伊織くんのラブコメ〜親友たちにモテ期がやってきました〜

湯綿銀月

1章 由貴と二人の姉妹

第1話 親友からの相談


 友達は、自然となって自然と離れていく。


 小学生の頃はよく遊んでいたけれど、中学生になるとつるまなくなった──なんてよくある話だ。


 人の縁なんて、きっとたかが知れている。


 血の繋がりは切っても切れないような強固なモノであるのに、それが無ければ結局は赤の他人となってしまう。

 それほど他人同士が紡ぐ親交の糸は脆くて、途切れやすい。


 だからこそ、たった一度の人生で──“最高の友達”に出逢えたのだとしたら、それはきっと奇跡なんだろう。


 男子高校生である冴木伊織さえきいおりには、そんな“最高の友達”───いや、親友とも呼べる存在が、三人もいた。


 ひねくれオタクの新田影光にったかげみつ


 最近高校デビューに成功した大山由貴おおやまゆき


 外見と内面共に完璧イケメン、朝宮蒼介あさみやそうすけ


 伊織はきっと、周りに恵まれている。

 

 恵まれているが故に、のちに彼ら三人のモテ期の流れにも、巻き込まれてしまうことになる。


 これは、伊織が四苦八苦しながらもモテ始めた親友たちの力になる話。

 

 そう、“友人キャラ”として。







***






「なぁ、相談があるんだけど⋯⋯」


 昼休みの教室にて。


 昼食を食べ終えた後、数学の課題に取り組んでいた冴木伊織のもとへ、親友である大山由貴がやって来た。


「また?  今忙しいんだけど」 と言いつつも、課題のノートを閉じて由貴に体を向ける伊織。


「忙しいってその課題さっき四限目で配られたやつじゃん。そういうのは家でやるもんだよ」

「こういうのは学校で終わらせておきたい。で、相談って?」

「聞いてくれるんかーい」

「いいよ。今度は何? その金髪ピアス似合ってないって誰かに罵倒された?」


 由貴の容姿は目立つ。


 ミルクティーカラーの金髪ショートに右耳にピアス。身長は百八十センチ超えの長身で顔の整い具合もアイドル級なので、由貴の放つ異様なオーラは尋常ではない。


「されてねーよ! むしろ似合ってるって皆から言われてるわ」

「小中の頃のだっさい由貴見てたら絶対似合ってるとか思わない。やっぱり違和感凄い。黒髪に戻せ」

「いつまで俺の金髪いじる気だよ! もう二年生だぞ! 流石に慣れろ!」


 高校二年の五月半ばになった今でも、伊織は由貴の容姿に対する違和感を払拭できずにいる。


 金髪やピアスに偏見があるわけではない。ただ単純に、由貴が髪を金に染めている事実が面白くて仕方がない。


 高校デビューに伴う金髪化、ピアス装着は伊織には衝撃すぎた。いくら周囲の評価が高くても、伊織にとって小中九年間で目に焼きつけた由貴のイメージがどうしても離れてくれない。


 ゆえに、事あるごとに伊織の金髪イジリは始まる。


「ごめんごめん。で、相談」

「そ、そうだよ相談。聞いてくれ⋯⋯」


 由貴は椅子に座る伊織の高さに合わせて中腰の姿勢をとり、何故か神妙な面持ちで、そしてヒソヒソ声で話し始めた。


「実はさ⋯⋯俺、彼女⋯⋯できたんだ。一ヶ月ぐらいに⋯⋯」

「おー、おめでとう」

(なんでそんな後ろめたく言うんだろう)


 軽い拍手で祝福しながらそんなことを思う伊織。


「相手はすず⋯⋯戸田鈴零とだすずれ。三年の先輩」

「ほうほう。由貴がずっと前から好きだった人だな。やったじゃん」


 戸田鈴零───伊織らが通うこの青風院高校の生徒会長。学業スポーツ共に成績優秀で、二年の前期から三期連続で生徒会長に抜擢された誰もが認める超がつくほどの優等生。


 容姿にも恵まれており、男子生徒からの人気も高い。所謂、高嶺の花的存在。


 三年生の鈴零と一切接点のない伊織ですらここまでの情報が把握できるほど、鈴零は学校で有名だ。


「なんか⋯⋯反応薄くない?」

「いや、今の由貴なら普通にありえるし」

 

 顔良し性格良しの由貴のスペックを持ってすれば彼女ぐらいできるだろうし、鈴零と恋人関係になっても不思議じゃない。


 美男美女のお似合いカップルだと誰もが考えるだろう。 伊織はお世辞抜きでそう思った。


「そ、そうか⋯⋯ありがとう。で、ここからが本題なんだけど⋯⋯」

「うん」

「昨日、鈴零の家にお邪魔したんだ⋯⋯」

「もう家行ったのか! 早いな⋯⋯いや、一ヶ月なら普通か」


 高校生の恋愛事情に疎い伊織には、付き合ってどれくらいでお家訪問するかの相場がわからなかった。


「そ、それで、家には鈴零の妹がいてさ⋯⋯」

「へー会長さんに妹いたんだね。知らなかった」

(あの会長の妹だし、さぞかし美少女なんだろうなぁ⋯⋯)


 そんな期待を目に浮かべる伊織とは正反対に、由貴の表情は次第に曇っていく。


 由貴は深く、深呼吸した。


 緊張からか目に力が入り、首筋と頬には汗が数滴流れている。

 それを見て伊織は、左手で頬杖をついて、呆れの表情を見せた。


 伊織にとって、この由貴の様子は日常茶飯事であるからだ。


(由貴はどうでもいいことでも真剣に悩むからなぁ。今度はどんな拍子抜けな───)


「その子にキスされたんだ⋯⋯」

「えーーーーーーーっ」


 これまでの由貴のくだらない悩みからは全く想像もできないような昼ドラ展開に、伊織は開いた口で驚嘆の声を漏らし続けた。





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