第7話 別れ


 凄く久しぶりに父上が部屋に入ってきたと思ったらまさかの王都の学校へ行くようにわざわざ伝えるためだった。

 これはあれか……捨てられるパターンかな?


「そ、それはこの家を出て行けという事ですか?」


 そ、そりゃあこの家を継ぐ気が無いんだから出て行けと言われても仕方ないんだけど……。

 この家や自分の部屋にはルークとしての思い入れがある。


 父や母だけじゃない、フーリアやいつも面倒を見てくれた使用人。

 義母たちが来る前はとても楽しかったし、来た後でもこの家に尊い想いがある。だからいざ出て行けと言われるとショックだ。


 やっぱりダインスレイブ師匠せんせいの事がダメだったのかな。

 しかし父は首を横に振った。


「違う違う!俺がそんなことをするわけないだろう」

「え、じゃあ……どうして?」

「だから学校だよ」


 王都の学校は遠い、ここから3日くらいはかかる。

 だからこそ厄介払いをされたと考えてしまう。


「それって家を出て行けという事では?」

「違う、私達の住む街にはちゃんとした学び舎がある。しかし残念ながら教育のレベルは王都エステリアには及ばない」


 王都エステリア学校……聞いたことがある、というかルエリアの名門じゃないか。


 平凡なこの街のレート学校でいいんだけど……。

 そんな私の意図を汲み取ってもらえず、父はまったく違う事を言い出す。


「不安なのはわかる。名門だから入学は大変だと、ただルーちゃ……ルークなら大丈夫」

「どうしてですか?私の実力も知らないのに……」

「知っているさ」

「え?」

「これでもちゃんと見ている。ま、まあ半分は君に教えてくれている先生のおかげだけど、まあ辞めさせてしまったが……それは仕方のない事だと信じて欲しい」

「……だけど半分で……?それだけで王都へ?」

「そうだな。それもあるけど、やっぱり剣術をもっと学ぶにはやはりもっと上の学校へ行くべきだ。バレンタインのレート学校よりもな」


 マジかー。


 そういえば確かにフーリアとも会えなくなってから引きこもりがちだった。外に出れば嫌いな義母に何を言われるか分からない。


 食事すらこの部屋に使用人に頼んで運ばせている。部屋に食事を持ってきて欲しいとお願いしたのは私で、父上も私の境遇は知っていたからせめてもの償いで無駄に長いテーブルで義母達とご飯を食べずに済んでいた。


 だから私はコミュニケーションというモノがまた苦手な人生を送ることになるだろう。それはずっと部屋に引きこもり、魔法や剣術の訓練の時しか出ないからだろうと思っていたけど……。


 そんな私が名門に行くのか。

 おそらくレート学校より生徒数は多いはずだ。

 レートも決して小さいわけじゃないけど王都に比べれば学校の敷地面積も生徒の数も全然違うはずだ。


 平凡な所でいいのに……この父上はことごとく私の意図を汲んでくれない。ここまで意思疎通ができないと血なんて繋がっていないんじゃないかと考えてしまう。


 まあ関わり合いが親子なのに少ないから仕方ないが……。

 ここははっきり言ってやるべきか。私は名門へは行きたくないと拒否しようとした――その時だった。


「まあなんだ……お前ならきっとやれるはずだ。お前のその名前はご先祖様の名前でお母さんが付けてくれたんだよ」


 急に凄く優しい表情で穏やかな父上。

 

「ご先祖様のように強い子に育つようにとね。まあ男性に付ける名前だから嫌だろうけど……そこはちゃんと言っておくべきだったか」

「……」


 亡くなった母がそんなことを言っていたと知れば当然、行きたくない!


 とは言えないじゃない!!


 くっ……ここでそんなカードを切ってくるとはこの父上はなかなか策士だ。

 結局、名門の学校へ行きたくないとは言えずエステリア学校へ行くことになった。


 まあもう仕方ない!決まったことならそれをやり通すまでだ!!


「あ、一応不安ならレート学校を滑り止めにしてもいいが……」

「……はぁ、その必要はありませんよ。必ずエステリア学校へ入学しますから」

「そうか!いい返事を貰えてよかった!!!……私とお母さんはお前を信じては居るが……無理はするなよ」

「はい!程よくでも期待に応えれれるように頑張ります」

「そこは期待以上に応えると言って欲しいが、ちなみに明日から王都に入ってもらうからな」

「……もう少し早く言って欲しかったです」


 こういうのは事前に余裕のある心構えを持って挑みたかった。こういう所もこの父上と私の相性の悪さが出ている。


 それかこの寸前のタイミングでしか言えないわけがあるのか。


 今日と言う日はそこから何事もなく流れて行った。


 そして翌日、私を王都へ連れて行くための馬車へ乗り、数時間かけて移動する。

 しかし馬車が迎えに来たその時……嫌な声が聞こえる。


 忙しいなりに見送りくらいはと父上は隣にいるんだけど……ここで招かれざる客がやってくる。客と言うか義母というか……。


「ちょっと貴方!その子を王都の名門へ通わせるというのは本当なのね!?」

「なっ……どうしてそれを……お前が……」

「隠し事なんて無駄です。私は反対です」

「……それは君が決める事じゃない」

「なっ……!!」


 お、おお……父が初めて義母に反抗したのを見た気がする。


 だけどちょっと弱腰なのが玉に瑕だけど……。

 しかしそれでも引かないし、そもそも馬車が来ているんだから待たせるわけにもいかない。


「お前が何を言おうとこれは決定したことだ。既に向こうの学校の校長に話を通してある。試験を受けなければバレンタイン家の名が廃るわけだが……その責任がお前には取れるのか?」

「くっ……私のアーミアでもレート学校なのにぃ!!」


 義母はその責任までは取ることができず、私を馬車に乗ることを止めなかった。

 最後に「どうせアンタじゃ受からないわぁ!」と捨て台詞を吐かれたけど、個人的にはすっきりした。


 なんとか心置きなく新しい生活が幕を開けるみたいね。

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