#02 きゃあ 悪魔ごろし
《前回までのあらすじ》
・ホストじゃない。
「そこ違う!点を打つのはその後ろ!」
「あ、すんません」
今日は土曜日である。
そのためプログラミングの勉強を続けていたのだが、何故だかダンタリオンはプログラミングに詳しかった。
「私たちの身体をなぞるようなものです」
「俺たちがマッサージするみたいなもんか」
「そうなります」
(打てるようになったら、こいつ好きにできたりすんのかな……)
そんなことを考えている安藤だった。
そんな時。
「ムッ!」
ダンタリオンがその二つの触覚を逆立てて甲高い声を上げた!
「なんだなんだ」
「……悪魔が今、インストールされました」
「……何から?」
「名はバアル。私とグラシャ=ラボラスと同じ、自立して動ける悪魔の最後の一人」
「諸悪の根源?」
「まぁ近いかもですね。悪魔のとこ行きますよ、備えておいてください」
「毛布探さなきゃ……」
「貴方そういう癖なんですか」
一方その頃同時刻、あるビルの最上階にその存在はいた。
大体が華やかな装飾で彩られている中、その部屋だけは異質であった。
パソコンが何台もあり、さらにそれらをつなぐコードは剥き出しで、ますます一種の不気味さを増していた。
そこに佇む、紺色のスーツに身を纏う、オールバックの男性。
そこにいる彼自体は新庄孝敏というやり手の実業家にしてビルの持ち主である。問題は……。
「まさかマルコシアスが早くも沈静化されたとはな」
彼がバアルであることである。
「しかし大いなる意志は私にあと六体もお渡しになった……さてどうしたものか」
彼の目の前には眠っている女性がいた。
この会社の社員の一人で、名前は山川、そう彼は記憶していた。
プロポーションがよく低身長で顔も悪くないためか、男性社員からの人気が高い。
しかし彼女には気だるげなバンドマンと同棲しているとかなんとかそんな噂が立っている。
彼には心底どうでもいい話であった。
とにかく彼女には今から依代となってもらわねばならないのだ……わざわざ社長室に呼んで、催眠術をかけて。
バアルが右手を彼女の額にかざすと、山川が痙攣し始めた。
「う、うぅ、うぅっ」
うめき声を上げながら、焦点の合わない目が開かれる。そのまま数分経ったのち、先ほどの暴れ具合が嘘かのように元気に立ち上がった。
しかし顔つきは先ほどよりも、元気のなさそうな、血色の悪い感じになってしまっていた。
「バアルさん……ですね」
「あぁそうだフォカロル。何故呼び出されたかはわかるだろう」
「……仕事ですか」
「わかったなら行け」
「……なにか変ではないですか」
「何がだ」
「いや、どうにもわたくしは、ここにいるべきではない気がします」
「思い違いだ。行け」
フォカロルは釈然としない面持ちで部屋を出ていった。
「どいつもこいつも、何故大いなる意志を疑うのだ……」
最も初めに作られた悪魔、バアル。
彼には疑いを抱く心すら、持ち合わせることはなかった。
「悪魔の反応はこの辺りから致しますね」
「こんなビル街に?」
彼らはビル街の中にポツンと存在する、休憩用の広場の円形のベンチに座っていた。
彼らといってもまぁ安藤一人なのだが。
円形のベンチは思ったよりも大きく、さまざまな人が見られた。カップル。酔っ払い。なんか一匹でいるでかい犬。
「なんだか昼寝しなきゃいけない空気が流れている」
「なんですかそれ」
「コケッ」
「そう言って寝る人初めてみた」
するとその瞬間、目の前に立っていたおばあさんが吹っ飛んで行った。
「んが?」
「すごい敏感な反応」
さらにさらに矢継ぎ早に風は強くなっていく。さまざまなものがどんどん飛んでいく。恐ろしいことである。
「な、なんだこりゃ!今度は風か!」
「ええ。彼女の名は———」
「フォカロル」
「うっはぁ」
目の前に現れたのは、スーツを胸元ではだけさせ、さらに長い髪の毛をワックスで固めた、血色の悪い女性だった。
「新手の痴女かな」
「あれがフォカロルです」
「あんたそんなカッコ似合わないよ」
「体が誰であろうと、自分のしたい格好をする。それが悪魔として、正しい生き方のはずだと思いますが」
「はぁ……なんともカッコいい理論、もういい俺の負けだ」
「アホ」
「……グラシャ=ラボラスに、ダンタリオンですか。動いているのを見るのは初めてです」
「俺小指曲がるんすよ」
「どうでもいいから」
「……あなた方が出ているということはわたくしを沈静化するのが目的と見た」
「ええそうよ」
「大人しくしろ」
「しかしわたくしは面倒なことに仕事を押し付けられましたので、ある程度働いて逃げたいと申し上げるのですが、いかがでしょう?」
「どうしよう」
「山に行きなさいよ。あんたはそれで植物の異常発達を抑えるのが仕事でしょう」
「最近は自然が減ってるもので。こんな今時に何故呼ばれたのか、わたくしもわかりかねているのです」
「やっぱりおかしいですよ」
「わたくしもそう思います」
「妥協してください」
「それは不可能です」
「じゃあやるしかないんじゃないのか!これ!」
安藤が声を上げた。
「……それがあなた方にとっての妥協でしょう?」
「そうなるな……行くぜ!」
安藤が一歩を踏み出す!
フォカロルが突風を起こす!
その時。
———ぶすり、と。
何者かがフォカロルの背後に現れ、日本刀で彼女の腹部を、刺し貫いた。
「「わ、ワァ……」」
二人は情けない声を上げるしかなかった。
フォカロルは、口から血を吹き、弱々しくよろめく。
「……誰だ……いや……まさか……!」
そして、肩から倒れ込んだ。
その背後にいたものは……。
「……」
綺麗な真っ赤なロングヘアーをしている。全身から何やら研ぎ澄まされた美しさを見せる。目は恐ろしく吊り上がっているものの、瞳は大きく、そして透き通っている。鼻は綺麗な一本のラインを描き、唇は真っ赤に燃え盛っているようだ。全身のその雪のような白さは、それらをより、近寄りがたい、刃物のような存在だと彼女のことを示していた。
「……てめー!なにしてんダァ!」
安藤がとりあえず激昂を飛ばす!
しかし内股気味だった!
「小物感を隠せてませんよ」
そんな彼女もスマホをガタガタ震わせていた!
「……お前も、悪魔か」
彼女が口を開く?
低く、抑揚のない声だった。
「……なんでそんなことを聞く?」
「悪魔は皆殺す。人間に害をなす存在だ」
「どうしてそんなことするんだ!」
「決まっているだろう———」
「———私を、乗っ取ろうとしたからだ」
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