第15話 第1章完結

「お気持ちはありがたいんだけど……動けないの、私はここから。見えないだろうけど『鎖の封印』って厄介な呪い掛けられてて……だから動けるのはこの丘の周りだけ」


 フィロガーネは口に運ぶフォークを止め、しゅんとした。


 相変わらず俺の頭に直接フィロガーネの声で「さみしい」と叫び続けていた。


「その『鎖の封印』ってこれだろ?」


 俺は半透明の『鎖の封印』をじゃらりと持ち上げた。


「へっ⁉ な、何で見えてるの⁉ なんで触られるのって、なんで切ろうとしてるの? ムリだって!『鎖の封印』だよ? 私が火竜レッドドラゴンの時だってムリなんだから、ただの人のユウトに……き、切れたし! ど、どういう事なの⁉ その短剣になんか秘密があるの?」


 フィロガーネ。


 悪いけど竜狩りの装備を褒めてもロクなことはないから。


 俺はラピスの時同様、竜狩りの短剣でフィロガーネの足を縛る半透明の鎖をくだいた。薄っぺらい氷を割るよりも簡単だ。


【まぁ、私クラスになればこれくらいは、ねぇ?】


 相変わらず竜狩りの装備はここぞとばかりドヤるが、気分良さそうなので放っておこう。


「フィロガーネ。あのね、旦那様私の時も簡単に『鎖の封印』解いてくれたよ。それでね、大聖女様がラピスを討伐するか、服従させるかって。私は旦那様のお嫁さんにして貰うの! だから、服従したの! フィロガーネはどうするの?」



「結婚⁉」


「そう! ラピスはお嫁さんにしてもらうんだ! 大きくなったら! フィロガーネはどうするの? 一緒にお嫁さんになる? ねぇ、一緒に旦那様のお嫁さんになろうよぉ~~」


 ラピスがフィロガーネの手にしがみついて、腕をブンブン振り回す。お姉ちゃんに、なにかねだってる妹みたいだ。


 腕を振り回されてるフィロガーネも、懐かれてるのはまんざらでもないみたいで、少し顔がにやけていた。


 ラピスは不思議な娘だ。まわりを笑顔にする才能がある。あの大聖女でさえ、ラピスに対しては少し親切だ。


 かわいいと思いながらガマンしてるように見える。



「ひとりにしない? さみしい時、さみしいって言っていいの?」


「旦那様ね、優しいよ? 馬小屋で寝ないといけない時があって、手とか足が冷たくて凍りそうだったんだけど、温めてくれたよ? 寒いのに着てる服着せてくれたよ? 硬くて噛めないパンも噛んで食べさせてくれたし、ラピスがおっきくなっちゃっても新しい服、これ買ってくれたの! クツもほら! だから行こうよ~~楽しいよ! 旦那様~~フィロガーネにも優しくするでしょ?」


 俺はラピスにブルンブルンと体を揺らされた。


 いつまでも小っちゃいワケじゃないので力加減を覚えて欲しい。なんか軽く酔いそうだ。


 せっかくラピスが間を取りなしてくれようとしてるんだ。恥ずかしいけど言葉にしないと伝わらない。出会ったばかりなんだ。


「フィロガーネ『一緒に来ないか』『ひとりじゃ寂しいだろ』『仲よくしたい』『ひとりにしない』それに、さみしい時はさみしいって言っていい。3人でうまいもん食わないか?」


 フィロガーネはぽろぽろと涙を流した。


 俺は彼女の赤髪を撫でた。イイ感じにまとまりかけたハズなのだが、咳払いが聞こえた。ラピスではない。竜狩りの装備だ。



【主様。その……感動的な余韻よいんひたられてるところ大変恐縮ですが……主様が今、フィロガーネさまに言われた言葉………竜人族の女子的に要約しますと――熱烈な求婚ですが、よろしかったのですか? 簡単に言えば『もう君なしでは生きていけない』級の。なんだか聞いてる私が恥ずかしいほどでした‼】



 マジか……早く言えよ、使えないなぁ……


「行く。ついて行く、ユウト……じゃないや、ご主人様について行く‼ ラピス、よろしくね! ねぇ、ラピス。あなた第一の試練、水竜ブルードラゴンでしょ? 噂にしか聞いたことないんだけど、見せてくれない? あなたの水属性の魔法すごいんでしょ?」


「え? す、すごい⁉ ラピス、すごいの? 旦那様、やってみていい?」


「そうだなぁ……この辺は街道から外れてるし、荒野だから人もいないし。俺も見てみたい」


「見たい? 旦那様見たいの?」


「ズルい! ご主人様~~私の火属性魔法もすご過ぎなんだから! 見ててよ!」


「あっ、火事になったらマズいから先にラピス、それからフィロガーネな。最後一応ラピスで残り火がないか確認のために、いいか?」


「「わかった‼」」


「じゃあ、見ててね? 原始の水竜よ、その力を我に示せ!『水竜の裁きアクア・ジャッジメント』!」


 すると何処からともなく現れた水の粒子が束になり、ラピスの手の動きに従いうずを作り、小高い丘を押し流すかのような勢いで解き放たれた。


「なにこれ……ラピス。あなたすごいわねぇ……どれだけ水神様のご加護を受けてるのよ……私も負けてらんないわ! 見てて!」


 フィロガーネは体の前で小さく手を打ち、目を見開いた。


「生きとし生ける芽生えの火種。蝶のように舞い曇天の空にすべてを焼き尽くせ『紅蓮の業火クリムゾン・フレイム』!」


「すごい、すごい! 旦那様~~‼ フィロガーネ、すごいよ! あっ、でもたいへん! 木が燃えちゃう‼『水竜の裁きアクア・ジャッジメント』!」


 正直、上位竜の攻撃魔法を初めての当たりするが、水力、火力共に桁違けたちがいだ。


 考えてみたら大聖女も勇者一行も、フィロガーネを俺ひとりに討伐させようとしたもんだ。


 ラピスのことがあったので、最初から仲よくなろうとしてた。もし、調子に乗ってフィロガーネに有無を言わさず攻撃してたら、今頃……



(第二の竜の試練の地ボミュキュラート近郊)


 そんな胸をなでおろすユウトであったが、その頃二日酔いの勇者一行は――


「うわわわわ~~~~~~っ‼ なんだ、なんだ! この洪水は⁉」


「うひゃ~~~~~~⁉ よ、溶岩の波は⁉ 熱ッ‼」


「おぉ⁉ クソ、今度は激流が‼」


 ラピスとフィロガーネの上級魔法のお披露目に巻き込まれていた。


 ラピスの『水竜の裁きアクア・ジャッジメント』に流されながら叫んだ。


「「「全部竜狩りのユウトが悪い~~‼」」」


 勇者リピトール一行。


 完全なちょい役ながら、順調に逆恨みを重ねていった。


 □□□作者より□□□


 今回更新で第1章完結です。次更新は未定です。







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異世界でドラゴニュートとスローライフ。~~俺、ドラゴン相手なら無敵です。 アサガキタ @sazanami023

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