#07 殺戮の王
「クソ、またか」
いつかの昔の、どこかの国の戦場。
死体の山の上に、一人の男が立っている。
彼が事実として行ったことではあるが、しかし彼は、ただ単なる悪行としてこれを行ったのではない。
彼は悪魔である。
しかし世界を保つという意味では、彼は天使に近い存在だった。
ありとあらゆるバランスが崩れると、世界をつなぎ止めるものはどんどん弱っていく。
その中で彼は、人の命のバランスをとる使命を受けていた。
生まれてくる命と、去っていく命。
そのバランスである。
仕事は十分に果たしたはずである。
しかし———どこか彼の顔は不機嫌であった。
すると、男が彼に向かって歩いてきた。
コートを着込んで、髪はボサボサで顔を隠すほど長く、足取りは重々しい。
何者かわからないようにしているようだ。
「お前は……グラシャ=ラボラス」
「……」
男———グラシャ=ラボラスは何も発さなかった。
まるで必要がないように。
「———わかるぞ、お前が何を言いたいか。俺が三千人殺せと言われた中で、三千四人殺したことについてだろう?」
「……」
頷いたように見えた。
「別に端数だ。大してバランスにも関わらねぇ。それに俺は義務がある」
「……?」
首を傾げたように見えた。
「俺は天から遣わされ人々を殺める存在として、慈悲を持たなければならない!いかに苦しまず楽にしてやれるか、それを求め続けなければならない!そのためには数がいるんだよ!」
「……」
怒っているように感じられた。
「……じゃあやってみろグラシャ=ラボラス、お前の力で止めてみろ!」
「……!」
その瞬間———
———彼は闇に包まれた。
「うわぁっ!」
その悪魔は、見覚えのない景色の中、目を覚ました。
あたりは謎の配線で囲まれている。
それに周りに散らばって倒れているのは、仲間のように思えた。
「……おい、おい!……バアル!どういうことだ!」
彼は知る限り最も高位の者を見つけ、揺さぶって起こそうとした。
その者は、かなり疲れている様子で目を覚ました。具体的には目が開ききっておらず、さらには真っ赤だった。
「せ、世界は元に戻ったのか」
すると周りの仲間たちも起き始めた。
「「「「やったー!」」」」
「……バアル、フォカロル、レラジェ、ブネ、グレモリー……何があったんだ?何が起こったんだ?」
「ビフロンス!……まさかとは思うけど、多分グラシャ=ラボラスでしょうね」
グレモリーが、弱々しく声を発した。
「グラシャ=ラボラスだと⁈」
彼は声を荒げた。
そのくらいには、彼にとって大きな存在だったのだ。
「今、この世界にいるのか」
「あぁいるが、なんだ、こんな状態で、使命を果たしにいくのか」
「決まってるだろ、勝負だよ」
「そうか、まぁ行ってみるといい」
「なんだその悲しげな目は……」
「殺しはするなよ」
「わかったよ」
彼は部屋から出ていった。
ある種勇ましい足取りで。
《前回までのあらすじ》
・安藤の超奥義『血のパライソ』によりなんとか世界は元の姿を保つことができた。しかし、彼はそれにより恐ろしく消耗してしまっていた……!
「う、うぅ……」
安藤はベッドに横たわっている。
しかし、そこは真っ白な病棟のベッドであり、実際彼は点滴も打たれていた。
かつての能天気さが滲み出る見た目はどこにいったのか、彼はやつれ、ミイラと言っても過言ではない姿になっていた。
「安藤、しっかりしろ、私がついてる」
相川は真剣な声で彼を励ます。
彼女にはある種の罪悪感と、純粋に彼のことを一人の人間として、思う心があったのだ。
「安藤さん……」
「ダンタリオンか……」
ダンタリオンに普段のある種の強引さはない。
彼が、全てひとりで行ったことだったのだから……。
「死にはしません。が、安藤さんは数年は意識を失う羽目に……」
「安いもんさ。世界を救うお釣りならな」
「う、うぅぅぅ、あ、あんどぉぉぉ!」
相川はすがるように大粒の涙を流して、彼にへたれこむ。
「死なねぇんだ、またいつか会えるさ」
「お前の時間は戻らないんだぞ!」
「大したことに使わねぇんだ、有効活用したと考えるべきさ」
「……馬鹿!」
(な、何が起こっているんだ⁈)
開いているドアの影から、ビフロンスは驚いた顔つきで状況を眺めていた。
もはやよくわからないことになっている。というか、自分があれだけ因縁があるのだから来るというのに、なんだこの状態は⁈としか思えなかった。
「……おい!」
仕方がないのでずかずか入り込んで彼を揺らす。
「あ、悪魔!」
「ビフロンス!」
「死ぬな!死ぬな!頼む!マジで!」
流石に表情に先ほどの血気はなかった。もはや頼むから起きてくれという懇願のみである。
「誰だ……あんた……白髪マッシュの引きこもりボーイ……やっぱ知らん」
「ビフロンス!あんたの因縁の悪魔!」
「中の人に聞かなきゃな……」
「お前は誰だ!」
「安藤春樹」
「そうか……いやそんなことどうでもいい!生きろ!序盤の俺のあれなんだったんだよ!」
「序盤……?」
「もういいよ……頼むよ……生きててくれよ……」
「よくわかんないけど、すまない……帰ってくれ……」
「……このまま死なすものか……!」
ビフロンスは、相川に手をかざした。
すると相川は、まるで魂が抜けたかのように、そこにへたり込んだ。
「相川……なんだ、冷たいぞ?」
「仮死状態……って言ったらわかりやすいかもな、死ぬ一歩手前さ。こうなりゃあ、あんたもどうしょうもないだろ?ククク、ヒャーハハハ!」
なんか焦ってる笑い方だった。
多分どうしょうもないのは彼の方である。
「……死を司る悪魔……相変わらず悪趣味ですね」
「俺はそいつと決着をつけたいだけさ」
そう言いながら病室から口笛を吹きながら去っていく。
(頼む、頼むから恨んでくれよ……!)
祈りを捧げながら。
「ふ、ふ、ふざけんなぁ!」
何故だか安藤は立ち上がった!
「わ、わぁ……」
ダンタリオンは驚愕する。
肉体は元通りになり……なぜか局部は激しく勃起していたからだ。
「ひでぇ性癖……」
「相川……」
安藤はベッドにへたれこんだ相川の、顔にかかる髪をのける。
「お前は、俺が絶対治すからな……!」
「ギンギンで言っても説得力ないですよ!」
そのままダンタリオンの探索により、墓地にまで移動した!
「よぉグラシャ=ラボラス、お前とこうやって決着をつける日が来たことが嬉しくて仕方ないぜ!」
そう墓跡に座るビフロンスが言う。
安藤は真剣な面持ちで近づく。
「お前……アレどうやった?」
「「……え?」」
流石に悪魔たちは沈黙した。
外道すぎたからか。
「教えてくれんなら見逃すぞ」
久しぶりに復活したからか、目つきもなんだかキマっているように見える。性欲が久しぶりに現れて、身体が過剰反応しているのかもしれない。
「「なんでそうなる⁈」」
「ビフロンス!しっかり悪役やってください!」
「く、くくく、悪趣味なヤローだぜ」
「ああ!」
「こいつ無敵か⁈」
「ほら、来いよ。言わないならお前との勝負に勝って聞くまでだ」
「あ、あぁ……やってやるよ!」
そうすると、ビフロンスは地面から何かを呼び寄せ始めた。
「あ、あれは、ゾンビか⁈」
「気をつけてください!」
そして———そこにいたのは———。
「ウ、ウウ、ウウウ……」
バケツに顔が完全にはまってしまった、デブのゾンビだった。
「……これは?」
「見ての通り、バケツに顔がはまってしまったがために、そのまんま頭を打って死んだ男のゾンビだ」
「なんでこんな間抜けなやつと」
「これは勝負だ!お前も『殺戮の王』とも呼ばれるほどには殺しのプロだ!俺が出す死体を、さて、どう再び殺す?」
「なるほど……」
「めんどくさい戦いですね……」
安藤は考える———この状態で殺すには、どれが一番得策か———。
バラバラなものしか浮かばない。
これらをうまく繋げなければ———完全に葬ってやることは不可能だろう。
しかし彼には———性欲があった!
安藤は瞬時にそのゾンビのもとに移動する。
そしてバケツを手に持ち……バケツを使って首を抉った!
バケツの中に首が見事に収まって、首チョンパされた状態になった。
「これ……母さんです」
「やめなさいよ」
「やるな!次はこうだ!」
次に地面から現れたのは、尻にコードが刺さったまま、ガタガタ震える男のゾンビであった。
「男ばっかじゃないか」
((そりゃそうだろ))
二人の意識のリンクは続く。
「有線バイブを超電力で使おうとして、強力なバッテリーを使ったらバイブが取れ、コードから電気が尻に直接流れて死んだ男のゾンビだ。再び電気では死なない……さてどうする?」
安藤はコードをスルスルと尻の先に押し込んでいく。
通常なら詰まって終わりそうであるが……何故だか可能になっていた。
(さすがは殺戮の王……指の使い方、力の入れ方、人間の体内の構造まで理解しきっている)
ビフロンスは素直に感心していた。
そしてコードは遂に口から外に出てきた。
すると安藤は、どこからか巨大なバッテリーを持ってきて、繋げて、電気を流した!
瞬間、そのゾンビの眼前で雷のような轟音と極光が起こる!
そのすぐ後……ゾンビはそこにだらしなく倒れていた。
「音と光で、ショック死を起こしたってのか」
「次はなんだ?女か?」
「貴方おかしいですよ⁈」
「クソッ!」
そしてまた地面からやってくる———。
着物姿の、あぐらをかいて手を抑える、老婆のゾンビがそこにいた。
「修行僧と共に修行し、ありとあらゆる苦しみに耐性を持って、あの姿勢のまま死んだ伝説の老婆だ……さぁどうする」
安藤は数秒考えると移動し———
———下部を脱がし、秘孔に手をかけた。
「ウッ⁈」
「安心しろ婆さん、俺が気持ちよく逝かせてやるからよ」
なんかもう形容し難い指の動きが、秘孔の上で巻き起こる!
「ウッ、ウッ、ウアァ」
「そうだよなぁ婆さん。苦しいことに耐えてたけど、気持ちいいことの耐性なんかつけようがねぇもんな。人だもんしょうがねぇよ」
「ウ、ウ、ウゥーーー!」
そして数分後……。
安らかに逝った老婆のゾンビがそこにいた。
(……老婆をテクノブレイクさせたって言うのか……⁈グラシャ=ラボラス……お前はどこまで殺める術を知っているんだ!)
「クソッ、クソッ……」
震えるビフロンス。
「いやぁ、ババアだって馬鹿にしてたさ?いやね、味わい深くって感動したァ……」
「ブレンパワードやめて」
「……お前に先を越されちゃあ!死の王たる俺はどうすりゃいいんだ!」
「セックスでもしてろよ」
「ひでー解答」
「常に最も楽で、速い死を求め続けてきた……なのに全てお前に先をいかれ、さらにお前は悪魔の鎮圧にしか動かないときた!同業でもないのに俺より上?惨めだよなぁ!」
「misery」
「みじめですね」
「……俺は、お前を超えてみせる」
するとビフロンスの周囲に、黒い煙が漂い始める。
「……これはまさか!」
「オナラ?」
「神秘圧縮!!!」
「なんだいそれ」
「奥の手の中の、奥の手です」
「我は冷血———」
ビフロンスは、何かを唱え始めた。
「這いずる道に 熱はなし
世界はゆえに 白き園
我のこの痩せた指先も あるべき場所は遠からじ
ああ 民は踊り狂う
それは救い 冷たき抱擁
我は立つ 祈る姿勢で 羅針となりて
故に 死はあり 我にあり
我を称えよ 死の
黒い煙がビフロンスに収束し、そしてそのままドームのような形になって、煙とは思えはないほど堅そうに凝縮した。
「気をつけてください」
「やってみるまでさ」
そして———。
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