悪魔憑きのオーバーロード

乱痴気ベッドマシン

#01 悪魔は俺だ!

 「さてと」

 安藤春樹はそんなに頭が良くない。

 しかし自分の将来が不安がられることはしっかりと理解していた。

 そのため彼はプログラミングを学ぶことにした……もっと大事なことがあるだろうに。

 学校が終われば貯金を崩し、教材を書店で揃え、両親が使わなくなったパソコンを机に置き、そしてさぁと伸びをしてプログラミングに臨む。

 段々とそれっぽい文字列が構成されていく。口角も段々上がっていく。

 が、それらは大体プログラミング的には間違っていた。

 まぁそんなことはどうでもよかったのだ。

 これから起こることに比べれば。


 その瞬間は突然だった。


 「うわぁっ!」

 彼の書いた間違いだらけの文字列が、突然増殖を始めたのだ。

 別に彼は何もしていない。文字列の色を赤に変更もしていない。

 しかし増殖は依然として止まらない。

 彼は怖くなってキーボードから離そうとするも、何故だか指はくっついたままだ。

 「どういうことだよっ……幽霊か⁈」

 

 その彼のかすっているようなことに反応するように……、電流が春樹に走る。


 「あががががが」


 おそらく罰ゲームに使われる程度の強さはあるのだろう。彼の眼は潤んでいた。

 しかし罰ゲームよりもタチが悪い、数分経っても止まる気配もなく、さらに動けない状態なのだ。一種の拷問と言ってよろしい。


 そしてその内、ぴたっと止まる。


 「……壊すしかないのかな……」


 その目つきには明確な殺意が宿っていた。


 「……ん?」

 既にプログラムは何故だかいつのまにか消えていた。

 「……消えたのか、それともハッキングか……?」


 「貴方の中に入ったんですよ」


 「誰?誰なの?怖いヨォ!」


 するとスマホから声が発せられた。

 画面を見てみると、妙な少女が悲しい目つきで彼を見つめていた。

 ローブのようなものを着込み、髪は真っ赤なものをツインテールにまとめていた。

 普通の少女のように見えるが、目が虹色に輝いていた。光の影響を画面の中で受けられるのだろうか?

 「グラシャ=ラボラスにしては判定が不安ですね」

 「なんだ!お前!Vtuber?」

 「冷静なのか焦ってんのかどっちなんですか」

 「ちんちんは勃った」

 「どっちやねん」

 「とにかくなんだ!グラシャ=ラボラスって!あんたも誰!」

 「私の名前はダンタリオン。悪魔ですよ」

 「あくま?」

 「そう!この世の理から分離させられた、存在悪のデータ!それが私たちです」

 「へー、わかんね」

 「わかんなくてよろしい。使命の上では」

 「指名?」

 「ホストじゃない」

 「グラシャ=ラボラスってなんだよ」

 「貴方の中に入った悪魔のことです。本来なら乗っ取ってるのですが、彼は変わり者なんでね」

 「ゑ?」

 「さっきプログラムみたいなのが出たでしょう、あれが悪魔です」

 「まじで?」

 「貴方が間違えまくったから到達しちゃったんですよ!そんで彼も何故だか入っちゃうし」

 「へー」

 「落ち着くの早いな」

 「俺はどうなるんだ」

 「簡単な話。グラシャ=ラボラスをその身に宿したからには、貴方は悪魔を沈静しに向かわねばなりません」

 「なんでだよ!」

 「今ですね、悪魔が大量に人にばら撒かれているんです」

 「何があかんとや」

 「通常一年に一体派遣されるのが八体ですよ八体!どうしようもないでしょう!」

 「なんで悪魔派遣すんのさ」

 「この世界は善と悪、男と女、水と油というように相反するものの反発をエネルギーとして成り立ってるんです。その中で、時々世界にどちらかに傾いているところが発生します。そこをどうにかしてもらうのが悪魔です」

 「善になれんのけ」

 「中立よりの絶対悪なので」

 「清楚なAV女優みたいだ」

 「そして!悪魔が現れすぎると確実にバランスがおかしい!グラシャ=ラボラスはそんな事態を専門にして動く悪魔!暴れるであろう悪魔たちを沈静化して、この世界を落ち着かせるのです!」

 「それ俺の仕事?」

 「イエス」

 「うわーん」


 「キャー!」


 「なんだ外から悲鳴が」

 「この反応……悪魔です!行きなさい!制しなさい!」

 「そんなもんかね」


 「グフフ……」

 家の外に出てみると、怪しげな目つきをした中年男性が、周囲の鉄を引っぺがしていた。

 特にTikTokを撮る女子高生たちのスマホがどんどん引っ剥がされていく!なんか恨みがあるのだろうか。

 「なんだただの人か……帰ろ」

 「あれが便宜上の悪魔です!」

 「どゆこと」

 「悪魔は貴方みたいに、人間にインストールされないと動けません。そして相手を心身共に乗っ取って、使命を果たすため動くのです!」

 「俺は?」

 「グラシャ=ラボラスは大体憑依先の人間に任せる悪癖があるんです!」

 「期待されてる?」

 「知るか!行け!」

 「冷たい……」


 「おいあんた!なにやってんでい!」

 「その纏う力……グラシャ=ラボラスか。見るのは何年振りかな」

 「あんた名前は?」

 「……そうかそうかそういう癖があったあった。俺の名前はマルコシアス。まぁこんな風なことを司ってるもんだ」

 するとスマホが震えたので、ダンタリオンを彼に安藤は向けた。

 「マルコシアス!……なんかこう、大人しくしなさい!」

 「なんでそんなアバウトなんだよ」

 「初めてだもん こんなこと」

 「はっはっは」

 マルコシアスは愉快そうに笑った。

 「そうだもんなそうだもんなぁ、こんな悪魔が派遣されたことねぇもんな!まぁ派遣された以上俺は俺の使命を果たすだけだ」

 「……大いなる意志のバグを疑わないんですか」

 「……もしものために、俺は動くだけだ」

 「……?」

 安藤はよくわかんなかった。

 「俺の使命は金属の整理!人間が早すぎるスピードで発展することへの停滞者!」

 「俺の使命はあんたを止めることだ」

 「俺の停滞者か」

 「そうなる」

 「止めきれるかな?」


 そうマルコシアスは微笑むと、空から鉄骨を浮かして呼び寄せ、それを安藤に飛ばし始めた。

 見事に安藤の頭に激突する!

 「ぎゃあ!……そんな痛くねぇ!」

 「グラシャ=ラボラスの力が、しっかり貴方には届いているんですよ!」

 「俺に能力はないの?」

 「自分で考えてください」

 「えぇ……?」


 「オラオラどんどんいくぜ!」


 「ねぇ待って待ってだんだん頭がでこぼこしてきたんだけど」

 「だから、考えたらわかるんですって!あいつを止めることを考えてください!」

 「え、あぁ、はい」


 安藤は考えてみる。

 するとどういうことだろうか、彼の頭の中に、止め方が無数に浮かんできた。どう身体を動かせばいいのかも。

 まるで幾万もの経験を得てきたかのようなようだった。


 「……そういうことか!わかったぜ!」


 すると安藤は高速で移動した!

 本人も一瞬意識が飛びそうになるほどであった。

 しかし一度動かした身体は止まらない。鉄骨を華麗に避け、そのままマルコシアスの眼前まで到達する!

 「これで終わりだ」

 そしてマルコシアスの首根っこを後ろから掴んで、うつ伏せになる形に取り押さえた!

 「ぐあぁっ」

 「さて、どうすりゃいいんだ」

 「空の上におられる主よ 我らの帰るべき住処へと 優しき眼で 導き給え」

 

 すると、なにやら神々しい光が———


 「で?」


 ———来なかった。


 「ど、どういうことこれ⁈大いなる意志!大いなる意志ー!」

 「……どうやら俺は帰れねぇみたいだな」

 「こいつどうすんのさ」

 「そもそも彼らは使命に従ってるだけです。存在としては天使に近いので。なのでこうして大いなる意志に返すのが基本なのですが———」

 「大いなる意志って誰?」

 「神みたいなもんです。悪魔を大体統括するシステムを持ってる」

 「それの反応がないってことは、なに?こいつ帰せないの?」

 「そうです」

 「まじーんじゃね」

 

 「……グラシャ=ラボラスの御力に免じて、俺はしばらく大人しくしておくとするよ」

「今の行為、ちゃんと『御業』は張りましたね?」

 「あーはいはい勿論勿論!誰がそんなことすんだよ!」

 「じゃあ、しっかり生活しなさいマルコシアス」

 「わかりましたわかりました、じゃあな、頑張れよグラシャ=ラボラス」

 「死にたい」

 「生きろ」


 そう言うとマルコシアスは手を振りながら帰っていった。


 「御業って?」

 「悪魔の所業を人々の記憶に残らなくするんです。そうしないと、宿り主がかわいそうでしょう」

 「あぁ……」

 「さて、安藤さんでしたっけ?」

 「なんでわかんでい」

 「貴方の記録が今、私の中に入りました」

 「どゆことね」

 「私はありとあらゆる悪魔のデータベースにして索敵機関……いわば悪魔に対する情報的トップです」

 「へー、なんとかなりそう?」

 「貴方次第ですね」

 「……頑張らなきゃだめかい」

 「ええ」

 夕焼けが落ちる。

 女子高生たちは使い捨てカメラで写真を撮っていた。

 

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