第13話
エアリオシティ。
シティというには、いささか小ぶりの町なのだけど、まあ、そこはゲームの事情で言いっこなし。
そのシティのエステ前にいるキャラがこちらに寄ってきた。
どこかで見たアイコンだと思ったら、姉さんのチーム「おれんじぺこ」のティーカップのアイコンだった。
「やっほー」
キャラ名は「Princess_No1」、姉さんだ。
ちなみにチャットでPrincess_No1と入力するのがめんどくさいため、みんなからは姫、もしくは1さんと呼ばれている。
「どうしたの? 声かけてくるなんて珍しい」
「いやあ、新人の面倒見ててね」
とことこと着いてきたキャラクター。
白いウィオラマリルを着ている。
初期服だ。ついでに若葉マークのアイコン。
本当に初心者なのだなあ。
キャラクリは割と美人系。
シルフィーフェイスっぽい。
「はじめまして~。ホワイトハウスとなあ」
「はじめまして。『ぺんた』です」
「ぺんちゃん、テンニンドーのスイッチ!なので、チャット遅いからね。気をつけてあげて」
「了解トナあ」
新規さんかあ。
キャラクリ含めて初々しいなあ。
「トナカイかわいいですね」
「ありがトナあ」
ふと疑問が湧いた。
「ぺんたさんはペンギンが好きなのトナ?」
「え? 何でです?」
「いや、ぺんただから、ペンギンなのかトナあ?」
「アメリカ国防総省ですよ。ペンタゴンの略」
「あ、そ、そうトナ」
何か凄いセンスだな。この人。
まあ、ホワイトハウスというキャラ名の僕が言えた話ではないのだけど。
「じゃあ、ホワイトさん、一緒にコクーン行ってもらっていいかな?」
「え? 1さんが行けばいいじゃん」
「ちょっとやることがあってさ。それに、『おれんじぺこ』は、ホワイトさんのちょこころねみたく、インしてる人が、二十人もいるようなチームじゃないからねえ。手伝って、ね」
こういう時に断りきれないのが僕の弱いところだ。
まあ、日曜の昼下がりにログインしているということで、今日何かすることがあるわけじゃないこともバレているんだろうし。
そして、二人してあちこちのコクーンを回る。
ソロでしかできないところはともかく、パーティーでやれるところは一緒に行って、さっさと片付ける。
ストーリーは一人で回ってもらうしかないから、それ以外のところをサポートしよう。
そんなこんなで二時間くらい、一緒にあれこれ回る。
「どうトナ? だいぶ慣れたと思うトナ」
「そうですね。長いお時間、ありがとうございました。ホワイトハウスさんって、面倒見のいい方なんですね」
「まあ、ヒマだったからトナ」
「デートの相手とかいないんですか?」
お、何か喧嘩売られた? はいはい。日曜に暇で申し訳ありません。
「いませんよ」
「そうかあ。よかった」
ピキ。よかった??
「付き合ってくれてありがとう。二郎くん」
ん?
「ゲームでも面倒見いいんだねえ」
え? おい? は?
ちょっと待って。僕を知ってる??
「あ、二郎くんって言っちゃった! 黙っててごめんなさい。中原です」
なーーーーーーーーーーーーーー!
「え? 中原先生? 何で?」
「一姫さんがね。面白いゲームあるよって教えてくれたの」
姉さん……、あなたという人は……。
「面白かったですか?」
「うん。まあまあ、かな。やること多いんだねえ。でも、いかに飽きさせないか、とかいろいろ工夫が多いんだねえ。二郎くんが飽きない勉強法を生み出すのは、何かわかる気がする」
「え?」
「それに、今、隣にいないのに一緒にいるって、何か面白い感じだね」
「あ、いや、楽しいのだったらよかったです」
姉さん、後でコロス。
「じゃあ、一旦ログアウトして、ちょっといろいろすませたら、今度はストーリー進めていくね。今日はありがとう」
中原先生、ぺんたはそう言ってログアウトしていった。
僕は呆然として立ち尽くしていた。
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