ep3.第一の刺客 エラルド=ムスト
■後神暦 1306年 / 夏の月 / 黄昏の日 am 10:00
「アレクシアちゃ~ん、今日はお外に行ってみましょうか~」
「
勘弁してよママ、
「大丈夫よ~、ママが一緒にいるからね~、お友達もできるかもしれないわよ~」
そのお友達が問題なのよ…
あ、ちょ、やめ、抱き上げないで!やだやだ行きたくないー!!
泣くぞ?泣いちゃうぞ!?
赤子のわたしには抵抗する手段はなく、抱き上げられ、そのまま外へ連れ出されてしまった…
う…日差しが眩しいわね、外に出てしまった…ここまできたら厄災どもに会わないことを祈るしかないわ。
でも、随分と
「さぁ~広場よ~、アレクシアちゃん、お友達作りましょうね~」
嫌だ!友達作りなんて冗談じゃない!
そりゃ素敵な友達なら欲しいよ?でもさ、絶対アイツがいるに決まってるじゃない。
わたしはママから離れませんよ、意地でもしがみついてやる!
「あらリュミエルさん、今日はアレクシアちゃんも一緒なんですね」
「こんにちは、ムストさん、そうなんです、今日が広場デビューなんですよ~」
ムスト!?さっそくきやがったな…
「そうなんですかー、アレクシアちゃ~ん、息子のエラルドと仲良くしてね~」
エラルド…乙女ゲームでは必ず一人はいるであろう俺様キャラ…
わたしだって引っ張ってくれる男の子は嫌いじゃないよ?
でもさ、エラルドママ、知ってます?あなたの息子さん、将来、痛いことされたり、意地悪なこと言われると悦ぶ性癖に目覚めちゃうんですよ…?
確かに今は可愛いよ、それはわたしも否定しない。
今のエラルドに罪はないかもしれない、でもゲームのシナリオ通りなら、フラグ次第でわたしを追い回すことになる。言ってしまえば刺客ですよ。
「あらぁ、エラルドくん、恥ずかしいのかな~?」
おや?随分としおらしいね?
わたしの知ってるエラルドはもっとグイグイくるタイプだし、初対面の相手でもこんな反応することなんてことはないと思うんだけど…
待って、もしかしたら今のエラルドはまともなのでは?
ゲームのシナリオでは明かされていないけど、もしかしたら少年エラルドの癖を歪ませる、何らかの出来事があったのでは?
もし、わたしがソレを未然に防ぐことができたら?
ママの病気と同じくシナリオに抗う理由になるんじゃないかしら…
だったらまずは行動しなくちゃね!!
「
「すごいわ~、アレクシアちゃんお喋り上手ね~、エラルドはまだ上手にできなくって」
確かに、わたしたちはそろそろ二語くらいなら話してもおかしくない時期だ。
単語も話さないってことはやっぱり恥ずかしがり屋な性格のせいかしら?
とにかく、ここはわたしがリードしなくては。
君がノーマルな男の子に成長できるように導いてあげるわ、お姉さんに任せなさい。
「アレクシアちゃん、えらいわ~、エラルドくんと仲良くね!」
了解だよママ、エラルドはわたしに任せてママトークしてて良いわよ。
まだ赤ちゃんだからぺちゃっ鼻だけど、つり気味目も綺麗な二重。
成長した姿を知らない人でも将来イケメンになるって思う顔ね。
ふむ…こうして見ると赤ちゃんエラルドって中々可愛いじゃない。
わたし、一人っ子だから弟ができた気分だわ。
「あう~あ~」
あら、小枝なんて振り回しちゃって。恥ずかしがってても男の子って感じね。
うーん、こんな無垢な子がどうしてあんなになるのかしら、高等学院入学時には既に開花していたし、だとしたら初等学院で何かが起こったって考えるのが妥当よね。
それなら、このまま幼馴染として近くにいた方が良いのかも、
ママの病気の時にも助けになってくれるかもしれないわ。
「あ~」
しまった!考えることに夢中でエラルドから注意が外れていた。
このままだとベンチの脚にぶつかってしまう…危ない!
――ゴンッ
間に合わなかったわ…しかも不可抗力だけど、手が届かなくて、結果エラルドを少し押してしまった、大丈夫かしら…?
「エラルドくん大丈夫!? あら、泣かないのね、強い子だわ~」
良かった、無事なのね。
――!!?
エ、エラルド…何よその
ベンチにぶつかった赤ちゃんはそんなニチャついた笑顔をしないわ…
あなた、まさか…
「あう~(悦)」
「
わたしは渾身の力で叫んだ、しかしこの気持ちは誰にも届くことはないだろう。
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