第2話【幼女の女神】

(この子はいったい……)


 僕の存在には気がつかない様子の子供は空に向かって両手をあげて気の抜けた口調で「あめあめあがれ、おひさまきらり〜」と歌いだした。


 次の瞬間、あれだけの雷が鳴るどんよりとした厚い雨雲が急に消えていき薄くなった雲の隙間から明るい太陽の光が差し込んでくる。


「は、晴れた。あれだけ土砂降りの雨が降っていたのに!?」


 あまりの天気の急変に驚いた僕は天を見上げながらそう叫んでいた。


「あーっ! に、人間がいるー!」


 僕の叫びに気づいた子供は今度は僕を指差しながらそう叫んで慌てて地上に降り立った。


「き、きみはいったい?」


 僕は目の前でおこった現象に頭がついていかずにそう問いかけることしか出来なかった。


「うー、みたわね。あなたは見てしまいましたね。見られたからにはあなたの記憶を消して……」


 涙目になりながらその子がなにやら物騒なワードを言いかけたとき『ぐぅ』とその子のお腹の音がなった。


「ぬぉっ!? これは違うのじゃ! わらわはお腹が空いて倒れていたわけでは決してないぞ。雷……雷に驚いて転んでただけの普通の人間なのじゃ、決して女神などではないぞ」


(うわっ この子、自分で女神って言っちゃってるよ。さっき僕が蹴り飛ばしたせいで頭を打って妄想の世界に浸ってるんじゃないだろうな。それとももともと天然系の思考の持ち主なのか?)


 僕はもともと神が現実に存在しているとは思っていなかったので目の前にいる幼い子供が女神と言われても信じることができなかった。


(だけど、いま浮いていたよな。あんなの手品でもなければ現実にあるはずがないし)


 僕は自分の中にある常識とたった今、目にした非現実的なことを天秤にかけて頭がこんがらがっていたが目の前にいる女の子のお腹が鳴ったことを思い出して思い切って話しかけてみた。


「女神とかどうとかは置いといて君はお腹がすいてるのかい? 残念ながらここはお店じゃなくて作物を育てるハウスの中だからあっても野菜ばかりしか無いんだけど」


「やさい……。やさいはあんまり好きではないのじゃ。特に青臭い匂いと苦味のあるものは苦手なのじゃよ」


「青臭いのが苦手ならそうだなこれならどうかな?」


 僕はそう言ってハウス内に栽培している真っ赤なイチゴを2つばかりもいで幼女に手渡した。


「これはなんじゃ?」


 幼女は受け取ったイチゴを眺めながら匂いを嗅いでみるがなんとなく甘い匂いがして僕に「食べてもよいのか?」と聞いてくる。


 僕は「どうぞ、手元の緑のヘタは食べないように」と言って笑いかけた。


「はむっ」


 幼女は大きめに品種改良されたイチゴをほおばるとたちまち目を輝かせて夢中にイチゴにかぶりついた。


「うまい! こんなものはじめてじゃよ。もっとないのかえ?」


 そんな幼女を僕は微笑ましく感じてもう数個イチゴを渡す。


「うほほっ。地上にはこのようなうまい食べ物が存在するのか。これは是非とも天界でも栽培できないか検討してみなければ……」


 イチゴをリスのように頬張りながら幼女がそうひとりごとをつぶやくが僕はそれには気が付かないふりをして嬉しそうにイチゴを食べるのを眺めていた。


「うむ。わらわは満足したぞよ」


 結局その幼女は子供の握りこぶし大のイチゴを10個ばかり食べきったあたりで満足してふわふわと空中に浮かびだした。


(あー、やっぱりこの子は人間じゃないのか。それか僕が夢をみているだけなのかもしれないけれど)


 僕がそんなことを考えていると幼女が急に光を放ちだして光がおさまると彼女の背中には真っ白な天使の羽が生えていた。


「わらわは大変満足したのでお礼に魔法を授けようと思う。どんなものでも良いとは言えんがおぬしの仕事を手助け出来るものが良いだろうと考えておるのでなんでも困ったことがあれば言ってみるとよいぞ」


 幼女は無い胸を張ってそう宣言をする。


「魔法……? それってなんでも出来るのか?」


「もちろん! と言いたいが魔法にも限界はあるぞ。たしかにあまり複雑なものは出来んが普通は人間にはつかえん魔法ものだから存分に味わうがよいぞ」


(ふむ。機械の上位バージョンってところかな?もし本当ならば手間でしょうがなかった除草作業や収穫作業があっという間に終わったりするんじゃないのか? ものは試しだ、頼んでみるとするかな)


 僕はそう考えてぷかぷか浮かぶ幼女にお願いしてみることにした。


 その結果がどうなるかなど全く考えもせずに……。

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