第17話
僕はゆっくりと近づいていった。
ぺんたはMo「待機:後ろ手」で待っていた。
ふと気づくと、ステージの周りに、何かやたらとキャラクターがいる。
チームアイコンがちょこころねの集団。
来栖さんにぐんぐさん、るなさんにゆさんに楪さん、ねっぴーさんにセリアさん。
みょーまさんにルーナさん、ルーチェさん。
あれ、逆側にほのかさん、トウガさん、ジェロゲさんにドリスさん。静夏さんにピーニャさん。suzumeさんにHARUさん、チャンドラさん。あ、他にもいる。
ゼロさん、桜火さん……、いやいやいや。
何でこんなにいるんだよ!
たしかに、ちょこころねはイン率のいいチームだけどさ!
いや、今日、ログインしすぎでしょ?
そして、チームアイコンがおれんじぺこの集団もいる。
それだけじゃない。
あれはトナカイ集会に参加しているみんなだ。
グローキューブ使って「ガンバレ」とか書いてるぞ。
横断幕のつもりか?
ちょっと待て、何故みんなそこにいる!
「しーろーちゃ」
「しーろーちゃ」
しろちゃ? 白チャットのことか。
近くにいる全員が見ることのできる公開チャット。
「しーろーちゃ」
「しーろーちゃ」
何だ、このコールは。
もしかして、これは、この場で白チャットで告白をしろ、と。
そういう意味なのか?
ぺんた、中原先生は何も起きてないような、超然とした雰囲気で立っている。
「みんな静かに! チャットが流れる!」
姉さんがトゲ付きで叫んだ。
すると、賑やかだったメッセージウインドウが一気にシステムメッセージだけになる。
静まりかえった雰囲気に逆に臆してしまう。
白いトナカイの前には笑顔のサンタ女子。
そうか。クリスマスが近いからって、サンタ服買っていたよなあ。
どことなく、中原先生に似ているような気がする。
でも、本人をイメージしてるには、少し日焼けしすぎてないか。
いや、ちょっと待て。
僕は公言していたはずだ。
褐色肌はいいぞ、と。
このキャラクリって、僕の好みを意識したりしているのか?
姉さんが、何か言ったのか。
いや、でも、そういうことは。
中原先生も、僕のことを。
キーボードに入力する。
あの言葉を。
だけど。
enterキーを押せない。
押せない。
「ホワイトハウスさん」
吹き出しが浮かぶ。
「私もちょっと恥ずかしいんだけどね」
ぺんたが白チャットで言った。
それを見た瞬間、何かが吹き飛んだ。
彼女に恥ずかしい思いをさせるって、そんなことがあっていいのか?
いいわけないだろう。
僕は。
僕は。
彼女のために。
enterキーを押した。
「好きになりました! 僕とつきあってください!」
「はい。よろしくお願いします」
さっくりと返事が帰ってきた。
「88888888888」
「おめでとうーー!」
チャットやスタンプが飛び交う。
リテム撮影推奨002は大騒ぎになった。
みんなが寄ってきて、ロビアク「花びら」で花びらを巻きまくる。
かと思えばロビアク「クラッカー」を鳴らす者もいる。
その周囲にはダンスを踊るキャラたちもいる。
何か照れる。
「すみません。大騒ぎになってしまって」
ウィスパーチャットを飛ばすが、多分流れてしまうだろう。
「祝ってもらえるのは嬉しいよ」
ありがたい言葉が返ってきた。
そして、大騒ぎの中、いきなりBGMが変わった。
「緊急警報発令。リテムリージョンで、高エネルギー反応を確認しました。現在状況を確認中です。アークス各員は出撃の準備をお願いします」
「ソウラス来たーーー」
「この勢いで行くぞー」
みんなが叫ぶ。
姉さんからパーティー要請が来た。
そのまま受諾。
そして中原先生も。
あれ? 三人パーティー? 他のおれんじぺこの人は?
「さ、ソウラスがご祝儀でフリューガルドくれるかもね!」
「おー!」
いろいろどうでもよくなって、姉さんの言葉に勢いで答える。
脳内にアドレナリンが、がばがばと出ているので、多分、ちょっとハイになっている。
そして、マッチングができたのか、そのまま待機エリアへ。
そこには、パグさん、ロレさんがいた。
「さあ、五人ソウラス、行ってみよー」
と、姉さん。
「五人?」
「はい、何とか行けるでしょ」とは僕の彼女になった人の言葉だ。
武闘派だなあ。
「じゃ、こども食堂スタッフパーティーで行ってみようか!」
姉さんの言葉に引っかかった。
うん?
「あ、こっちで名乗るのは初めてだよね。栄養士の佐々木です。じろーくん」
「あ、くらたミートの佐々木です。よろしく」
パグさんとロレさんがいきなり名乗りをあげた。
あげた……が。
え? まさか!
「ええええええええっ!」
「あれ? 知らなかった……、の? 一姫さん、二郎くんは佐々木さんたちのチームにいるって」
中原先生が言う。
何? 知らなかったのは僕だけ?
「さー、行くよー。ソウラスぶっ飛ばしましょう!」
姉さんの言葉のタイミングで、緊急クエスト「星滅の予兆」が始まる。
PSO2NGSはオンラインゲームである。
一つの仮想世界で僕らは遊ぶ。
隣にいる人がどういう人かは知らない。
知らないけど、友だちになって、困ったとき、勇気がほしいときに助けてくれたりする。
人と人が作っていくゲーム。
それがオンラインゲームだ。
僕らは、そんなゲームで遊んでいる。
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