第036話 VS とんこつQUINTET!(5)

 ……まあとりあえずは、敵のリーダースキルと一斉近接攻撃を凌いだっ!

 次の近接攻撃チャージまでの20秒間、当てて避ける!

 癒乃さんが言った、確実に当てて、確実にかわす──。

 確かに重要だ。

 序盤で油断による被弾が多かったら、俺はいまの斬撃でロストしていた。

 いかに弾が飛び交うゲームだからって、その一発を舐めちゃダメだ。

 じゃあいかにして、敵弾を避けていく……?

 光弾は、地上120センチの高さで飛び交っている。

 俺の身長だと、ドッジボールの球を腹と胸の間で受ける感じ……か。

 十分視認できるけれど、見てからかわすより、射線を予測して逃げるほうがいい。

 それを行うには…………。


「……俯瞰?」


 そう、俯瞰!

 将棋盤を見下ろすように、敵の位置を常に俯瞰に置き換えて、射線を予測、把握!

 このレイドックスは、変則的なドッジボールのようなイメージ。

 そしていま戦っている相手チームは、一定周期で強烈なアタックを仕掛けてくるバレーボールチーム、もしくはゴールを脅かしてくるサッカーチーム。

 ただ……学校の授業以外でスポーツ歴がない俺には、等身大の人間の位置把握や、行動の予測が難しいっ!

 だったら意識を……水平視点から、俯瞰視点へと変換させろっ!

 意識を上空へと……上昇ライズっ!


「シューッ! シューッ!」


 ……この射撃時の発声も変えたほうがいいな。

 「シュート」は思ったより発声が長い!

 この一戦が終わったら、さっそくユウに変更してもらおう。

 だけどいまはとにかく……舌がもつれるまで掛け声だっ!


「……みんなっ! 18秒っ!」


 頼もしく思える、未来さんからの警告。

 左右の近接攻撃組のチャージが近い。

 俯瞰視点への意識切り替えを掴み掛けていたが……いまは作戦通り、愚直に初期位置へ移動っ!

 女の子を盾にしてカッコ悪かろうがみっともなかろうが、作戦を愚直に遂行するのが、いまの俺にできる確実なチーム貢献っ!


 ──ダッ……ザシュッ!

 ──ザッ……ザシュッ!


 両サイドの近接攻撃スキル持ちが上がってきて──。

 俺の前にいるアオサさんが、西洋剣の斬撃を被弾──。


「ぐっ……! ゾンビにやられるとは……忌々しい……!」


 ──ドゥウウゥンッ!


 アオサさん……ロスト。

 自陣左方でも、同様に日本刀を受けた癒乃さんが……ロスト。


「フフッ……。まさか刀剣から死を貰える体験が、できるとは……なぁ……」


 ──ドゥウウゥンッ!


 ……二人がフェードアウトして、一気に3対5の劣勢。

 自陣がスカスカになって、不利という状況を否が応でも体感させられる。

 特に、拡散弾使いのアオサさんがロストしたことで、自チームの弾がごっそり消えて、視覚的な優位性も失った気がする。

 けれどもこれも…………癒乃さんの読みどおりの展開っ!

 ロストした癒乃さんのためにも、いまやライフが10%強の俺がきばらないとっ!


「うおおぉおーっ! シューッ! シューッ!」


 撃ちながら、避けながら、意識を……上昇ライズっ!

 幸い向こうのチーム、ショットは連射性が低い直線的なものばかりっ!

 射線を読むのはたやすいっ!

 俯瞰……俯瞰……っ!


「────っ!」


 目の前に、青いバンダナを巻いて頭部を隠した、将棋中のイマリさんの笑顔……。

 そして、将棋盤のイメージが浮かんで……。

 相手チームの射線が……駒の移動範囲……「利き」のように浮かび上がるっ!


「くっ……まずいっ!」


 西洋剣使いの流紗が、俺の移動先に

 このまま右方へ逃げたらかなり被弾するっ!

 ここは……前進っ!


 ──ダッ!


「なっ……!? あの野郎、かわしやがったっ!?」


 流紗の悔しそうな声。

 っていうことは……いま俺。

 敵の動きが……フィールド全体が、一瞬だけれど見えていた!

 フィールドを俯瞰したっ!

 いいぞっ、この感覚だっ!

 それでも避けきれない敵弾はあって、もうすでに俺のライフは10パー切ったけれど……。

 0にならない限りは攻撃できるんだっ!

 最低限のダメージの活路を、俯瞰視点で見つけ……最悪のダメージをかわす。

 端数のダメージは……必要経費……捨て駒だっ!


「あ……あれっ? 桂馬ちゃん、急に動きよくなった!?」


 誉さんに褒められたっ!

 将棋でイマリさんに褒められたときを思い出す!

 もしイマリさんが、早々にこの俯瞰視点を手に入れていたとしたら……。

 ランキング首位不動なのも納得がいくっ!

 このフィールドを見下ろすイマリさんの目は……神の目だっ!

 将棋で数百手まで読む思考力で、敵はもちろん、敵弾すべての軌道を把握っ!

 たぶん……誉さんの跳躍弾も、イマリさんの眼下では変則的ではなく規則的っ!

 その神に挑むんだから……たかだか50位らへんで苦戦しててたまるかっ!

 癒乃さんの策を、生かすためにもっ!


『────以上が、アタシの策だ。まあ、策と呼べるほど立派なものでもないが、な。これを最後まで実行するには、最初に述べた与ダメージの蓄積と、被ダメージの軽減がモノを言う。強敵だからといって焦ったり、自棄になったりせぬことを願う』


「──みんなっ! 40秒よっ!」


 未来さんからの警告。

 ただし今度は、初期配置とは違う陣形を組む。

 自陣右隅に俺と誉さんが並んで固まり、自陣左隅に未来さんが一人。

 「40秒よっ!」の「よ」。

 いままでの警告にはなかった「よ」。

 これが合図────。


 ──ダッ!

 ──ザッ!

 ──タッ!


 刃物持ち三人組の、一斉の近接スキル発動。

 西洋剣の流紗と、死神の鎌デスサイスの星光が、俺と誉さんを襲う。

 二人まとめて葬る仕掛け。

 日本刀の天音は、未来さん狙い。

 その未来さんが、三人の出鼻をくじくっ!


「グラヴィティ・ボンバーッ!」


 未来さんの右手のフィンガーレスグローブが、フィールドを勢いよく叩く。

 そこを中心に生じる、重力を帯びた正円状の黒い波動。

 俺と誉さんを狙っていた二人が重力に捉えられ、未来さんへと引きずられる──。


「チイッ……! 美味しいところを邪魔しやがってぇ!」


「隅の二人は、撒き餌……か。ライフギリギリの貫通スキルユーザーに……意識を寄せ過ぎた……。慢心……」


 これが癒乃さんの、「彼女らのうっかり、見落としに期待する、消極的な策」。

 自分たちの優位や、ロスト目前の俺に、勝ちを焦った。

 俺がイマリさんと同じレアスキル持ち……というのも、その思考を誘ったはず。

 そしていま、未来さんへと引き寄せられている三人に、そのレアスキル……貫通弾をまとめてお見舞いするっ!


 ──ダダダダダダダダッ!


 誉さんも、未来さんへの援護射撃で、ライフわずかの天音を攻撃。

 この天音、自分のロスト時に、すでにロストしている仲間を一体復活させるという厄介なスキル持ちだが、最初に倒してしまえば、そのスキルは無意味になる……。

 …………っ!?

 西洋剣の流紗が……引力に逆らってるっ!?


「へっ……へへ……。オレの瞬足……舐めんなよ……。貫通弾はしょーがねーけど、跳躍弾は引き受けてやるよぉ! おらっ!」


 突出した機動力で、小さな動きながら、引力に逆らっている流紗。

 本来天音に当たるはずの、誉さんの跳躍弾を……一身に受ける。

 そして……二度目のロスト。

 直後、俺の貫通弾と、未来さんの連射弾が、天音を仕留めた。

 こ、これって……まさか……。


 ────フォンッ♪


 未来さんのリーダースキルが終了し、一人こちらのフィールドにいた星光が、自陣へと引き返す。

 それと同時に、天音のスキル・再構築リビルドが発動。

 敵陣の空きスペースに再度、流紗が復活した。


「チッ……。まさかの二度目かよ。ゾンビ扱いされてもしゃーねーな、こりゃ」


 そこへ追い打ちのように、スキルチャージが済んでいた莉麦の声が轟く。


「エクステンドっ!」


 ────フォンッ♪


 天音も復活。

 ほんの数秒、3体3のイーブンへ持ち込めたものの、すぐに3対5の劣勢へ。

 理不尽ともいうべき敵チームの構成に、隣の誉さんが両腕をぐるぐる回して愛らしい悪態。


「んも~っ! ポンポンポンポン復活させちゃってぇ! ずっこ~い! チーム名、とんこつラーメンから、わんこそばに改名したらっ!?」


「アハハハ……。とんこつラーメン好きの集まりなので、改名はないですね……すみません」


 エクステンドスキル持ちの莉麦が、苦笑いをしながらペコペコと会釈。

 確かに卑怯と言いたくなる、チーム構成だけれど……。

 こっちもバリア編成チームから見ればそうなんだろうし、俺はなにも言えない。

 ただ、向こうのチームの本当の恐ろしさは……いま、やっとわかった。

 近接スキルと復活スキルの相互作用で、「彼女らには勝てない」という意識を問答無用で押しつけてくる。

 こっちの勝ち気を……心をへし折ってくる。

 それでも……それでも俺たちは……勝つっ!

 残り、1分ちょっと────!

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