうか、それもこれも全部シキのせいじゃん!!
『はっはっはっ!!実に愉快愉快っ!!』
何笑ってるんだよ!!
こっちは今にも雷炎の弾が飛んできそうっていうのに!!
そう思って、木の影に隠れたが、ティアは手に出した雷炎を引っ込めた。
この一連のやり取りを見ていたアリアとリナは唖然としていた。
それもそうだろう。
今までに起こっていた事は全てティアの心の中での出来事で、こっちでは一瞬だったのだから。
僕もまだ夢だったんじゃないかと思っている。
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