ゼットの進撃

 「うむ。話はわかった。ふたりともご苦労だった。下がって休んでなさい」

 はい、ケンジ、ショウは城に戻りカロイと合流してアラン王へ今回の一件の報告を行った。

 3人が王室から出ていくとアラン王は頭を抱えた。横にいたビアンカがそっと手を王の肩に添える。

 「あのガン・オードリー将軍を一撃で倒すエックス。そして、ゼットという新たな敵。話を聞く限り実力はエックスと同等か・・・・・・」

 「あなた・・・・・・」



 「第一師団は、しばらく将軍不在のまま各小隊の隊長が協力して防衛していくことになりました」

 ケンジ、ショウが早足に廊下を歩くのにやっとこさ追いついていたカロイが話してくれた。

 ショウが足を止めた。

 つられて、ケンジとカロイも足を止める。

 「ケンジ」

 「えっ、何?」

 「あなた、ゼットが現れた時おかしくなかった?何かあるの?隠してるなら白状しなさい」

 「おかしいって?」

 「シラを切るのね。あなたエックスと戦う時は勢いよくかかっていったじゃない。なのにゼットが現れてからは、ただ立ってるだけで力も抜けて、それに顔だって真っ白になってたじゃない。ちがう?」

 「・・・・・・、そんな事はないよ」

 「確かに一目でやばい敵っていうのはわかったわよ。腰が引けるのもわかる。でもそれはエックスも一緒。エックスは、確かにオードリーとの戦いで消耗していたけど、根底にある力は変わらない。強力で強大だったのは、あなたも分かっていたでしょう?同じような敵が現れたからってあそこまでになるかしら?」

 「・・・・・・」

 「ショウ様、まあまあ少し落ち着いて」

 「いい!あの時はすでに大体の敵は退却していたの。わたしだって、エックスだろうがゼットだろうが相手に出来たのよ!」

 ショウの声がだんだん感情的に大きくなる。

 ケンジにはショウの怒りの原因がだんだん分かってきた。要は頼って欲しかったのだ。ふたりで協力して戦いたかったのだ。

 顔の形は完全に兄なのに、最近はすっかり見慣れてしまい。なにも感じなくなった。この世界に馴染みすぎて、以前にいた世界の記憶が薄くなってきているのも事実だ。だから、ゼットというヘルバトラーを見た時、底知れぬ恐怖を感じた。この世界に移る直前まで自分の部屋でドラクエをやっていて、ヘルバトラーを捕まえる為にミレニアムな年越しを行なっていた事。色褪せた記憶が彩りを取り戻した。



 その後魔物からの大きな侵攻は起こらず、アイ王国は傷ついた第一師団をはじめ国の防衛力の立て直しを行なった。師団長には、第4師団ベガルードの副将ヤン・カナイが就くことになった。

 元々ガン・オードリーとヤン・カナイは、同じ時期にベガルードの元で厳しい修行を積んだ仲で、実力も折り紙付きだ。


 2ヶ月が過ぎた頃、アイ王国それから周りの国々を震撼させる急報が届いた。大国のバビオン帝国が僅か2日のうちに、魔物達によって滅ぼされたというのだ。

 バビオン帝国といえば、アイ王国と並ぶ一大国家で、この大陸の内陸に位置し膨大な領地を誇り資源は限りなく豊富でそこに住む民は豊かな生活をおくっており、軍事力の面でも強固な軍隊を有し、資源力から武器防具の類の質は全土の中でも随一だった。

 そんな大国がわずか2日で滅ぼされてしまうなんて事は現実的には考えられないが・・・・・・。


 領民に不安が走り、国王をはじめ国防の見直しが行われることとなり、同時に周辺国との共同防衛も進めざるを得なくなった。

 国内が慌ただしくなっている中、この件に関して、続報が入った。


 「では、今回バビオンを襲ったのはゼットで間違いないんだな・・・・・・」

 「はい、なんとか難を逃れた兵の証言から間違えありません」

 「ゼット・・・・・・、得体の知れないやつだが、実力は間違えなくエックスと同等かそれ以上。厄介なやつが現れたもんだ」

 「生き残った者の話ですと、バビオン上空に突如として現れ口から豪炎を吐くとあたり一面が火の海に。片腕を振り下ろすと爆風が起こり、家から倉庫からなんでも吹き飛ばしてしまうそうで、ゼットただ一体に帝国は半壊され、そこに魔物の大群が押し寄せ、わずか2日でバビオン帝国が滅ぼされてしまったそうです」

 「バビオン王は、無事なのか?」

 「はい。王都からは脱出に成功しており、生き残った民と山岳部に逃れ、帝国全土の兵を集めているもようです」

 「そうか・・・・・・。王が生きていればまだ希望はある。バビオン王の元に使いを出せ、我々に出来ることがあれば何でも力になると伝えるのだ」

 「ハッ、承知しました」

 「このままでは、後手を踏んでしまう。もう一度近隣諸国に使いを出して早急に会議を開くように進めるのだ。強引にでも構わない、返事をその場でもらってくるのだ」



 一方、バビオン帝国跡地。旧バビオン城玉座の間。

 

 「ゼット様、ゼット様ー」

 「なんだ?」

 「大魔王様の使いが来ましたー」

 「・・・・・・分かった、ここに通せ」

 「はいー」

 ズズズズズー。

 廊下から何やら重りを引きずるような音が聞こえる。

 「ごくろうだったなゼット」

 頭までドス黒いボロボロの厚手の布に覆われた魔物が一体ゆっくりゼットに近づいてきた。

 「・・・・・・」

 「なにを警戒してるんだ。今日はネオバーン様の使いとしてきただけぞ」

 「・・・・・・ああ」

 「此度の手際の良さには、大魔王様も喜ばれておったよ」

 「それは、それは・・・・・・、で、わざわざその事だけを伝えるために?」

 「新参者が、十指のわしに随分な態度をとるじゃないか・・・・・・ええぇ?」

 カタカタカタカタカタカタ。

 ガタガタガタガタガタガタ。

 玉座の間が大きく揺れた。


 「ミストポーン様、困りますよ。せっかく手に入れた私の城なんですーー」

 ゼットの右目が不気味な光を帯びて、ミストバーンを睨みつける。

 玉座の間の窓ガラスは、クラッカーのように端から一斉に砕け飛び、灯りは消えて、空気が極端に圧縮された。


 ミストポーンは、床にツバを吐いた。

 「態度はどんどん大きくなるがな、調子にのっていられるのは今だけだぞ」

 ミストポーンは、もう一度床にツバを吐いた。

 「わしだけじゃない、他の十指も貴様の・・・・・・、貴様らの態度には嫌気がさしてるんだ。そのあたり分かっておるのだろうー?」

 「・・・・・・、わたしは大魔王様の望むとおり事を進めているだけの事。あなた方に文句を言われる筋合いはないですがね」

 「くっくっくっ。ネオバーン様からちょっと贔屓を受けているだけで調子にのって」

 ミストポーンは、ゼットに背を向けてまたゆっくり歩き出した。

 「一月後、ネオバーン様自ら先頭にたってアイ王国に攻め入る。ゼット貴様も全兵力をもって戦いに参加しろとの事だ。詳細は追って連絡するー」

 そういうとミストポーンの後ろ姿がスゥーと薄く消えていった。


 「・・・・・・大魔王様自ら」

 ゼットは右目を閉じて、眉間に大きな皺を寄せた。

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転生して勇者ケンジになりました。 大造 @IRODORInoSATO

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