ep5.第二の刺客 バレンティン=カルローネ

■後神暦 1310年 / 春の月 / 空の日 am 09:30


「ママ~、図書館にいってくるね!」


そう元気良くママに告げて家を飛び出すわたしも5歳になったわ。

手足も伸びて行動範囲もグンと広がった、前世のわたしもまだまだ成長期だったけど、この身体の成長はすごく早く感じる。

だってあっと言う間に服の丈が合わなくなるのよ、子供の成長って神秘よね。


この2年で教会に置いてある本で学べることは学び尽くした。

覚えることがなくなって、この世界の宗教にまで手を出してしまったくらいよ。


でも、知れば知るほどこの世界はあのクソゲーと世界観が違うのよね、女神エストなんて設定になかったわよ…って言っても設定のくそうっすいあのゲームを作った制作のことだから「実はありました~」なんてことも考えられるから油断はできないけど…


とにかく、何があっても対処できるように今は知識を蓄えるべきだわ。

成長したわたしは家から少し離れた街の図書館にも行けるようになったし、地理、歴史、経済、そして最重要の魔法を知る為に通い詰めている。


「アリー! どこいくんだ?」


出たな刺客…タイミング良すぎよ、絶対待ってたでしょ。

わたしはママを病に備える為に少しだって時間を無駄にしたくないの。


「図書館よ、急いでるからそれじゃあね」


「待てって、今日は公園行こうぜ! オレ新しいあそび考えたんだ!」


「嫌よ、気が向いたらいつか付き合ってあげるけど今日はもう行くわ」


「そ、そっか~、じゃあまたな(悦)」


もう、エラルドの将来については諦めたわ。

奴がドM野郎に成長したとしても、わたしは確固たる意志をもって拒絶すると誓ったもの。ええ、それはもうどこぞの錬金術師絶対殺すマン並みの決意を以て拒絶するわ、女神エストにだって誓っていい。


足早に立ち去ったわたしは、街の中心地に続く長閑な道を図書館へ急いだ。


 ~ ~ ~ ~ ~ ~


――図書館


毎回思うけど、この町って本当に不思議よね。

わたしの家の周りはザ・村って感じなのに、図書館のある中心地は道も石畳で鋪装されてるし建物も大きい、同じ町なのに全然雰囲気が違うのよね。


家のイスよりも座り心地の良い、イスに座り持ち出した本を開く。

今日は中途半端になっていた魔法と経済の本を読破したい。


「ねぇ君、となり良いかな? どこも空いてなくてさ」


声の方向に顔を上げると本を両手で抱えた黒髪の美少年が立っていた。

丸い目に鼻筋の通った中性的な顔立ち、女の子と言われても納得できる。

この世界は本当に顔面偏差値が高いと再認識した、パパンですらイケおじなのだ。

彼の言うように確かに周囲は休日でもないのにイスが埋まっている。


「うん、どうぞ」


イスごと奥へ詰め、手で隣を空けたジェスチャーをした。


「へぇ~難しい本読んでるんだね、すごいね!」


「そんなことないわ、分からない部分がいっぱいよ」


「そうなんだ、でも調べながら読むのも楽しいよね! あ、ボク、ヴァルっていうんだ、よろしくね」


「わたしはアレクシア、よろしくねヴァル」


隣で本を読みながら、時々雑談をして楽しい時間を過ごすことができた。

ヴァルはわたしと同い年で商家の次男、経営に興味があってヒマがあればこうして図書館に通っているそうだ。


「再来年には初等学院に入学だね、アレクシアはこの辺の子なの?」


「いいえ、町外れの村みたいな地域があるでしょ? その辺りね」


「そうなんだ! ボクの家はそこと図書館の中間くらいの場所なんだ、学院も一緒にいけたらいいね」


「そうね! そうなったら楽しそうだわ!」


あぁ…いいじゃない、乙女ゲーって本来こうあるべきじゃない?

解るか?制作陣、これが本当の需要なんだよ、尖りまくって差別化すれば良いってもんじゃないんだぞ、悔い改めろ。


子供特有の人懐っこさがありつつ、ガキっぽくないヴァルとの時間は本当に楽しく、前世から久しく感じていなかった友達と話している感覚だった。


途中図書館を出てお弁当を一緒に食べ、また図書館に戻り本を読み雑談をする。

時間はあっという間に過ぎ、気づけば帰る時間になっていた。


「楽しかった~、アレクシア、途中まで一緒に帰ろうよ」


「うん、そうしましょう!」


初めに相対性理論を恋に例えた人は天才だと思うわ、わたしの精神年齢と実年齢が離れ過ぎていて子供のヴァルに恋心は抱かないけれど、楽しい時間が早く感じるのは本当にその通りなんだもの。


夕暮れに近づく道をわたしたちは並んで歩いた、心なしかヴァルもゆっくり歩いているように感じる、他人事じゃないけれど微笑ましいわね。


「もう着いちゃった…ここボクの家なんだ。またね、アレクシア」


「えぇ、またね、ヴァル」


彼の背中を手を振り見送った。

先の不安が多いけれど、これくらいの楽しみがあってもいいんじゃないか、張り詰めてばかりではいけない、そう思えた1日だったわ、ありがとうヴァル。


――アレクシア~


一人になったのでいつも通りのペースで歩いていると仕事帰りのパパンが手を振りながらこちらに駆け寄ってくる。


「また図書館にいってたのかい?」


「えぇ、パパ聞いて、図書館で友達もできたのよ!」


「そうかい! それは良かった、どんな子だい?」


「ヴァルっていってね、頭の良い子よ、そこの家に住んでるの」


「あ~カルローネ商会の息子さんか、確かに賢い子で有名だよ」


「…え?」


パパン、今なんて言った?カルローネって言った…?

嘘でしょ、だって刺客あいつはインテリメガネくんよ?

でも、でも…カルローネ、黒髪、ヴァル、バル…バレンティン…?

おぉう…フ〇ッキンエスト…


バレンティン=カルローネ…攻略対象と繋がってしまったわ…

くそっ…わかるワケないじゃない、トレードマークどうしたのよ?


「お前メガネかけとけよーーーーー!!!!」


わたしは渾身の力で叫んだ、隣で驚いているパパンのことなど知ったことではない。


【アレクシア(5歳) イメージ】

https://cdn-static.kakuyomu.jp/image/3fmuLdXd

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