第177話 不安な想い

 私の肩に乗せられているリオンの手を振り払い、追いかけようとする。だが、リオンは私の腕を握り止めてくる。


 騒ぎになるか………。噂の確認したかったのになぁ。


「何されるか分からないんだ。下手に突っ込むな」

「まるで戦場にいるような言い方だなぁ」

「セレア様、舞踏会は戦場ですよ?お兄様の言う事も一理あるかと」


 社交界に強いリオンとリリアナが言ってるんだ。そうなのかも?

 舞踏会は戦場か……嫌味とか?うーむ。


「さっき騎士団の奴らに呼ばれてたんだった。変な事するなよ?」

「大丈夫だって、心配性なんだから」


 社交界は苦手なんだ。人と関わるのも、さほど好きじゃないし…。


 辺境伯になったんだ。舞踏会にも積極に参加した方が良いんだろうか。

 リリアナに任せっきりなのも申し訳無いし。


 そんな事を考えていると音楽が流れ始める。

 私はそれに反応して、リリアナに手を差し伸べる。


「一曲、願えますか?」

「勿論♡」


 初めてじゃないのに妙な緊張感がある。少しは成長したという事なのだろうか?


 リリアナの足を踏まないようステップを踏み、辺境伯の名に恥じないダンスを踊る。


 流石、王妃教育を受けていただけあるな。リリアナはどんなステップにも臨機応変に対応していた。


「緊張していますか?」

「ちょっとね。ドレスで踊ることなんか無かったからさ」

「可愛らしいですね♡でも緊張する必要はありませんよ?私が側についておりますから」

「頼もしいね。何だか情けないな」

「このステップが出来るだけでも凄いですよ?話す余裕があるだけでも素晴らしいので、そう落ち込まないで下さい。まぁ…そんな落ち込んでいる姿も可愛いので…」


 リリアナはニコニコと笑みを向けながらそう言った。

 背筋がゾワゾワしたぞ。


 最近過激になってきてない?隠すことをやめたと言うか何と言うか。

 溢れて出してると言うべきなのだろうか。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 舞踏会も終わり屋敷に戻って、ここからは私とセレア様の二人きりの時間♡

 ドレス姿のセレア様はとても可愛らしかったですが、今の新調した寝間着姿も可愛らしい♡


 もふもふの白色の寝間着を着ており、セレア様の足が露出され言葉では表現出来ない雰囲気を醸し出している。


 本を読む為に眼鏡をかけており、長い髪を三つ編みで束ねているセレア様に私は釘付けだった。


「私を殺す気ですか?」

「突然何!?」

「だって、だって!何でそんなに可愛いんですか?」


 また言い出したかのように呆れた表情を見せるセレア様。

 あぁその顔も可愛らしい。この表情は私だけにしてくれる、私だけに向けてくれる表情です♡


 セレア様を見る度に、セレア様の全てが私のものならと思ってしまう。


 拗ねた顔も泣き顔も怒った顔も笑顔も、全て独占したい。私だけに見せて欲しいと願ってしまう。


 私は知っています。

 笑う時に手で口を隠すのも、微笑む時は少し顔を傾けるのも、好きな物は最後に食べるのも、水色があまり好きでは無い事も、自分の噂を全て知っている事も、夜な夜な禁忌魔術を試している事も

 ―――――セレア様に前世の記憶があるのも。


 全て知っています。

 きっと前世の事は話してはくださらないのでしょう?


 セレア様にとって私が『推し』という存在で『妻』という存在なのも知っています。


 最初は私は推しという存在だったのかもしれない、でも今は違うでしょう?

 私を愛して、一線を越えて私を妻にしてくださった。


「セレア様。何も恐れることは無いんですよ」

「何の話?」

「いえ………お気になさらないでください」


 いつかセレア様の口から前世の話を聞ける日まで、私は待っています。

 前世の話が出て来たら、二人だけの世界で住みたいです。


 これは私の欲に過ぎませんけどね。


「愛してますよ」

「私も」


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 起きると隣にはスヤスヤと寝ているリリアナがいた。天使だ…。

 昨日は様子がおかしかったが、疲れていたのかな。


 様子がおかしいなんていつもの事かもしれないが、気に留めておくか。


「もう少しだけ寝るか。久々に疲れた」


 寝ようと思い目を瞑るが、リリアナが強く腕を抱き締めてくる為寝れない。

 胸が当たって気になってしまう。


 目だけ瞑って目を休めよう。視界に天井が入るだけでも頭は働いてるんだ。

 負担を減らそう。


 外は雪が降り積もり、軽装では外に出れない寒さをしている。

 アルカディア領に雪が降り積もるなんて誰が予想しただろうか。


 私の誕生日も近いな。アルカディア領で盛大に祝おうかな。

 自分の誕生日を祝う為に張り切るなんて、昔じゃありえなかったな。


「これもリリアナのお陰か」


 ボソッと呟くとピクッとリリアナが反応して起きる。


「おはようリリアナ」

「おはようございますセレア様」


 おはようのキスをし、私は起き上がって本を取りに行く。

 今日は休みだしゆっくりしよう。魔道具アーティファクトを作る気力も今は無い。


 ベッドに転がり本を読む私にリリアナが乗る。


「構ってください」

「この本読み終えたらね」

「……ずっとキスしてやりますからね」


 リリアナはそう言って私の至る所にキスをする。

 くすぐったいな。


 転生したと分かってから結構経つ、まだ私はリリアナに前世の話をしていない。

 するのが怖いのだ。嫌われでもしたらどうしようかと、今更怖気付く。


 もう少しだけ、この幸せに浸っていたいと思う。

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