第13話 肉、食べるか?

「やっぱり今日もつまんない……ひとりは退屈」


 ここは第二の竜の試練の地ボミュキュラート。小高い丘の上で赤髪ツインテールの少女がため息をもらす。


 何を隠そう彼女こそが第二の竜の試練、火竜レッドドラゴン


 長く生きた竜の中には竜狩りの者の手を借りなくても、竜人族ドラゴニュートになるものもいる。彼女がそうだ。


おさぁ……誰も来ないんだけど。何十年待ってたらいいのよ〜〜しっかも、文句言いたくても、封印あったらここから出れないじゃない! なんかおいしいもん食べた〜〜い! 肉食べたい!」


 彼女の名前はフィロガーネ。


 火竜レッドドラゴン族のおさの娘。


 ここボミュキュラートは第二の試練の地と呼ばれる、魔王軍からすれば対勇者の要所。


 そんなこともあり、一族の長である彼女の父は、我が娘をこの地に配置したのだが、人族の中で起きた竜狩りの者への迫害で竜狩りは激減。


 それに伴い魔王遠征はここ数十年行われてなかった。


 そんな訳で勇者一行を待ち受けるも来るはずもなく、フィロガーネは退屈で孤独な日々を送っていた。


 そんな彼女の前に突如現れた者がいた。


「こんにちは」


「あっ……どうも」


 その男は腕に白の羊角を生やした青い髪の少女を抱っこしていた。三人の出会いはこんな感じだった。


 ではほんの少し、時を戻そう。


 ***


「ではなにか? 第二の試練の地の偵察に俺とのラピスだけで行けと? 勇者として恥ずかしくないのか?」


 相変わらず、口を開けばろくな事を言わない勇者パーティの面々。理由は簡単だ。


 第二の試練の地で決戦だと意気込み、大聖女の目を盗んで街に繰り出しどんちゃん騒ぎ。


 挙句の果てに二日酔いで身動きが取れない。大きな声出さないでと、泣き言を言う始末。


 この勇者パーティの連中は魔王討伐を町内会の温泉旅行と勘違いしてないか。


 あきれながらも、その言葉に従った振りをしたのには理由があった。


(今日もつまんない……ひとりは退屈……ひとりはイヤ……なんか美味しいもの食べた〜〜い 肉食べたい!)


 そんな声がこのボミュキュラートに近づくにつれ強くなる。


 ラピスの時と同じ、頭に直接話し掛けてくる感じの声。


 恐らく、いや間違いなく第二の試練の竜の心の叫びだ。


「ユウト。私も行きますよ。ここに残っても酒臭いだけですし……」


 大聖女は肩をすくめてあきれる。

 だけど、俺は理解していた。大聖女がいたら、まとまる話もまとまらない。


 彼女は聖職につきながら、なぜかなんでもかんでも腕力で解決したがる。


 第二の試練の打ち合わせの際も「とりあえず、ぶっ飛ばせばいいんじゃない」と平気に言う。


 誰なんだ。こんな物騒なヤツを大聖女なんかの要職に就かせたのは。


 俺の頭に温厚な教皇様の笑顔が浮かぶ。


 なので、話をそらすために、俺は大聖女にあるお願いをした。近くの街まで転移魔法でラピスと移動させてほしいと。



「ご存知でしょうけど、それで私の今日の魔力は尽きますが?」


「試練の地には歩いて戻るから。大聖女さまは日頃の疲れを街で癒やしててくれたら。どうせ今日は偵察だし」


「そう? なんか悪いわね……そんな気の利いたあなたに幸多からんことを」


 なんか大聖女さまっぽくお祈りしてくれた。考えてみたらこんな聖職者っぽい姿を見るのは初めてだ。


 俺達は大聖女の魔法陣で近くの街に戻り、大聖女とはそこで別れた。


「旦那様〜〜これからどうするの? 街で何かするの?」


「お昼ご飯の材料を買おうかと思ってる。ラピスは魚がいいよな?」


「うん! お魚好き! あとね、えっとね……」


「なんかお菓子も買おうか」


「うん! いいの? 旦那様? ラピスお菓子も好き〜〜」


 お菓子を想像したラピスはデレっとした顔をした。ちょっと成長したけど、子供は子供だ。


 食材を買い求めた。ラピスは魚。鳥肉と羊か何かの肉、香辛料とかも。ちょっとした料理をするつもりだ。


 それから、ラピスお待ちかねの焼き菓子を多めに。あと水も。そんな感じ。これから娘をキャンプにでも連れて行く気分だ。



「意外と近かったなぁ〜〜ちょうど昼時だ」


 街を出て小一時間程度で第二の試練の地ボミュキュラートの小高い丘に着いた。


 着くとさっそく例の頭に直接響く声がする。


(誰か来たみたい……話し掛けたら怖がらせるかなぁ……)


 そんな心の声がダダ漏れの赤髪ツインテールの少女。ラピスより少しお姉さんっぽい女の子とあいさつをした。



(フィロガーネ視点)


 この人族。会うといきなり「お腹すいでないか?」だって。そりゃ……すいてる。この辺りは草しかないし。もう長いこと肉を食べてない。


 大好物なのに……そしたら。


「肉。焼くけど一緒にどうだ? いっぱいあるぞ」


「肉……いっぱい」


 私は反射的に頷いた。それにしても私のこと怖くないのかしら。


「あなた……変わってるわね。竜狩りの者なんでしょ? なんで戦わないの? 私は第二の試練。火竜レッドドラゴンのフィロガーネ」


「俺はセト・ユウト。こっちはラピス。竜人族ドラゴニュート。元は水竜ブルードラゴンだ。今は俺と一緒にいるんだ」


竜人族ドラゴニュート……水竜ブルードラゴン?」


「うん! ラピス! よろしくね!」


「あっ、うんよろしく……」


 いや……別にいいんだけど、戦うのによろしくしていいの? いや、何より水竜ブルードラゴン


 竜狩りの者に懐き過ぎてない? ベタベタじゃない……でも、なんかちょっとだけうらやましいかも……


















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る