灰色の世界
次の日。
目を覚ますと隣にルドーさんが立っていた。
「おはようごさいます、カルマ様。改めまして、私はこの館の執事長をしております、ルドー=シエルでごさいます。旦那様からカルマ様のお世話をするように申し付けられております。何かありましたら、何なりとお申し付け下さい」
「....あの、視界が...」
「はい?」
「いえ、なんでも...ないです...」
おかしい。
何も見えない訳じゃないけど、色がない。
昨日までキラキラしてた部屋が全て灰色だ。
窓から見える空も灰色だ。
何もかも灰色だ。
それに、喉が痛い。
これは昨日叫んだせいだろうか。
唾を飲むと少し血の味がする。
「カルマ様、こちらお召し物になります。1階の食堂にて朝食の用意が出来ておりますので参りましょう」
服?
これが?
布一枚じゃない。
どうやって着るんだろう。
「お手伝い致しましょうか?」
「...お願いします」
着替えた僕はルドーさんに着いて行き、食堂へとたどり着いた。
そこには沢山の使用人に囲まれるオルトさんと女の人が1人と女の子が1人。
「おはよう、カルマ!」
「...おはよう...ごさいます」
「さぁ、こっちへおいで!」
僕は多くの視線に萎縮されながら、オルトさんの左前の席まで歩いた。
ルドーさんが当たり前のように椅子を引いてくれ、座った。
目の前には知らない女の人。
ニコニコと僕の方を見ている。
「カルマ、この子は僕の妻のマナ。その奥に座っているのが娘のアリアだよ」
「....よろしくお願いします」
「あらあら、元気そうで良かったわ。あの時は本当に酷い状態でびっくりしたのよ」
「少し野暮用があってね。僕とマナが他の都市からの帰り道に君を見つけたんだ。マナは治癒の力が使えるから居てくれて助かったよ」
「...あのっ...なんて、お礼を言ったらいいのか分からなくて....。その、....お詫びにと言っても僕、お金....持ってませんし....」
「あらあら、いいのよお礼なんて。私達が助けたくて助けたんだもの。難しく考えず、今は朝食を楽しみましょ!どれも美味しいわよ〜」
「そうそう、さぁ食べて食べてっ」
「...いただきます」
手元にあったスプーンでスープを掬い、口まで運んだが、味がしない。
生暖かい液体が喉を通っていくのが分かるだけだ。
「どうかしら?」
「....お、美味しいです」
「良かったわ〜。さぁパンもサラダもドンドン食べてね!」
「...はい」
パンも味がしない。
スポンジの様なものを噛む感触だけ。
だめだ。
これ以上は....。
「うっ....」
僕は思わずコップの水を飲み干してしまった。
「あらあら、大丈夫?」
「...はい。少し、喉に詰まってしまいまして...」
水はちゃんと味するんだ。
オルトさんが僕の顔を覗いてきてる。
不味そうにしてるのバレたかな...。
「今はあまり、食欲がないようだね。後から甘いお菓子でも持っていくよ。部屋でゆっくりしてるといい」
「...はい。ありがとうごさいます」
「ルドー、部屋まで案内してあげて」
「承知致しました。カルマ様、こちらへ」
せっかく用意して貰ったというのに、申し訳ない。
味がしなくても、全て食べるべきだった。
部屋に戻った僕はベットに横になった。
「体調が優れないご様子。お薬を取って参りましょうか」
「...いえ、大丈夫です」
「では何か必要なものはおありですか?」
「...今は...1人になりたいです」
「左様ですか。では何かありましたらいつでも呼んでくださいませ」
ルドーさんを追い出してしまった。
失礼だったかな。
後で謝らないと。
それにしても窓からの光が眩しい。
灰色の空が気味悪いよ。
僕はカーテンを閉めた。
暗い...。
でもどこか居心地がいい。
再び横になった僕は少し考えてみた。
これから僕はどうなるんだろう。
ずっとここにいられる訳じゃないし。
だからって村にも帰れない。
コンコンッ
「失礼するよ」
この声はオルトさんだ。
「暗っ。寝てるのか?」
すみません。
嘘寝です。
オルトさんが隣に座り、瞼の向こうが少し明るくなったのがわかった。
同時に目の前に気配を感じた。
「?!!」
「あ、すまない。起こしてしまったかな」
「...いえ、大丈夫です」
「目薬を挿してあげようと思ってね」
「....目薬?」
「コンタクトを付けたまま眠ると目を痛めてしまうんだ。だから寝る前にこれを目に挿してから寝て欲しいんだ。昨日はルドーに頼んで挿して貰ったんだ。やっぱり僕じゃ上手くいかないな。はは...」
いや、本当に寝てたら気づかなかったと思う。
それくらい優しいタッチだった。
「それより、これ!朝食は口に合わなさそうだったからね。クッキーって言うんだけど....どうかな?」
パサパサしてて、口の中の水分を全部取られていく感じ。
「....美味しいです。ありがとうごさいます...」
「本当かい?気を使わなくてもいいんだよ。美味しくないなら言ってごらん」
美味しくない、と言うより味がしない。
そんなことを言っても信じてもらえるかどうか...。
「....実は今朝からおかしいんです。見えるものは全部灰色だし、何を食べても味がしないんです。せっかく用意して貰ったのに全部食べれなくてごめんない」
「そうか。そこまで追い込まれていたんだね。すまない気づいてやれなくて。一体あの日、何があったんだい?」
僕は今までの事を話した。
誕生日を迎えたこと。
その日の夜のこと。
村のこと。
野盗から逃げたこと。
そしてオルトさんに助けられたこと。
話をしたら少しだけ気が楽になった気がする。
「そうだったのか。おそらく
この人はなんて優しい人なんだろう。
僕の目線に立って話してくれる。
とても良い人だ。
それに、オルトさんの言ってることは正しいと思う。
きっと父さん達は僕が立ち止まることを望んでない。
でも.....。
「ふぅ。少し長居をしてしまったね。僕はこれで失礼するよ。話してくれてありがとう。また辛くなった時はいつでも声をかけて貰って構わない。では」
そう言いさりオルトさんは部屋から出ていった。
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